第二十四話 決意、そして信じたもの

「うわ・・・、わ・・・、これ・・・、あの時の・・・」


「おっおいやべぇぞ! 早く逃げろ!」


「言われなくても逃げてるよっ!」


「早くしねぇと食われちまうっ!」



 まるで草原に突然生えた大樹のようなザン・ヴィーボラを前に、

守くんはその場にへたりこんでしまいました


 反対に、3人組の男たちは踵を返して逃げ出します


 そのうちの一人が後ろを振り向き、

腰を抜かした守くんを見て悪い笑顔を浮かべました


 恐らくは、彼がモンスターの囮になってくれると考えたのでしょう


 ところが次の瞬間、その顔から笑みが消え

恐怖の表情へと変わっていきます



「う・・・、うわぁっ!? あいつこっちに来るぞっ!」


「なっ、なんでだっ!? やっ、やべぇ、捕まるっ!」


「たっ、助けてくれぇっ!」



 どういうわけか、ザン・ヴィーボラは一番近くにいた守くんではなく

逃げ出した3人組の方へ狙いを定めました


 その巨体を生かし、一瞬で距離を詰めるモンスターを見て

守くんははっとします



「そうだ・・・、確かあのモンスター、動くものを狙うってお姉さんが・・・

僕は座ってたからあの人たちに・・・」



 このような状況に至った理由に気付きましたが、

それどころではないことにもすぐ気が付きます


 ザン・ヴィーボラが大口を開けて集団に突っ込んでいった瞬間、

男性たちのうち一人がそれを避けきれずに食らいつかれてしまいました



「ぎゃああっ! たっ、助けてくれぇっ!!」


「グィスっ!? てっ、てめえっ! グィスを放せぇっ! シュナーマ・フォー!」


「グィスっ! いっ、今助けるぞっ! シュナーマ・フォー!」



 捕まった男の人を助けようと、残った2人が呪文を唱えます


 すると持っていた武器がほんの少し赤みがかり、

それを思い切りモンスターの胴体へ振り下ろしました



「だぁっ! クソッ! とっととそいつを放しやがれっ!」


「とにかく口を開けさせろぉっ! ぐっ、ぎゃあっ!」



 2人の攻撃はザン・ヴィーボラをひるませるまではいかなかったらしく、

1回武器を振り下ろしたところで巨大な尾を振り回されてしまいます


 2人はそのまま数メートルほど弾き飛ばされ、武器も取り落としてしまいました



「ぐあっ! だ・・・、クソッ! たいして効いてやがらねぇ・・・!

あいつは・・・」


「うぐぅっ・・・! ちくしょう、頭が・・・、お、おい! あいつやべぇぞ!?」



 吹き飛ばされ、衝撃にひるんでいた彼らがもう一度モンスターの方を見ると、

咥えられていた男の人が危ないことに気付きます



「ひいぃっ! 助けっ・・・、服が・・・、ぎゃあっ!」


「ああっ!? やべぇっ! あいつの防具が壊れちまうっ!」


「あ、あのままじゃ食われちまうぞっ! 俺の武器はどこだっ!?」



 どうやら、彼を守っている防具が壊れかけているようでした


 防具がなくなれば身に着けていた人は気を失い、

モンスターの攻撃を直に受けてしまうようになります


 すると、当然そのまま食べられてしまうことでしょう、

それに気付いた守くんは、震える足で身体を支えながらなんとか立ち上がりました



「た・・・、大変だ・・・! このままじゃあの人、食べられちゃう・・・!

でも、あのモンスターをどうやって・・・、あの時はお姉さんがいたけど・・・」



 非常に大きなザン・ヴィーボラを前に、守くんは以前のことを思い出します


 最初に出会った時、夢中で放った魔法はモンスターを倒すまでは至りませんでした


 そして今、まともに戦えるのは恐らく自分一人しか残っていません、

もしも失敗すれば、守くんを含めてここにいる全員の命が危ないでしょう


 ですが、彼がそこまで考えていたかどうかは定かでありませんが、

既に心は決まっていたようでした



「そうだ! お姉ちゃんから教えてもらったもう一つの魔法・・・、

あれなら倒せるかもしれない!」



 残された時間も少ない中、守くんは何日か前の特訓で

教えてもらったことを思い出します


 魔法にはそれぞれ役割があり、相手に対して最適な魔法を使うことが

とても大事なのだということを


 今までに使った魔法は、巨大なモンスターを倒せるほどの威力ではありません


 守くんは最後に教えてもらった魔法へ望みをかける決意をしました



「だいじょうぶ・・・、お姉ちゃんに教えてもらった魔法・・・、

お姉さんと一緒に倒した相手・・・、それに、女神様に貰った力はとってもすごいはずだもん・・・!」



 両手を前に突き出し、獲物を叩きのめして食らおうと

巨大な頭を振り回すザン・ヴィーボラへ狙いを定めます


 本来であれば、偶然でも呼び寄せない限り何かを当てることは不可能に近い状態ですが、

守くんは貰った素質を信じながら大きな声で呪文を唱えました



「イロート・ヴィグァ・ランピール!」



 その瞬間、白っぽくて長い、そしてかなり大きなものがモンスターめがけて飛んでいきます


 そして、激しく動く巨大な蛇の頭部へわずかに曲がりながら一気に迫り、

真横から命中しました


 衝撃に吹き飛ばされたザン・ヴィーボラは、咥えていた男性を放しながら

その巨体を地面に沈ませます


 近くにいた2人の男性からは、突然の横やりに驚きの声が上がっていました



「うぉっ!? なんだぁ!? ま、魔法かっ!? 一体どこから!?」


「そっ、それよりもグィス、大丈夫かっ!?」



 呆気に取られていた2人慌てて食べられかけた人へ駆け寄ると、

苦しそうな声の返事が聞こえてきます



「うぐぅ・・・、な、なんとか生きてらぁ・・・、

死ぬかと思ったぜ・・・」


「ぶ、無事か・・・、ギリギリで防具を壊されずに済んだんだな」


「全く、お前が捕まった時はもうダメかと思ったぞ・・・」



 お互いがなんとか生きていたことを安堵する3人ですが、

そこでふと、なぜ助かったのか疑問が浮かびました



「・・・そういやあのモンスター、どうなったんだ?

お前らが倒してくれたのか・・・?」


「いや、俺らじゃねぇんだ、良く分かんねぇんだけどよ、

どっかから魔法が飛んできて・・・」



 辛うじて状況を把握できたいた2人が魔法の飛んできた方を見ると、

そこには当然守くんがいます


 ですが、何が起こったのでしょうか、

なんと彼は地面に倒れ伏していました



(う・・・、手も足も、うごかない・・・、これ・・・、前の時と同じ・・・、

魔力がなくなっちゃったんだ・・・)


(うう・・・、やっぱりお姉ちゃんの言うこと聞いとけば良かったかな・・・、

でも、こうしないとあの人が・・・)


(あ・・・、だけどそういえば、魔石を出せって言われてたんだっけ・・・、

どうしよ、もう逃げられない・・・)



 どうやら、魔力が切れてしまい動けなくなってしまったようです


 おまけに自分が助けてしまった相手は

魔石を奪おうとしていた悪い三人組


 それだけでも危ない状況ですが、悪いことはこれだけでは終わらないようでした



(・・・後ろから誰か来る? 誰か、助・・・け・・・!?)



 草を踏みしめる音に気付いた守くんが最後の力を振り絞り、

後ろへ顔を向けてみます


 すると、そこにいたのは人でなく、2足歩行のモンスターがいました


 前には魔石を狙う悪い人、後ろには間違いなく自分を狙っているモンスター、

守くんにじわじわと危機が迫っています・・・


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