9月30日書籍発売記念外伝④ 『戦』


――『大罪』vs『銅』 魔王戦争



 主のお気に入りである『大罪の魔王ソウイチ』と『銅の魔王パカル』の魔王戦争がついに始まった。

 日頃の魔王としての支援は主からの指示なので行っているが、魔王戦争に関しては基本的にリーナはノータッチであり、始まってしまえばソウイチの采配が全てなのである。


 理由として、早い段階でホムンクルスメイドがソウイチにだけ実は派遣されている事実を隠すためである。

 最初の魔王戦争以降は良いらしいのだが、最初は嫌だという主の気まぐれを遂行するのもリーナの務めなのだ。



「『銅』の能力と魔物の数で勝ちに行くスタイル……見た感じは『銅』が有利ですね」



 リーナから見たソウイチの魔王としての素質。

 敵の想定外のところから攻め、対応される前に勝ち切る戦術……とにかく自分のやりたい戦い方を押し付けることで相手の長所を発揮しづらくし、流れを持ってきたいと考えているタイプ。

 ただ……その戦い方をするには戦力も経験も、何もかも足りないというのがリーナの見立てである。


 魔王戦争は戦術&戦場で5割、真名持ちの強さ5割が基本……『魔名』ランクの高い同士の戦争だと真名持ちの強さ7割の重要さになってくる。



「あのハイオーガ1体に崩されそうですが……どうするのでしょうか?」



 下手な小細工は圧倒的な力の前では無力である。

 この考えは魔王界では当たり前のように考えられており、魔王であるならば正面から力で粉砕すべし……というソウイチが嫌いな考えが浸透してしまった要因でもある。


 まさしく『狂乱のハイオーガ』と『死霊銅霊鎧』の2体の魔物としてのパワーに破壊される展開がリーナとしては容易に予想できてしまうので、ソウイチがどう対応するのか少し楽しみになってきたリーナであった。



「『銅』の弱点は地上戦タイプの魔物しかいないことですね。ソウイチ様の先制攻撃が刺さる形になりますね」



 ソウイチが今回の魔王戦争で軸とする鬼蜘蛛の『爆弾』と『大罪』の状態異常付与効果による奇襲や待ち伏せ作戦。

 『銅』の力で武装されている魔物たち相手には非常に有効だと考えられるし、実際観戦していると、上手くソウイチの先制攻撃が成功しているのが映し出されていく。


 唯一無二の『大罪』の状態異常付与の力、初見で対策するのは難しく、今回の魔王戦争で見せてしまうのがもったいないくらい強い力ではある……が『銅』の魔物の数の多さに対応できるかどうかはリーナから見て、なかなか難しそうであると感じていた。



――ギャォォォォォォォンッ!!



 爆発と状態異常付与による混乱に満ちた戦場に響き渡る怒りの咆哮。

 ソウイチが築き上げた有利を一撃で吹き飛ばし、『銅』の軍勢に活気を取り戻したハイオーガの咆哮に、リーナは思わず苦笑してしまう。



「ソウイチ様……これが『個』の強さです。魔王戦争において……魔王において1番大事な『個』の強さです」



 リーナが思うソウイチが1番欲しているモノ。

 口には出さないが、単純に戦いにだけ特化した『個』の力を心の底から欲しているんだろうなとリーナは日々のソウイチを見て感じていた。

 コツコツやりくりしていくのも好きだが、何かに特化した力を手に入れて、猛スピードで破壊しながら進んでいく。

 そういうスタイルの方が好きそうな性格。それでいて搦め手を好み、自分の戦い方を押し付けて楽しむという……最高に嫌われるタイプの魔王であるとリーナは思っている。


 この魔王戦争は最初にも思った通り、ダンジョンまで攻め込まれた後、ダンジョンレベルが上昇したソウイチが配合を上手く出来るかにかかっている。



「魔物に配合物を選ばせていましたね……あまり聞いたことがありませんが大丈夫でしょうか?」



 配合は失敗する可能性がそれなりにある。

 魔物に混ぜるモノとして相性はしっかり考えなければ、せっかくの魔物と魔名が台無しになってしまう。

 『火』や『水』といった元素属性系の魔名が大人気なのは失敗する可能性が圧倒的に少ないからであり……『大罪』のような特殊な魔名はなかなか組み合わせが難しいのだ。

 そんな失敗が許されない配合物選択を魔物に任せたソウイチの選択、リーナ的には自分のセンスよりも、配合される魔物のセンスに任せた方が良いという判断だったのだろう。


 ランクが高いモノを混ぜても失敗するときは失敗するので、リーナ的には失敗したときのソウイチの反応も見てみたいと思ってしまった。



「細かくこだわる部分と、誰がやってもいいやって部分の判断が特殊な性格をしているので見ている分には面白いですが……」



 魔王戦争はリーナの予測通り、ソウイチの様々な策を『狂乱のハイオーガ』と『死霊銅霊鎧』の『個』強さに面白いくらいに破壊されている。

 『大罪』と鬼蜘蛛の力で抗っているが、良い感じの時間稼ぎにしかなっていない。


 ダンジョン深部まで『ハイオーガ』に荒らされ、なんとか鎧の方は撃退したところでダンジョンレベルが上がったのが確認できた。



「今後の運命を決める配合ですね。『大罪』の力を見せてもらいます」



 配合するためコアの場所まで急ぐソウイチたちを見ながら、少しウキウキが止められないリーナ。

 コアを召喚しなかったのは、さすがに危険だと判断したからであろう。


 事前に決まっていたおかげで、ガラクシアとポラールの配合は非常にスムーズであり、新たに誕生した2体を見て……リーナは思わずため息をこぼしてしまう。



「……これが主が監視をつける魔王ですか……なるほど、早くも魔王界もバランスを壊してしまいましたね」



 この監視の命令が一気に重いモノになったことに、リーナは肩の荷が重くなったと、さらに深いため息をこぼすのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る