Chapter4 卒業プリンセス
第64話 64 勇者と女神
ローランは不思議な感覚を覚えた。
確か、魔王の作った夕飯を食べて、シャロと今日学校であった事を話しして、適当な時間に寝たはずだ。
なので、今寝ているはずなのだが。
辺りは星空のように深い闇に覆われた空間であった。
ただ、何故か視界ははっきりしており、正面には一脚の椅子が置かれていた。
そして、思い出した。
ここに一度、ローランは来た事があった。
それは前世で魔王と激戦を繰り広げ、相打ちとなり、生命を落とした後。
女神と名乗る女性と話をした空間だ。
「こんばんは、勇者様」
そうやって、最近では魔王くらいしか呼ばない愛称を気安く呼ばれる。
正面の椅子にはいつの間にか、その女性が座っていた。
赤より紅い長い髪に
ただ、天使のような翼は持ち合わせていないようだ。
真面目な性格なのだろうか、椅子に触る姿は膝に手を乗せて背筋を伸ばしている。
まるでリクルート女子の面接待ちのような態度である。
挨拶をしたのに返ってこないことに不安を感じ、少し焦りを見せている。
ローランはずっと考えていた。見たことあるのに名前が思い出せないやつ。
これは悩む。知ったかぶりをして話を合わせるべきか、失礼と分かっていて名前を聞くのか。
知ったかぶりをした場合は、気づかれずに合わせ切ったら相手を傷つけずに済むが、気づかれた場合信用は地に落ちる。
名前を聞いてしまう場合は、最初は傷つけてしまうかも知らないが、その後の会話は円滑になるだろう。
しかし、その場合、切り出すのに勇気がいる。
自力で思い出すまで時間を稼ぐ作戦もある!
天気の話とか……辺りは闇で天気など無かった。
「あ、あのぅ。もしかして私のこと忘れてしまいましたか?死後すぐに会って、混乱されてましたし……」
行幸!相手から聞いてきた。
「そ、そうですね。すみません」
「いえ、謝らなくて大丈夫ですよ。あの時も驚かれてましたもんね。改めて、私は女神リオシーナ、この世界ではリオス教と呼ばれる宗派の女神です」
リオス教は聞き覚えがあった。
それは、魔法国でも最大の宗派であって、リオス教のための聖教国家も存在するほどのである。
「私は貴方を転生させる時、約束をさせていただきました。それは、覚えていますか?」
ローランは首を振る。
リオシーナとの話は何も覚えていないのだ。
リオシーナは苦笑いを浮かべる。
少しショックを受けているようだ。
「その時の内容は、四年後に現れる魔王を倒してほしいという事でした。どうでしょう、思い出しましたか?」
「なんとなーく……」
嘘である。何も思い出していない。
ただ、これ以上この天使様の顔をショックで埋めたく無いと思った。
「そうですか!」
彼女の顔がぱっと明るくなる。
ちょろい。
「貴方が冒険者として活躍されて一年、何故か魔法学校に入学されて二年が経ちました。後一年、魔王が現れてこの世界が混沌に包まれます。それを防いで欲しい」
「防いで欲しいってどうやって……?」
ローランの困った顔をみて、リオシーナも困り顔を見せる。
「魔王の復活は条件によって変わります。私も何度も繰り返しましたが、出現場所を確定させたことはありません。
ただ、突然現れて、世界が崩壊する。
それが戦争であれ、巨大魔王の進行であれ、世界の崩壊を繰り返しています。
だからそれを止めて欲しいのです」
「繰り返しましたって、女神も転生してるのか?」
「転生というより輪廻ですね。女神の仕事は世界の調和を保たことですので」
ローランには計り知れない話であった。
理解に苦しむとはこのことだ。
「生憎、勇者様のおかげで
エルフ一族は平和を保ち、ルメートル家は存続。
呪われたルーガルーは命を落とさず生還。
帝国を嫌う魔術師は皇女と深い絆を持ちました。
これは、これまでとはまるで違う世界線です」
褒められているのかよく分からなかった。
しかし、その表情はご機嫌なようで、褒められていると受け取る。
「これはもしかするかもしれません。当初は剣術を極めた貴方が突如魔法学校へ入学する奇行に驚きましたが、こういうことだったのですね」
こんな一人の空間に長く居過ぎたせいだろう。
言っていいことと悪い事を弁えていない女神だ。
しかし、魔王が降臨する?
魔王はもう降臨しているが。
「何かヒントは無いのか?防いでほしいなんて漠然と言われても行動のしようもないぞ」
どこに現れるか分からないことは分かった。
しかし、だからと言って魔法国にいて世界の反対側に魔王降臨なんてことになったら、防げるものも防げない。
リオシーナは少し考える仕草を見せる。
そして、思い出したような言う。
「そうでした。アイリス・アンデルセンを死なせてはいけません。彼女はどの世界線でも重要な役割を持ち、彼女が死んだ世界線は必ず破滅へと向かいます」
元生徒会長、アイリス・アンデルセン皇女。
最近では魔王やマーリンと交友を広げている。
どうにも帝国の継承を狙っていると言う話まで聞く。
その彼女を守れとリオシーナは言った。
「後一年です。貴方が魔法学校を卒業する頃に、世界を滅ぼす魔王が現れます。必ず、その滅亡から救ってください、勇者様」
そして意識が遠くなるのを感じた。
それは覚醒であって、気がついたらいつものベッドの上であった。
まだ暗く、窓の外は満点の星空が輝いていた。
隣のベッドでは枕を抱えて寝るエルフ。
その他には誰もいない。恐らく魔王は使用人用の部屋で寝ているのだろう。
窓の外を見る。
ローランはふと、人影が通ったのを感じた。
闇夜である。はっきりではなかった。
ただ、胸騒ぎがしたので、外に出てみることにした。
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