第八話「建築家」

 コビーさんはケイと手を繋いで歩き、俺は斜め後ろを歩いている。


 なんだろう……このモヤモヤは。



「アレンってサッカーした事ある?」


 ケイは少し興奮している。


「あーーー、うん、あるよ」


 いや、無い。

 正確に言えばやったことはあるが、球技が極端に苦手だった俺が最後にサッカーボールを触ったのは小学生の頃だ。


「じゃあ今度一緒にやろ!」


 ケイがキラキラした目でこちらを見てくる。


 どうやら相当、サッカーが気に入ったようだ。


「あぁ、うん、時間があったらね」


 行くとしても一回だな……

 そうじゃないと、トーッキックしか出来ない俺の足の親指が終わってしまう。


 本当はNOと言いたかったが、ケイのためにはYESとしか答えられない。



 俺は無意識に足元に目を落とした。

 右足にはカイの靴、左足には自分の革靴を履いている。


「……返しに行かなくちゃな」




 しばらく歩いていると、4階か5階ほどの高さがあるそれらしい建物が見えてきた。


 周りの建物の外壁が煉瓦造りに対して、この建物の外壁は石材タイルのような物を使っていて明らかに目立っている。

 そして建物の上には落ち着いた色合いのタイルが散りばめられた時計塔がそびえ立っている。

 少しモダンなこの見た目から、この建物だけ現実世界からワープしてきたように思える。


 建物の前にちらほらと人の足が止まっているので、待ち合わせ場所として町のシンボルになっているのだろう。

 

「つきましたよ」


 コビーさんはその建物の前で立ち止まった。


 やはりこの建物のようだ。

 オムさんの言っていたことは間違っていなかった。


「すごいですね……」


 俺はその建物の美しさに少し感動した。

 ケイも何も言わずに建物を眺めている。


「この建物は5~6年前にリフォームしたばかりで、デザインをしたのが有名なスイス人の建築家だったらしいですよ」

「僕も初めて見たときは驚きましたね」


 コビーさんもまじまじと建物を眺めている。


「……そういえば、この町に木造の建物はないんですか?」


 ウォロ村には木造の建物しかなかったのに、逆にこの町では木造の建物が見当たらない。


「この町で木造の建物を作るのは禁止されているんです」

「……外壁のそとに平原が広がっていたでしょう?」

「元々、あそこには森があったんです」

「あの壁が出来てからほとんど無くなったのですが、昔はモンスターに町を襲われ、家を壊される事も多く、その度に木を伐り家を作り直していたため木材不足になってしまった歴史があります」

「その為に木造建築は法律で禁止され、再利用できる煉瓦造りの家が主流となりました」

「この光景はその名残ですね」

「といっても法律上、内装で木を使うのは割とグレーなので使っている家も多いんですけどね」


「……話はこの辺にしてそろそろ行きますか」


 コビーさんはまだ建物を見渡しているケイの手を引っ張り、扉に近づいた。

 すると、中にいたドアマンが大きな扉を開けてくれる。


 俺は二人を追いかけるように、早歩きでその後に続いた。

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