#5 集まれ、冒険者体験学習会!

後輩と暗い洞窟で……


 お待たせ致しました!

 ヤバエサ第二部スタートです。


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 俺──辻園つじその伊鞘いさやは今、月明かりが照らす森の中にある洞窟に入っている。

 それも地球じゃなくて異世界の洞窟だ。

 とはいってもダンジョンみたいに深い場所ではなく、あくまで夜風を凌げる程度の空間しかない。

 入り口付近でモンスターがいないか警戒中だが、適当な草木でカモフラージュしてるから簡単には見つからないだろう。


 外の様子を窺うのはこれくらいにして、中へと戻った矢先にある人物と目が合った。

 そう、この洞窟には俺以外にもう一人いる。


「──すみません、先輩。見張りまでして貰って……」


 冒険者の後輩──タトリ・フェアリンだ。


 カチューシャ編みにしている黄緑のセミロングヘアは下ろされていて、橙の瞳は負い目を感じているからか伏し目がちだ。

 魔法具の照明があるおかげで、顔色から内心を察しやすくなっている。

 謝ったのだって動けない自分の代わりに、見張り役をさせてしまった申し訳なさからだろう。


「足をケガしてるんだから仕方ないだろ?」

「でもこんなケガをしてなかったら、今頃はみんなのところに戻れたはずっす……」

回復薬ポーションも回復魔法が使えるだけの魔力も無い以上、ここで休んでからでも問題ねぇよ」

「……」


 魔法は身体強化しか使えない俺、魔力切れとケガによって動けないタトリしか居ないのだから仕方が無い。

 今取れる最善手を選んだだけだと宥めるが、タトリの表情は暗いままだった。


 その気になればサクラ達の待つキャンプへ戻れるのは確かだ。

 でもいくらS級冒険者だろうと怪我人を背負っていては、モンスターと遭遇しても逃げるのがやっとだろう。

 それで余計に道に迷ったりしたら意味が無いし、俺もケガをするリスクを負う羽目になる。


 だからここでタトリの回復を待つのがベスト。

 彼女も十分に理解している……いやだからこそ、俺を巻き込んでしまったと罪悪感を覚えているんだろうが。


 こういう時、気にするな、なんて言っても逆効果だ。

 それでも落ち込む後輩を見過ごしたくない一心で、俺はそっと彼女の頭に手を乗せる。

 唐突に触れられたタトリは目を丸くして見つめ返す。


「先輩?」

「いつもの生意気さはどこに行ったんだ? そんなんじゃ戻った時に心配されるぞ」

「っ! ……うっさいっす。そもそも先輩が回復薬ポーションを置き忘れなかったら、こんな風に籠もったりしなくて済んだんっすよ」

「ご尤も。でもそれくらい慌ててたんだよ。ケガだけで済んで良かった」

「ん……先輩が助けてくれたおかげっす」

「大事な後輩のためなんだから当たり前だろ」

「うわ、よくそんなキザな台詞吐けるっすね」

「おい」


 何もおかしなこと言ってないじゃん。


 少しは調子を取り戻してくれたようで、タトリの口から普段の生意気さが帰って来た。

 やがて彼女の頭から手を離すと、少しだけ寂しそうな表情を浮かべられる。


 ……悪いとは思うけど俺は彼女持ちだからな?

 いくら大切な後輩といえど、恋人以外の異性との距離は気を付けないといけない。

 でもサクラ達からは『絶対に無理』という不名誉な太鼓判を押されてしまっている。

 納得が行かない。


 脳裏でそんな回想をしていると、タトリが俺の肩に頭を寄せて来た。


 いや離れ辛いな。

 だって距離取ったら確実に傷付けるヤツだもん。

 かといってこんな状態を見られたら、浮気したとか思われそうだし……あれ、やっぱサクラ達の言うとおり無理なのか?


 そうして悶々と逡巡を繰り返している時だった。


「──先輩。前にもこんなことがあったの、覚えてるっすか?」

「!」


 その問い掛けに思わず目を丸くしてしまう。


 暗い洞窟の中で二人きり、ケガをした後輩タトリ、すぐに外へ出られない状況……あぁ確かにだ。

 つい懐かしさが胸に過り、不謹慎だけれど笑みが零れてしまう。


「もちろん。助けに来た人に向かってあれこれ邪推してたのも覚えてる」

「よ、余計なことまで思い出さなくてもいいっす!」


 当時の言動を黒歴史扱いしているからか、タトリは顔を赤くして非難する。

 今でも生意気で太々しいけど、出会った頃の彼女はそれはもうムカつくくらい生意気だった。

 いくら根っこからのだからって、あれだけ攻撃的かつ舐め腐った態度を取られたら普通に腹立つ。


 思い返すとよく耐えられたな、当時の俺。

 そういえば……。


「あの時からだよな? タトリが俺のことを先輩って呼び出したの」

「はいっす」


 俺の言葉にタトリが微笑みながら首肯する。

 懐かしい……それまで俺のことを人間って呼んでた彼女と、初めて心を通わせた瞬間だから鮮明に思い出せた。


「あれから俺以外の人とも会話するくらいにはなって、先輩として涙が出そうだよ」

「大袈裟っすよ。未だに先輩以外の人間とは意識してないと、まともに話せないままなんすから」

「それでも自分から歩み寄ろうとする気概は褒められるべきだ。少なくとも俺はタトリの頑張りを尊敬してるよ」

「っ……先輩の女たらし」

「なんで?」


 そんな下心で言ったつもりないよ?

 心外な罵倒に若干傷付いていると、不意にタトリが俺の手を握りだした。


 細くて柔らかい感触に驚いたが振り払ったりはしない。

 何せタトリが俺を先輩と慕ってから、こうやって握って来るのは珍しいことじゃないからだ。

 しかし当の彼女はやや不満げな面持ちだった。 


「むぅ……前は面白いくらいキョドってたのに、すっかり慣れた感じでムカつくっす」

「そりゃ三人の彼女がいるんだから、今さら手を繋いだくらいじゃ動揺しないって」

「う~わ二人きりなのに他の女の話するとかサイテー。それも堂々と三股宣言とか恥ずかしくないんっすか? あ~ぁ、純情だった頃の先輩はもういないんっすね~」

「理不尽が過ぎる」


 毒がよく回る舌だなオイ。

 三股云々は合意の上とはいえ気にしてるんだから刺さるわ。

 すっかり調子が戻ったみたいで何よりだけど、ちょっと言い過ぎじゃない?


「汚れた先輩にはこうしてやるっす!」

「うわっ!?」


 そんな呆れに近い感想を浮かべていたら、タトリが飛び付いて来た。

 非力なエルフの血を半分引いているが故にそこまで強くないが、足のケガがあるから大きな動きは出来ないと思っていただけに、俺はまんまと押し倒されてしまう。

 とはいえ痛みが走ったのか、見上げた先のタトリは少しだけ顔を顰めていた。


「ってて……」

「……ケガしてんのに無茶するなよ」

「でも無理に退かそうとしない辺り、先輩は優しいっす」

「タトリ?」


 先程と打って変わってどこか感傷的な声音が引っ掛かり、思わず呼び掛ける。

 その問いに構わず、タトリは橙の瞳で俺をまっすぐに見つめた。


「──先輩」


 真摯な呼び声に堪らず気を整える。

 気付けば両手は彼女に握られていた……それも指を絡める恋人繋ぎに。

 これに動揺しないのは流石に無理だ。

 目まぐるしい事態に茫然とする俺に、タトリがゆっくりと口を開く。


「早く、彼女さん達のところに戻りたいっすか?」

「そりゃ……戻れるなら。でも──」

「──実は一つだけ、方法があるっす」

「!」


 返答を遮ってまで重ねられた断言に驚きを隠せない。

 その言葉から察するに、タトリには初めからその方法とやらが浮かんでいたんだろう。

 秘めていたそれを今になって口にする理由は分からないが、可能だと判断したなら聞くべきだ。


 そこまで考えてからゆっくり頷くと、タトリが小さく微笑む。

 どうしてそんな表情をするんだろうか。


 そんな疑問が浮かんだと同時に彼女は告げる。


「簡単なことっすよ。先輩の──をタトリが貰うだけっす」


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 次回は12月8日更新です。


 新作ラブコメ

【迷子になっていた妹を助けてくれた清楚な美女は、春からクラスの副担任で俺達の母親代わりになった件】を投稿してます。

https://kakuyomu.jp/works/16816700425926526591


 ヤバエサ更新の合間にお付き合い頂けると幸いです。

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