第十七話「風邪?」
「ただいまー」
宿の玄関を開けると、ケイの小さな靴が綺麗に並んでいた。
「……」
誰の返事も返ってこないので、階段を上って自分の部屋に戻る。
「さてと……」
とりあえず、この武器をケイの手に届かない場所に保管しなければならない。
<貧者の袋>に入れようと思ったのだが、長さが足りなかった。
とりあえず……部屋の端っこに目立たないように置いとくか。
ロックもかかっているし、下手に開けようとはしないだろう。
「……おかえり」
声が聞こえたので振り返ると、うなだれたケイがトボトボと部屋の中に入ってきた。
そしてそのまま寝室に入っていく。
「布団やろうか?」
「自分でデキル……」
ケイはそう言うと自分で布団を敷き始める。
俺はそれをただ眺めていると、ケイは布団に潜って仰向けで眠り始めた。
ケイが眠る枕の横には、昨日、俺が渡したペンダントの写真が置いてある。
ケイはあのペンダントを俺が渡してから一回もつけることなく、あそこに置きっぱなしだ。
デザインが気に入らなかったのか、そもそもペンダントがダメだったのか……
どっちみち、もう少しお金を出すべきだったかもしれない。
こうして写真の横で静かに眠っていると、まるでお葬式みたいだな。
なんてね……
「ケイちゃん戻ってきた?」
「びっくりした……」
しばらくケイを眺めていると、ヒナコがノックもせずに部屋に入ってきた。
ヒナコは寝室に入ってケイのおでこに手の甲を当てると、俺の目の前に戻ってきて腰を下ろす。
……え?
てっきり部屋を出ていくのかと思ったのだが、なぜ足を止めた?
「えーっと、ケイ大丈夫なの?」
「うーん、熱もないし食欲もあるんだけど頭が痛いんだって」
「そっか、なら大丈夫そうだね」
俺は袋の中からスーツハンガーを取り出すと、着たままだったスーツを脱ぎ始める。
この部屋もあっという間に物だらけになってきたな。
後でまとめて押し入れの中に入れとくか……
「……あのさ!」
「ん?」
なぜかヒナコは部屋にまだ居座っている。
「……その服かっこいいね!」
「じゃあ、夜ご飯はいつもの時間だから!」
ヒナコはそう言い残して、慌ただしく部屋から出て行った。
……ん?
え、なんだ?
とりあえず部屋着に着替えて片付けして夜ご飯を待つか。
「……ケイ、夜ご飯の時間だけど、どうする?」
俺はケイの肩を軽くゆすりながら話しかける。
「タベル」
ケイはそう答えると、もぞもぞと身体を起こした。
かなり身体がだるそうだ。
俺は一応ケイに目を配らせながら階段を降りてダイニングに向かった。
テーブルの上には夕飯が既に準備されている。
俺とケイは椅子に座ってヒナコを待ち、三人で『いただきます』をすると食事を口に運び始めた。
ケイはゆっくりだが、一定のリズムで箸を動かしている。
ヒナコが言った通り食欲はありそうだ。
食事を終えるとケイは早々にお風呂を済ませ、二階に戻る。
俺はケイに続いてお風呂を済ませると、ダイニングの椅子に腰を下ろした。
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