第80話 80 舞踏会 シャーロッテ・ルメートル
「よろしくね、ローラン」
「あぁ」
ふわりと、百合の花びらのようにドレスの裾を上げてお辞儀をするシャロの仕草はさすが族長の娘であった。
樫の木を中心にオーケストラ楽団が音楽を奏でる。
男女がペアとなり、手を取り合ってダンスを踊る。
それは舞踏会であって、ローランは当日まで聞いていないイベントであった。
前世では小さな貴族出身であったため、正式なダンスの教養はあったものの、それが今世でも通用するかは分からない。
シャロの手を取る。
その手は女性にしては少し硬い、特訓の跡が残る逞しい手であった。
彼女は何事にも目標を持って向かう素晴らしい戦士だ。
ローランはシャロの腰に手を回し、キュッと引き寄せた。
シャロから黄色い声が漏れる。
「ローランは踊れるんだね」
「少しだけな」
この舞踏会は魔王が企画したもので、男女ペアでダンスを踊り、合図と共に男女が分かれて、別の相手とダンスを踊る。
ローランの最初の相手はシャロであった。
シャロはローランのリードに合わせてステップを踏む。
それはまるで、朝の訓練の時のようで、お互いにわかり合ったリズムであった。
ローランがそう感じるように、シャロもそう感じたようで、互いに笑みが溢れる。
彼女との出会いは入学してすぐの寮の中だった。
最初は男子を装っていて、貧相な体躯であったため、ローランも華奢な男の子と思っていた。
相部屋となり、共に過ごす中で違和感もあったが、それはエルフ特有のものかと勝手に解釈していた。
貧相な割に戦士を目指し、日々苦悩している姿をローランは隣で見ていた。
時には特訓も手伝った。あまり良い指導はできなかったが、彼女はついてきた。
しかし、結果は出なかった。
そんな暗い一年生を過ごした彼女を大きく変えたのは紛れもなく魔王との出会いであろう。
ローランが警戒する中、シャロは簡単に魔王を受け入れた。
魔王の素性は知らないはずなのに、友達になりたいと手を差し伸べた。
彼女の器の大きさを垣間見た。
そこから、シャロは魔王に剣術、掃除、料理など多くのことを学んだ。
今では魔王と交代でキッチンに立っている。
そして、一番の変化は男を偽り暮らす日々との別れであったとローランは思う。
エルフの村の危機を救った時からシャロは生き生きと日々を過ごすようになった。
短く切った金髪に細い腕に膨らみのない胸が今目の前で美しく舞う少女であると誰が思うだろうか。
気高く、美しく、愛嬌があって、感情を豊かに表現するルームメイト、シャーロッテ・ルメートル。
「どうしたの?ローラン」
彼女との過去を振り返っていると、シャロはローランの様子を心配そうに見つめていた。
「変わったなって」
「何が?」
「シャロが」
「ボク!?」
キョトンとした顔を見せるシャロだったが、すぐにローランの言いたいことが分かったようだ。
「ボクが変わるきっかけをくれたのはローランだよ」
「俺は何もしてないぞ」
「ローランはそう言うとこ、直した方がいいと思う」
シャロはいつもと同じように濁しながら忠告する。
ローランからすれば、シャロのその忠告の仕方の方が直した方がいいと思う。
「ボクは感謝してる。ローランにもマオさんにも。一年生の時の自分に今の状況を話したら絶対信じないと思うよ。
戦士科では上位に入って、髪は編めるくらいに伸ばして、淑女って言われるようなドレスを着て、憧れの人と踊れるんだ。
今のボクは幸せ者だよ」
「憧れの人って、師匠的な意味か?」
「色んな意味だよ、ばーか」
シャロはお茶目に笑った。
鈍感なローランはその意味を理解できなかった。
シャロはそれを分かっているようで、呆れたような視線をローランに向ける。
「ローランは変わらないね」
シャロは皮肉を込めてそう言った。
それをタイミングに大広間に鈴の音が響く。
それは男女のペアが別の相手に入れ替わる合図であった。
「またね、ローラン」
シャロは少し余韻を味わうようにローランの手を強く握って、潔く離す。
一瞬曇った表情を見せてたが、すぐに笑顔を作り、ローランから離れていった。
前世で勇者だった俺が魔術で召喚したのは前世の魔王だった 〜前世の宿敵は今世の仲間?〜 満地 環 @monkidion
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