9月30日書籍発売記念外伝③ 『師』


――『罪の牢獄』 コアルーム



 4人の冒険者を難なく洗脳することに成功し、『原初』からの詫品を開封する際に、相変わらずの豪運っぷりを発揮するソウイチを眺めるリーナ。


 ソウイチに絶対的に足りない信頼できる魔物数を解決するかの如く、ランダムチケットはBランクへの魔物へと姿を変えたのだ。

 あまりの豪運っぷりに、リーナも驚きを隠しづらく、あまりにご都合主義のような展開に少し引いてしまっている部分も出てきてしまう。


 1体目でブリザードイーグルを召喚し、Bランクの強さに感動しているソウイチを見て、このまま行けばSランクも当たり前になるとリーナは感じていた。



「今はお前の環境に適したエリアはないけど、いつか必ず作るからな」


(自分の『魔名』というよりは……完全に魔物の能力に合わせたダンジョンを作る予定のようですね)



 自身の『魔名』に依存したダンジョンや戦略を中心とする魔王が多い中、自分の力に制限が多いソウイチが、早々に魔物の能力に合わせて柔軟にダンジョン構造と戦略を練る方向性に変えたことに素直にリーナは感心する。


 魔物との距離感が近いソウイチらしい考え方……1体の魔物に焦点を当てれる考え方は数の暴力に対しての解答策さえ見つければ、強い魔王への仲間入りが可能になる考え方だとリーナは思っている。


 2体目に手に入れた鬼蜘蛛の能力を見て、自然と戦術を練るソウイチの姿を見て、やはり頭は良くないにしても魔王戦争で勝ち抜く力はありそうであると感じざるえなかった。


 魔物の能力にあった策を考えるのを楽しそうにする魔王……殺し合いを好きではないと言いながらも、戦争の才能にあるタイプだとリーナは評価する。



「今日来るんだっけか?」


「はい、間もなくいらっしゃるかと思います」



 『原初』の計らいとしてソウイチに先輩魔王がアドバイザーになるという、新米魔王からすれば最高のイベント。

 少し緊張しながら待つソウイチに対し、すでに『王虎の魔王ミルドレッド』が背後にいることを隠して嘘の報告を伝えるリーナ。



「油断していると不意打ちされてしまうよ?」



 ミルドレッド流の挨拶。

 先輩魔王として新米の気を引き締めようとする行動……とても親切な先輩魔王だとリーナはミルドレッドを見て感じた。



「戦いは戦争ばかりじゃないってことか」


「そういうことだね」



――パキパキッ パリンッ!



「ほう! 良い身代わりだね!」


「まぁ来ること分かってたんで」



 互いに普通のことのように流しているが、リーナからすればハッキリいって異常な光景である。

 ミルドレッドの常に気を引き締めろという無理難題に、ソウイチの危機察知能力と他者を信用すらしない精神。

 特にソウイチは自分が召喚した魔物以外……リーナですら信用していない異常っぷり……一体人間だった頃、何がそうさせたのかリーナとしても気になる一面である。



 互いに自己紹介を済ませながら、ダンジョンの説明を行うソウイチ。

 さすがの『大罪』の縛りの厳しさにミルドレッドも驚愕だ。そんな中でも楽しそうに戦の話をする2人を見て、リーナは相性の良さを考えて主が送ったのだろうと予測した。


 ソウイチに対する期待の高さにリーナとしても驚きである。



(魔王戦争の勝ち筋を考えるまでスムーズですね)



 先輩魔王の支援の1つとしての特別配合。

 鬼蜘蛛をさらに強化したことで、『銅の魔王』との魔王戦争の戦略がリーナにも見えてきた。

 数と質で下回る自分たちがいかに勝ちを拾えるかの戦い。ソウイチがやろうとしていることは魔王界では笑われてしまうような戦い方だ。


 魔王らしさ……そんなモノに拘ることの馬鹿らしさをあの激励会で学んだのだろう。如何なる手段をとろうとも勝ちに行く気概をリーナは感じたのだった。



(死んだら終わり……勝ちにこそ意味があり、手段や方法を一々問わないタイプ……これは勝ち残ることが出来たら荒れそうですね)






――『罪の牢獄』 居住区 食堂



 魔王戦争1時間前にして配下と食事をする余裕。

 リーナは配下と楽しそうに食事をとるソウイチを観察する。ミルドレッドと入念に準備をした結果、自分の土俵に相手の全戦力を誘い込んで撃退することを主として戦争を進めることにしたそうだ。


 ダンジョンレベルはギリギリ配合可能な8には届かなかったが、リーナの見立てでは、ダンジョン内に『銅』の戦力が侵入し、それを撃退していれば上がる流れに見えていた。


 『大罪』の力と『爆弾』を活かした戦術は『銅』がやってくるであろう。魔王らしい正面から魔物の圧と単純な力で押し勝つやり方にクリーンヒットするはずだ。



(ですが……それで勝てるほど甘くはありません)



 魔物の質も数も圧倒的に劣るソウイチが勝つには、もう1つ何か無いと届かないだろうと予測するリーナ。

 何が恐ろしいって、すでにギリギリの戦いになることが確実であることをソウイチが察していること……察しながら余裕をもって食事をしていること……リーナはソウイチに少しだけ恐れを抱いた。


 

(実は同じ世界からやってきた人間同士の殺し合いと知れたら……どうなるのでしょうか?)



 恐ろしく割り切りが速く、現実的でありながら甘さもある魔王。

 ソウイチが真実に辿り着いた時……どんな選択をするのか、リーナは非常に楽しみでありながら……ソウイチなら全ての予想を超えてくるのかもしれないという嫌な予感も感じてしまうのであった。



 

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