第35話 35 嘘吐ルーガルー
ここまで大きな催しになると誰が予想しただろうか。
それは学生の頑張りだけではなく、街全体の協力が有って成り立ったものだろう。
きっと帰省した生徒たちは後悔する。
あの、ハイメすら今年の帰省は断って、委員の仕事である警備と交代した時のお祭り参加に期待を寄せているのだ。
夕刻から夜につれて人の混みようは目に見るように増えていった。
ローランたちは屋台を歩いていた。
ローランの他に、魔王、シャロそしてルナがいた。
そして、みなはシャロの提案で東極の鬼人族が夏祭り着る「浴衣」というものを着ていた。
シャロは淡い水色に赤い魚の柄が付いてたものであった。
魔王は真っ黒で、桜の花びらの柄が施されている。
ルナは濃い赤で柄は特についていないものにした。
ローランは適当に選んだ甚平である。
全て、シャロが街で見つけてきたレンタルであった。
周りの人たちが私服であったため、浮いているように感じたが、なかなかお祭りの雰囲気には合っていた。
それよりも、魔王への視線が凄かった。
極東の鬼人族と同じ長い黒髪をまとめ上げ、簪で止めていると、うなじがあらわになる。
すれ違う人たちはそれはもう、そのうなじに釘付けになった。
男のみならず女性もである。
これは、今後の夏祭りの恒例になるかもな。なんて思ってしまう。
時折、勇気あるナンパ男たちが魔王にチャレンジする。
「全てをぶつけて来い、ひとかけらも残さぬわ!」
大体、その男たちの自尊心は一欠片も残らない。
日が沈み、開けた場所で休憩をしていると、シャロより別れて行動したいと提案があった。
何故かルナと示し合わせたように話しているし、魔王はりんご飴を舐めながらすまし顔で聞き流している。
シャロは魔王の腕にしがみつく。
二人で行動するようだ。
この師弟は本当に仲がよく、見ているこっちが微笑ましくなる。
二人は楽しそうに話をしながら、人混みへと消えていった。
「いきなり別行動なんて聞いてないぞ」
「シャロは見た目より、おてんばだね」
くすりとわらうルナにローランが訝しんだ視線を向ける。
「ルナ、シャロ呼び捨てだったっけ?」
「色々合ってね、仲良くなった」
ローランはふーんと返事をすると、にこりと笑う。
「でも、良かったよ。お前に親しい人ができて」
「そうだね。これは、ローラン君のお陰でもあるんだ。ありがとう」
ただ、ただ感謝を述べた。解呪もその後のケアも全部ローランのお陰である。少し、こう、心の煩いはあるが、前向きに生きていけるようになったのは紛れもなく、彼のおかげなのだ。
「しかし、私はまだ嘘をついてしまう時がある。吐きたくないと言ったのに」
「嘘をつくくらいいいんじゃない?人なんだから」
出来るだけ人と接する時は本心をなんて誓っても、いざと言う時は簡単に嘘をついてしまう。
それが、人を傷つけない嘘であっても、嘘は嘘であり、吐いたことに後悔している時もあった。
「俺の知り合いなんて、王様に嘘をついていたしな。ルナもそれくらい度胸持たないとな!」
快活に笑うローランにルナは呆れて表情をする。
この男は、私が嘘を吐きたくないと言っているのに、もっと吐けと言ってくる。
私をどうしたいのか。
「知ってる?ローラン君、王国では王への嘘は極刑なんだよ。即死刑」
「えっ、そうなの?」
「嘘ついてこようか?ローラン君も道連れで」
「やめておこう」
「ローラン君に度胸ないじゃん」
ルナは笑う。
それに釣られてローランも笑う。
「まぁ、嘘自体が悪いわけじゃない。使い方だ。俺は、今のお前の使い方は正解だと思っている」
「うん、ありがとう」
すると、校舎の入り口から実行委員出てきた。
「これより、展望台を開場します。チケットをお持ちの方はこちらにお並びください」
いよいよ花火大会の準備が始まった。
「いこ、ローラン君」
「え、どこに?」
「花火、いいところで見よ」
実はまだライラからチケットを貰ったことを話していなかった。
ローランは戸惑った様子でルナに手を引かれて行った。
――――
「あのチケット買ったのか?」
「いや、ライラから譲ってもらったよ」
私にとっては一度見た光景だった。
しかし、ローランはそうではないので魔法国を一望できるその壮大な景色に興奮気味だった。
こういう無邪気なところに可愛いと感じてしまう。
男性はこう言うことを言うと嫌がるのだろうか?
可愛いよりかっこいいと言われたいのかなぁ?
「チケットあるなら言ってくれよ。誘ってくれてありがとう」
にっと笑う彼の顔は眩しかった。
私に取っては太陽のような笑顔である。
今の私には暑過ぎるのだ。
それは、太陽に恋したひまわりのように、見つめ過ぎる枯れてしまうようだ。
私にはシャーロッテの様な器もなければ、アークデーモンの様な冷静さもない。
この笑顔を独り占めしようと考えれば考えるほど、恐れ多く感じてしまう。
私にとっての光――――
「わぁ!」
と、歓声が鳴った。
その大きな花火が魔法国の空を彩った。
一つ一つが火薬の光だけれど、そのロマンチックに広がる光に誰もが魅了される。
ローランもまた、そっちを見てしまう。
その横顔はかっこよかった。
花火など目に入らない。
彼の、その顔をずっと見ていた。
(あぁ、告白なんてやっぱり度胸はないな。
今はこうやって横に居られるだけで満足してしまう。
もっと――もっと――成長して、彼にとって相応しい女性になって――。そして――、だから、もう少し友達のままで居たいって、自分に――
――――嘘を吐いていたい)
ローランの頬にふと
それは、花火に見惚れていて見逃してしまっていた。
ただ、気づいた時にはルナの顔が離れていた。
確かめる術はない。
「今、何かしたか?」
「何でもない」
ルナはそう言って、
――――
花火大会も終わり、閉幕の際の校長のお話ではこれからもこういった行事は大切にしたいとのことであった。
後ほど、アイリスやライラからお礼を頂いた。
魔王は分かれた後、金魚掬いをし、店主を泣かせたらしい。
両手一杯の金魚たちにどうするのか訊ねると、
「飼い慣らし、私のしもべにする」
と言っていた。植物のみならず動物にも手を出し始めた。
魔王が管理するなら問題ないだろう。
ルナはなんだか、スッキリしたみたいだった。
それだけ、花火を見れて嬉しかったのだろうとローランは勝手に解釈した。
ただ、あの頬の感覚が何だったのかは分からないままであった。
こうして、夏祭りは大成功で終わったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます