第22話 22 勇者と買い物
ローランがルナと出会い数日が経った。
体重のない空っぽの人狼である事を知ったローランは出来るだけ彼女の真実について周りに知られないように配慮をしていた。
あの慌てぶりだ、恐らく彼女は周りの人にも隠しているのだろう。
植物委員の仕事については彼女は顔を出しているようで職場の手入れはしっかり行なっていた。
しかし、ローランが着く頃には作業を終えており、そそくさと出て行くモデルのような後ろ姿を拝むだけになっている。
恐らく、休み時間などに殆ど終わらせているのだろう。
ローランも今彼女と無理に接触しても喧嘩になるだけど思っているので自発的に話しかけようとは思っていない。
彼女もそれを望んでいるようで、接触してこなければ何もしないと言った感じた。
ローランは情報収集をしようと思っていたのだが、彼女の症状を隠しての聞き込みというのは難しかった。
しかし、日頃の彼女というは、やはり嘘をつく人と言った評価が目立った。
ただ、その嘘のおかげで偶然にも助かった。という声が幾つもあったのだ。
例えば、好きな男の子に告白をしようと計画していた女の子にある日ルナが「その人、私の彼氏だから」と釘を刺してきたそうだ。聞いたこともないと反論するが、隠れて交際していると返されたらしい。
不審に思った彼女がその男の子に探りを入れると、実は何股もする浮気性のクズ男だった。
しかし、その中にルナの存在は無かったそうなのだが、彼女のホラのお陰で変な男に捕まらなくて済んだと話していた。
その他にも、街で流行りのスイーツショップに放課後行こうと友達と計画をしていたら、突然学校の仕事を頼まれたという話もあった。
いくら待てど先生は来ず、結局は待ちぼうけ。スイーツショップに行こうにも閉店している時間だったため、後日改めてとその日は帰ったらしい。
その数日後、そのスイーツショップが衛生面に問題のある環境で食品を製造していたと騎士団に告発があり、店は閉店となったらしい。
どうにも、購入者に腹痛を訴えるものもいたそうで、もし、あの日行っていたら私たちも被害者になっていたかもと話していた。
みな、そう言ってたまたま助けられたと口を揃えて言っている。
誰もルナへの感謝というものを感じていないのだ。
恐らく、それが彼女の狙いなのだろう。
ただ、よくわからない。
嫌われたいのであれば、助けなければ良いはずだ。
彼女の思考というのを理解するのにローランは悩んでいた。
部屋でも思い詰めた顔でいるある日、部屋着のワンピースに身を包んだシャロから提案があった。
「ねぇ、ローラン。明日の休み、街に出ない?」
「突然どうしてんだ?」
「もうすぐ夏でしょ?ボク、夏服少ないから買いに行きたいなぁーって」
ローランは首を傾げた。
ローランは特に服にこだわりは無い。
夏の日差しが熱いなら全て脱いで自慢の肉体を露にしてもいいと思っているくらいだ。
「一人で行けばいいじゃん」
それを聞いてシャロは頬を膨らませた。
魔王が部屋の隅で本を読んでいたが、よく見ると呆れ顔をしていた。
なんだんだ、こいつら。
「ローランは荷物持ちだよ!毎日思い詰めた顔して、たまには外に出て気分転換しなよ。見てるこっちの気分も沈んじゃう」
ローランは自分の放つオーラで周りにそこまで迷惑をかけていたのかとその時知った。
たしかにここ最近考え事が多く口数が減っていた。
ルナの件は出来るだけ話さないようにしているから尚更だろう。
「分かった、分かった。荷物持つだけでいいんだな?」
「……後、……ボクが迷ってたら、選んで欲しい」
「はいはい、わーったわーった」
「もう!適当に言って!」
ちょっと照れていたシャロであったが、ローランの適当な態度にまた頬を膨らませてしまう。
こうして、明日シャロと街に出ることになった。
――――
「見て、この帽子。かわいい!」
次の日、約束通り街へと買い物に出てきた二人。
シャロは雑貨屋の前に展示されていた麦わら帽子を手に取るとキラキラと目を輝かせていた。
展示ポップには『もうすぐ夏、太陽の日差しをガードして彼氏の眼差しをゲットせよ!』なんて書いてある。
まだ春もそこそこにもう夏のことを考えるのか。
夏になれば長期休暇、いわゆる夏休みになる。
今年の生徒会のような組織では校内で夏祭りをしたいと始業式に話していたらしい。
これはシャロから教えてもらった。
マーリンはその時寝ていたらしく、アーサーも友達と話をしていて聞いていなかったそうだ。
なんでこいつら首席と次席なんだよ。
帰省しない寮生は強制参加らしく、面倒臭いのでシャロの村にでも逃げようかと提案したら何故か首を振られた。
シャロ曰く、「一緒に夏祭り行きたいなぁ、チラチラ」らしい。
今日はその時の服も下見したいそうで、先程から色々な服屋を巡っている。
ローランは思う。何故、女物の服はこんなにレパートリーが多いのかと。
男など服の形は殆ど決まっており、選ぶのどの色かどれだけ服を重ねるかくらいである。
「ねぇ、この麦わら帽子とこの黒のキャップどっちがいいかな?」
「ドッチモニアウナー」
「真面目に答えて!」
ローランは面倒くさそうに二つを見比べる。
そして、まずは麦わら帽子を指差す。
「こっちは、シャロの好きな白のワンピースに合うな。帽子の方が髪の色より濃い目だし、被ってもグラデーションになって良いアクセントになる。似合うと思うよ
こっちの黒はボーイッシュな今の髪型に合うな。ただ、今シャロが持ってる服とはギャップが生まれるから、買うなら一式コーディネートがいる。でも、シャロ自身には似合うと思う」
「……」
「なんだ?」
「……なんで真面目に答えるんだよー」
真面目に答えろと言ったのシャロでしょうに。
何故かその特徴的な長い耳の先端まで真っ赤に染めながら、シャロは店の奥へと隠れるように入っていった。
その後、二つとも購入して出てきた。
二つ買うなら最初から聞くなよと言うと軽く脇腹を殴られた。
しかし、そのパンチにあまり力は感じなかった。
結局、荷物は全てローランが持つ羽目になった。
それについては最初からの約束なので不満はない。
街の大通りを歩く。シャロはとてもご機嫌のようで鼻歌を歌っていた。
「そういえば、マオさんって凄い魔力量だよね」
ふと、そのシャロが魔王の話題を振ってきた。
まぁ、前世は魔族最強だったのだから当然であろう。
「マオさんがよく使う『シャドーポケット』って闇魔術、あれって術者の魔力量で容量が決まるんだって」
それはシャロがエルフの村で村人から聞いた事だった。
騒動の際、盗賊団を広場に集めた魔王は村のエルフの監視の下、さまざまな処理を行なっていた。
その際、シャドーポケットに引き摺り込んだ盗賊を何人も影から吐き出していたらしい。
みんな、口から泡を拭き気絶していたそうだが、人を何人も入れれる程のシャドーポケットは見たことがないと驚いていたそうだ。
「あいつ、俺の見ていないところでそんな事してたのか」
「みたいだね、他にも身長より高い大剣を軽々振ってたりしたんだって」
ローランも知るエッケザックスである。
ていうか、それがあるなら今魔王の方が俺より強くね?
何処か道端に愛剣デュランダル落ちてないかなー。
なんて考える。
すると、シャロは先程のご機嫌さは消え、注意するようにローランへ向き直った。
「それとローラン、ルナさんのこと首突っ込んでるでしょ」
「え?何のこと?」
ローランは惚けて見せた。
しかし、シャロはお見通しのようだった。
「友達の友達でローランに話しかけられたってボクのところに話がきたんだよ。いろいろ探りを入れてるんでしょ?」
「まぁ、そうだよ」
「収穫はあるの?」
「無い。よく分からん嘘ばっかついてるみたいだ」
「ふーん。もしかしてだけど、ルナさんが学校に入る前に付き合いがあった人とかに話は聞いてないでしょ?」
「あ……」
そう言えば聞いていなかった。
いつも聞き込みをするのは治癒科の人ばかりだった。
それも全て人族だ。
思えば、同郷であり、ルナを知る人が居るか調べていなかった。ルーガルーである、目立つ種族だ。
「そうか……!そうだな!ありがとう、シャロ」
「えへへ、今日付き合ってくれたお礼だよ」
そう言ってシャロはにっこりと笑って見せた。
ローランにはそれが女神に見えたのだった。
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