第二十八話「分かれ道」
「オムじい、どういうことだよ」
「まあまあ、落ち着け」
カイはオムさんに詰め寄ったが、オムさんは片手でカイを押し返した。
カイは渋々引き下がる。
「ケイ、カイ」
「二人は自分の<職業>を自覚しているな?」
「ああ」「うん!」
カイとケイが口を揃えて返事をする。
「<メイド>と<守護者>は本来このような辺境の村にいてはおかしいのだ」
「<メイド>は貴族や<王>の元で働き、<守護者>も<王>の元で働くか騎士団に入るのが一般的だろう」
「そのための学校もある」
「……そこでだ、二人とも学校に行く気はないか?」
「行きたい!」「……」
ケイが元気に返事をする横でカイはなにも答えず何かを考えているようだった。
「行ったらいいじゃん!」
俺は首を傾げているカイの背中を叩く。
カイの強さは一応知っているつもりだ。
この世界の事はよく分からないが現代ならば最強と名乗っても馬鹿にされないだろう。
「金はどうすんだよ」
カイはしばらく考え込んだ後、一歩前に出て口を開いた。
「確かに」
俺は小声で呟く。
言っちゃ悪いが、店も宿も無いこの村にお金があるとは思えない。
「そこは心配するな」
「二人のその<職業>ならばメイド協会や騎士団から学費を借りることは簡単だ」
「将来自分で返すことにはなるが、二人ならば容易に返せるだろう」
オムさんがそう言うと、カイは一歩下がる。
この世界に奨学金のような物があるとは驚いた。
この様子だとおそらく法整備もしっかりとされているため、この村を離れても思ったよりも安全に暮らせるかもしれない。
「……」
カイは目に手を当て、再び考え出す。
「行こうよ!」
ケイがカイの手を両手で握った。
「……ありがとう、オムじい」
「でも、やっぱりこの村が心配だ」
カイがケイの手を軽く振り払った。
「学校に入学してから考えても遅くないぞ?」
「それに、ここ10年はモンスターたちも大人しい」
「カイがいなくても大丈夫だ」
「分かってる」
「それでも俺はこの村に残るよ」
「……アレン、ケイをよろしくな」
そう言い残し、カイはこの場を後にした。
どうやら、カイの決意は固まったようだ。
「そうか」
オムさんは渋い顔をしている。
「困ったな……」
「城下町まではカイに案内してもらおうと思っていたのだが……」
「そうだな……」
「それならば、ケイとアレンは二週間後に来る行商人と共に行くといい」
「入学式に間に合わせたかったが、その方が安全だろう」
……なーんだ。
俺は明日にでも出発しようと意気込んでいたのだが、もう少しこの村のお世話になるようだ。
オムさんの説明によると、まず3日ほど掛けてセントエクリーガ城下町まで行き、そこからさらに2週間ほどかけてアプレディメントというメイド学校がある町まで行くらしい。
学校には寮があり、ケイはそこで暮らすことになる。
ケイとはセントエクリーガ城下町でお別れになるのだが、この長旅は少し心配だ。
しかし、ケイの中に一切不安は無いようだった。
「ありがと!」
オムさんが一通り話し終えると、ケイはそう言い残し奥の部屋に姿を消す。
「それじゃ」
「アレンはちょっと待て」
俺が家を後にしようとすると、オムさんに後ろから呼び止められた。
「城下町に行ってからの事は考えているのか?」
オムさんがそう言うと俺は大きく首を横に振る。
SPのことばかり考えていて、そっちの方はまったく考えていなかった。
「はぁ……」
オムさんが大きなため息をつく。
「セントエクリーガ城下町に着いたらレゼンタックという場所を訪ねろ」
「大きな建物だから行けばすぐに分かる」
「そこならば仕事は見つかる上に、レゼンタック直轄の宿ならば住む場所にも困らない」
「どうせ、お金は持っていないのだろう?」
「いや?」
俺はポケットの中にある財布から一万円を取り出しオムさんに見せた。
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