Chapter3 退屈ウィッチ

第36話 36 勇者と冒険者ギルド 1

 夏休みも残り数日となった。

 今年の夏休みは夏祭りや王都、海などなどいろいろなところに出かけた。

 ローランは思い出作りに花を咲かせた反面、自身のお財布事情にため息をついた。


 どう考えても使いすぎている。転生して魔術を学びたいとお金を貯めていたが、日々の生活を送るにつれて減っていき、さらに旅費まで使った。


 夏休みの残りはお金を稼がないとと思っていた。


 さて、ローランがどうやってお金を稼いでいたかについてだが、簡単に言うと「なんでも屋」という仕事がある。

 これは、ローランが勝手に呼んでいる俗称であるが、正しくは「冒険者」というものだ。


 個人や街そして国といった困っている人たちに協力をする職業であり、迷子の猫の捜索から傭兵までやる事は多岐にわたる。

 依頼を受け、成功する事でお金が貰う単純なものだ。


 そして、そういった依頼を纏めているのが「冒険者ギルド」であり、だいたいの街にだいたい支所がある。


 もちろん、この魔法国にも大きめの冒険者ギルドがあった。


「大きいねぇ……」


 冒険者ギルドと書かれた大きな看板とその横にそびえ立つ巨大な建築物を見上げながら、そのエルフは声を上げた。

 肩ほどまで伸びた金色の髪に種族特有の整った中性的な顔立ち。

 しかし、その顔立ちも長くなってきた髪の毛や服装などで女性らしさに溢れてきている。

 また、ここ最近急成長をみせた豊満な胸は、戦闘用の胸当てに抑えられている。


 学校の訓練用の制服とは別に拵えた装備一緒を着込んだシャーロッテは感嘆の声を上げる。


「魔法国は人も多いし、冒険者も多いからな」


 ローランは目を星の様に輝かせるシャロに応える。

 ローランはお金稼ぎに冒険者ギルドを訪ねることにした。

 部屋を出る際、修行帰りのシャロに見つかってしまい、事情を聞かれて、どーしてもついて行くと駄々をこねられた。


 駄々をこねると言っても頬を膨らませたり、ご飯の味が変わるよと脅されたりしたくらいである。

 ローランと魔王にとっては、シャロの実践訓練もそろそろしたいと話していたので良い機会だと思ったので連れていくことにした。


 シャロの夢は冒険者になること。

 なら、ここのギルドで登録の手続きを済ませてしまうの良いだろう。

 こんな形で夢が叶ってしまうのはシャロ的には良いのか?と疑問もあるが。


「ねぇ、早く登録に行こう!」


 まるで遊園地に来たかのようにはしゃぐシャロ。

 冒険者が出入りしているエントランスを指差している。


 こらこら、急がなくても登録は逃げないぞー。

 なんて先を進むシャロを追いかける。


 冒険者ギルドという施設はどう言ったところか。

 依頼の斡旋だけではなく、冒険者としの資格手続きや害獣などの戦利品の買取、戦いに必要な消耗品の販売、宿屋の提供、食堂の開放などいろいろだ。


 ほとんどが冒険者の為にある施設である。

 その為、ノープランで街を訪れた冒険者でもギルドさえ有れば何とか生活できる。


 一階は依頼の受付や物の売買、あと護衛系依頼の待合せ場所になっている。

 一番人が多いところであり、ローランたちは朝一に訪れてにも関わらずその賑わいは夏祭りを連想させる。


「これが全員冒険者?」

「いや、依頼のお願いにきた人たちとか商人とかも混じってる。あそことか騎士団がいるだろ?多分国の依頼だ」


「国の依頼!?」


 シャロはオーバーなリアクションを取る。

 それだけ興奮しているのだろう。職業見学に来た子供の様だ。


「国の依頼は報酬がいいけど、危険だったり責任が重いのが多いから熟練の冒険者用の依頼になるな」

「そっかぁ、じゃあ今すぐに受けれるわけじゃないんだね」


 貴族の暗殺者からの防衛や国の戦争、強力な魔獣の討伐など厄介な依頼が多い。

 また、そう言った依頼にはランクがある。

 低い物からF、E、D、C、B、Aとなっていく。

 国の依頼などほとんどAだ。


 また、冒険者にもランクが同じようにある。

 冒険者のランクが依頼のランクより一つ上以下でなければ受けることができないのだ。

 因みにローランはDである。シャロは登録を済ませると一番低いFになる。

 ローランは依頼ランクC以下、シャロはEかFでなければ受けられない。


 また、依頼の達成度や依頼主からの評価などでランクは上がっていくという仕組みになっている。


「おっしゃすー」


 ローラン達が受付に行くと気の抜けた挨拶が受付より返ってくる。そこには、睡魔と格闘し、敗北寸前でカウンターに突っ伏している受付嬢の姿があった。


「久しぶり、リリアン」


 ローランは微かに開いた目に向かって挨拶をすると、リリアンと呼ばれた女性はがばっと身体を起こした。


「あっれー?ローランさん、お久しぶりです。どーしたんですか?あれ?可愛い子!」


 さっきまでの気怠そうな態度から一変、ハキハキとローランたちに話しかける。

 このリリアンという受付嬢は魔法国の冒険者ギルドの名物受付嬢だ。いわゆる看板娘。


 この仕事態度のオンオフが特徴であり、常連には親しく、一限さんには冷たいという中々クセのある受付嬢だ。


「今日はこの子の冒険者登録とお金になりそうな依頼を受けようかなって」

「マジっすか?まって、書類書類〜」


 そう言って、カウンターの下から何枚か紙を取り出す。

 冒険者登録の手続き用書類だ。

 リリアンはシャロに記入を促すと、ローランへと話しかける。


「にしても、見ないと思ったら彼女連れてくるなんて隅に置けないっすねー」

「あっ!!」


 リリアンの声に反応してのか、シャロが大きく声を上げた。

 ローランが何事かと見ると、ペンが滑ったのか紙がビリビリに破れていた。


「おかしいっすねー、この紙、筋肉ダルマどもでも破れない設計にしてるんすよー?」

「ごめんなさい」


 筋肉ダルマとは屈強な冒険者のリリアンなりの俗称だ。

 リリアンは不思議そうに新しい紙をシャロに渡すと、改めてローランに話しかける。


「それで、どこまで行ってるんすか?もしかして、もうCとか行ってるんすか?」

「あっ!!」


 そしてまた紙が破られた。

 シャロは紙を破ったのが恥ずかしいのか顔が真っ赤である。特徴的な耳まで赤く染まっているので、かなり動揺しているのだろう。


「可笑しいっすねぇ……」

「す、すみません。話題を変えてもらえませんか。集中できなくて……」

「あー、ごめんなさい。いやー、配慮が足りなかったっすよー」


 リリアンはたはーっと額に手を当てながら新しい紙を取り出した。

 これが名物受付嬢のキャラクターである。

 彼女に気に入られると、独特な絡みを受けるが良い依頼を優先的に回してくれる。


「それで、なにか良い依頼はあるか?」

「恋バナはスルー!?うーん、まぁ、最近平和なので害獣駆除くらいっすね」


 そう言って束になっている依頼の用紙を持ち出す。

 どれも郊外の畑を荒らすイノシシの駆除や、住み着いた野狼の討伐、村に近づいている熊の討伐などなど。

 ランクとしてはFやEであった。


「書けました」

「おっつー。記入漏れも無いっすね。おっ、エルフの村の族長の家系っすかーふむふむ」

「おい、人のプライバシーを覗くなよ」

「これは私の特権なのです。問題ないっすね、奥で冒険者カード作ってもらってくるっす」


 そう言ってリリアンは奥の事務所に消えていく。

 ローランはカウンターに並んだリリアン厳選依頼書に目を通す。

 ランクに合ってお金になる依頼。


 すると、依頼書の中に他の依頼より報酬の高い依頼があった。

「ブリーズウィーズルの討伐……」


 森に住み着いた風魔術を使うイタチの討伐であった。

 凶暴で魔術を扱うため村人では手がつけられないと言う物であった。

 依頼ランクはEだ。シャロも受けられる。

 これにしようと、ローランは依頼書を手に取った。

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