第38話 38 勇者と冒険者ギルド 3

 リリアンの言葉でさらに固まったのはマーリンであった。

 石化というより銅像になってしまったのかと言うほどカチカチである。


「ローランさんのパーティは人手とレジストできる人が必要なんすよねー。そして、マーリンさんのパーティは人手と前衛ができる人が必要……。もうこれは合体するしか無いっすね!!」


 まるで太陽かのような満面の笑みでリリアンは言う。

 その笑顔に周りの筋肉ダルマからも歓声が上がる。


 確かにリリアンの言っていることは理にかなっている。

 パーティとしての要素、前衛、レジスト、遠距離、治癒。

 魔法学校それぞれの学科がパーティ要素であるのだが、パーティというのは最低でもこの四つの二つは踏まえておく必要がある。


 魔術はレジストと遠距離を踏まえることができるから、この四人で組めば治癒以外の三つの要素を得ることができる。


 今のマーリンを見る。

 学校の制服以外の冒険者用ローブに良く背中に担いでいる杖を持っている。恐らく、冒険者としてのしっかりした装備なのだろう。

 横にいるニィーブもよく似たローブに身を包んでいる。


 クラスメイトであり、ここまでしっかり準備しているマーリンたちを気安く誘うには少々遠慮を感じる。


「なんです?あなたは!我が師をジロジロ見て。可愛いからなのは承知ですが、目に焼き付けすぎですよ」


 混乱の中、状況把握でマーリンを見過ぎたのか、ニィーブと呼ばれた少女が絡んでくる。

 マーリンを我が師と呼ぶほどの関係。

 マーリンの弟子なのだろうか?


 しかし、ちんちくりんなマーリンと背の高いニィーブ。見た目的には師弟は逆だと感じる。


「ニィーブは黙って。ローラン、レジストならアークデーモンは?」


 至極真っ当な質問だ。

 ローランの召喚獣である魔王も加えておけばレジスト要因は確保できる。それでも人数は足りないが。

 しかし、今日魔王は朝からセシル先生に呼び出しを受けていた。


 魔法学校転入がいよいよ本格的に動き始めているようで、魔王は魔王で忙しい夏を過ごしている。

 転入手続きは既に済んでいる。今は、一年、二年で習う魔術の基礎を学んでいるらしい。


 寮にいるため、セシル先生が職員室に待機しているときは簡単な魔術の講義を受けている。

 魔王は独学で魔術を使っている為、基礎が学べる良い機会と夕飯のときに話していた。


「あいつは今忙しい」

「今日はいないのね、少し残念。ローランはブリーズウィーズルを狩りたいの?」


 マーリンは少ししょんぼりした様子を見せる。


「あぁ、四人で割っても、猫探しや猪狩りと比べたらいい報酬だ」

「わかる。報酬は良い。ローランと意見は同じ」


 これはリリアンの提案を受け入れるという意味だろうか?

 マーリンはローランを見つめ、深く頷いている。


「あ゛あ゛。我が師、今日はデートと約束したではないですかぁ゛!!」


 女性が発するには濁い声がニィーブからでる。

 悔しさや妬ましさから目から血がでるのはというほど真っ赤になっており、唇はぷるぷる震えている。


「冒険とは常に状況が変わる。予定は予定でダメなら諦めるのも冒険」

「はっ!我が師」


 なんだ、この二人は。

 ニィーブはマーリンに心酔しているのはわかる。

 しかし、ニィーブのキャラはマーリンは苦手そうなのだが、しっかりコミュニケーションとれている。

 なんか意外だ。


「ローランとシャロはニィーブ知らない?自己紹介して」

「はい!私はニィーブと申します。魔法学校魔術科一年です。好きな物はマーリン様、嫌いな物はマーリン様以外です」


 コイツはやべーやつだ!

 しかも後輩ということに驚いた。


「ニィーブ、この人はローラン。私のクラスメイトで朝一緒に登校する仲」


 うっわ、すっごい殺気。

 こう、睨みを向けているのは分かるけど、その充血した目で見るのは不気味だからやめてほしい。


「そして、この人はシャーロッテ。戦士科でローランのルームメイト」

「ん?女性ですよね。……ローランさん、無許可で連れ込んでるクズですか?」

「ちがう!」


 ニィーブの訝しむ視線を強く感じる。

 学校の寮で男女で使用しているのはローランの部屋だけだ。


「あと、アークデーモンの女性と一緒の部屋」

「クズ」

「おい、マーリン。変な言い方やめろ!」


 いよいよ、ニィーブにクズ認定される。

 シャロは特に止める様子もなく、楽しそうに笑っている。


「まぁ、クズかどうかは分からないけど、実力はあるから。魔術以外だけど」


 そう言ってシャロがフォローしてくれる。

 フォローになっているか?

 ニィーブからじーっと視線を向けられるが、その後に諦めたのかため息をつく。


「まぁ、我が師が決めたことです。従います。せいぜい、我が師の足を引っ張らないで下さいね」


 この子、本当に魔法学校の後輩なの?無茶苦茶失礼なんだけど。

 しかし、実戦のマーリンを見るのは初めてだし興味があった。魔術科二年の主席がどれほどのものか。


 魔法学校の勉強ができるから実践が強いと言うわけではないが、こういった長期休みに冒険者として仕事をしているとなると実践経験があるのだ。


 ローランだって、今回の冒険者ギルドへの目的はお金稼ぎの他にシャロに実践経験を積ませる為だ。

 それだけ、実践とは大切なのである。


「それじゃ、マーリン。よろしく頼む」

「うん、お互い頑張ろう」


 そうやってぎゅっと握手した。

 その小さく柔らかい手は温かかったが、マーリンの後ろから刺さる弟子の視線は冷たかった。


「それじゃー、紹介そこそこに依頼内容の打ち合わせするっすよー!」


 そう言ってリリアンがパーティの仕切りを始めて、打ち合わせが始まったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る