第34話 34 人狼とバッタリ
夏休みに入った。
去年のルナにとっては夏休みは心が休まるイベントの一つだった。
なぜなら、部屋に篭って人と会わなくて良いし、授業が無いため好きなタイミングで温室に行けたからだ。
ただ、今のルナにとっては退屈なイベントに代わってしまった。
夏休み中の植物の世話は当番の先生が日々入れ替わりで水やりをしてくれるということで、委員はそこまで動かなくていい。
これは植物委員で帰省する生徒への配慮で、当初からの決まり事だったそうだ。
だから、会う口実が無かった。
夏休みに入る前であれば夏祭りの打ち合わせやら、学期末テストの勉強会やらでローランの部屋に押しかけたことはあったが、夏休み中は遊びに来たという口実しか考えつかない。
別にそれでも良いのだが、恥ずかしいのだ。
それに、手持ち無沙汰になってしまう気がしてならない。
夏休みに入ってからはそんな悶々とした気持ちを抱える毎日が続いていた。
だから、今日は気晴らしに街に買い物に出ていた。
昔はこんな人混みに入ると体重の無かったルナは大変なことになった。
もみくちゃというかシェイクされていたが、今は違った。
だから、思う存分ショッピングができた。
特に気になったのは服であった。
今年は外出が増えたらいいなぁと願望を持っていたので、外用の服を買うことにしたのだ。
そして、自分の嗜好に会うアパレルショップに入った時だった。
「あ」
「あ」
出会ってしまった。
春から伸ばし始めている髪から覗く種族的特長の長い耳。
くりくりとした目は可愛らしいと言う表現が一番合う。
夏ということもあり、肩まで出した夏用ワンピを着用しているが、その日焼け知らずの腕の今後が気になってしまう。
ただ、ルナには到底できないその女の子らしい服装に憧れるを感じる。
彼女もまた、服を探しに来ているのだろう。手に持ったふりふりのスカートを持ったままこちらを見ていた。
その服屋にはローランのルームメイトがいた。
――――
「奇遇だね」
「ですねー」
ルナにとってはその場から立ち去る選択肢もあったが、彼女にはテスト勉強会でもお世話になったし、その時夕飯もご馳走になった。
だから、そんな失礼なことはできなかった。
彼女に服を探しに来たと伝えると、何故か彼女のコーディネートが始まった。
どうにも、彼女自身の体型ではどうにも着る勇気のない服を着せたいようで、スキニータイプのパンツを持ってきたり、黒を基調としたダークな柄の入ったシャツ、あとキャップを被らされた。
苦笑いを浮かべるルナに彼女はとても興奮していたようで、ルナも悪い気分では無かった。
そういった着せ替えが少し続いた後、二人は街で流行りの喫茶店を見つけ、現在に至った。
肌の天敵もいよいよ活発になり始めた。彼女は外を歩く時は麦わら帽子を被っていたが、喫茶店に入ると脱ぎ、手に抱えていた。
店員に席に案内されるとルナはアイスティーを注文し彼女は果実ジュースを注文した。
彼女と二人で話することは昔、温室でハーブの話をした以来であった。
あの時も適当に相手をしていたので、こうやって意識して向かい合っている状況は緊張してしまう。
彼女はにこにこと笑顔であった。
おそらく、想像していたコーディネートを表現することができたからだろう。
ただ、ルナは彼女との共通の話題を持たなかった。
戦士科と治癒科は勉強内容は合わないし、知っている人もいない。唯一共通点のあいつの話しは、自分の本心がぽろりと出そうなので怖くて出来なかった。
どうしよう……。
なんて思っていると、
「ルナさんってローランのこと好きだよね」
彼女は容赦のない爆撃を敢行してきた。
奇襲であった。動揺、戸惑いで汗が滲んだ。
日差しでかいた汗の方が気持ちがいいと思うくらい、生きた心地のしない汗だと思った。
「えっと、あの。なんで……?」
「だって、ずっと見つめてるし、ローランの言うことだけ素直に聞くから」
私の馬鹿!!なに無意識にやっちゃってんの!!
心の中では人格同士が喧嘩をしている。
「でも、わかる。ローランってお節介だし、頼りになるし、かっこいいもんね」
ただ、彼女の話しはルナにとって思いもよらぬ方向に進んだ。
ルナの思っているローランの印象への共感であった。
彼女もまた、ローランに心を惹かれていると気づいた。
「そのくせさ、一番助けて欲しい時に言うんだよ『どうしたい?』って。助けてって言うしかないじゃん!」
「わかる、わかる。すっごい、わかる!」
解呪の時の思い出が鮮明に蘇る。
もう、孤独になるために嘘なんてつきたく無いと思った時、あいつにそう聞かれた。
「でもさ、さらっと助けちゃうもんね。ボクの時もルナさんの時も。ずるいよね」
「うん、怖いよね」
他の女に取られそうで。
「怖い?」
しかし、それは共感を得られなかった。
しまった、口が滑ったか。
「あ、いや。えーっと……」
その戸惑い焦るルナを見て彼女は笑った。
「ボク誤解してた。ルナさんってもっとクールで無関心な人って。でも、ちゃんと女の子なんだって」
「なんか、無下にしれてる気がする」
「違う違う。えーとね、親しみある人だなって。だからね、あの、ボクとも友達になって欲しいなーって」
「えっ……」
シャーロッテはそうルナに訊ねてきた。
その真夏の太陽のような人懐っこい笑顔をルナに振りまいた。
無論、断る理由などない。大歓迎だ。
ただ、こういった形で友達ができるのかと驚きを感じた。
もしかして、ローランが好きだから牽制しているのか?なんて考えてしまう。
「あの、疑わないでね。ボク、昔からルナさんと仲良くしたいなーって思ってたんだ。クールでかっこよくて、植物に詳しくて憧れだったんだ」
その顔は純粋だった。
ルナは自身の邪推を恥じてしまうほど、彼女は真っ直ぐな視線で友達を希望していたのだ。
「私がローランを取ってしまうかもよ」
「妬いちゃうなぁ、でも、それはローランが選ぶことだから仕方ないよ。そこはボクも負けるつもりがない」
嫉妬か。嫉妬をするのに受け入れられる。
ルナにはできないと思った。
初めてローランの部屋にお礼を言いに行った時も、ライラが助けを求めてきた時も、ライラがアイリスの素晴らしさ(下着姿)を話した時も嫉妬していた。
自分は嫉妬深いのだ。なのに、シャーロッテは受け入れることができる器を持っていた。
シャーロッテには敵わないかもと思ってしまった。
そして、シャーロッテがローランとあの女性らしいアークデーモンと一緒に暮らせる理由がわかった気がした。
「ローラン抜きで私と友達になってくれませんか?」
改めて、シャーロッテはお願いしてきた。
「喜んで」
ルナは右手を出してシャーロッテと強く握手をした。
――――
喫茶店を出ると、すぐ横に新しいお店ができているのに気づいた。
それは水着をメインに扱うお店であった。
二人は顔を見合わせると、吸い込まれるようにそのお店に入っていった。
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