第二十一話 試験開始

 部屋の中へ入った守くんは、先に来ていた人たちから

様々な目を向けられました


 不思議そうな目や訝しむ視線、あるいはよく分からない

少し悪い感情を向けるような視線


 ただ、注目を集めていることは理解できるためか、

少したじたじになってしまいます



(なんだかいろんな人に見られてるみたい・・・、

みんな大人の人ばっかりだからかな・・・)



 自分より背の高い人たちからじろじろ見られてちょっとだけ怖くなってしまいますが、

ここでちゃんと話を聞かないといけません


 こっそり周囲の人たちを観察すると、

みんな立ったり座ったりと思い思いに説明が始まるのを待っているようでした


 守くんもそれに倣い、極力人の少ない場所へ座ります



(やっぱり見られてる・・・、お話が始まるのはいつだろう・・・)



 居心地の悪い中でしばらく待っていると、試験を受ける人たちとは

違う服装の人たちが部屋に入ってきます



「皆さん静かにしてください、私たちが本日あなた方の試験を担当する

試験官となります、どうぞよろしく」


「それでは時間になりましたので試験内容を簡単に説明したいと思います」


「試験は例年通り実技のみ、私たちが出した課題をこなす実力さえあれば誰であろうと・・・、

どんな年齢だろうと関係なくシュクトゥル・セージュ第一の資格を差し上げます」



 守くんの方へちらりと視線を向けながら、試験官の一人が最後の言葉を付け加えました


 同時にいくらかの受験者も目を向けていましたが、

守くんはそれに気付かず話に耳を傾けます



「では、試験会場まで移動するので皆さんついてきてください、

ここへ戻ってくるのは合格者の方だけですので、お忘れ物のないように」


「後ろに座っている人から席を立ってください、

全員出たことを確認したらこの部屋は施錠します」



 簡単な説明が終わると退出が促されたので、

守くんは少し周りを見てから人の流れに逆らわないよう歩き出します


 しかし、そこへ後ろから脇へ追いやられ、

うっかり転びそうになってしまいました



「おっと悪りぃ、チビすぎて目に入らなかったぜ」


「お前みてぇなのが前歩いてたら蹴っとばしちまうわ」


「俺らが先に行くから大人しく後ろついてよちよち歩いてろよ、ぎゃははっ」



 守くんが体勢を立て直して後ろを見ると、

人相からして悪そうな三人組の男性が意地悪な顔で見下ろしています


 どうやら、理由は定かでありませんが

彼のことが気に入らず、嫌がらせをしたのでしょう


 ですが、守くんは自分が移動の邪魔をしてしまったのだと素直に信じ、

謝りながら道を譲りました



「あっ、ご、ごめんなさい、避けます・・・」


「・・・けっ、んな根性で試験なんざ受けに来るんじゃねぇっての、

おい、行こうぜ」


「おう、こんな奴に構ってられねぇ」


「へっ、せいぜい食われねぇようにな」



 もう一度席に戻る守くんに悪態をつきながら

三人は進んでいきます


 突然の出来事にびっくりしながら、

守くんは胸を撫でおろしました



(こ、怖かったぁ・・・、後ろに人がいたんだ・・・、

またうっかり前に出たら怒られちゃうかも・・・、

やっぱり一番最後に出よう・・・)



 そのまま全員が出るのを待ち、最後に残った試験官の人に退出を促され、

守くんはようやく部屋を出ます


 前を見ると、受験者の集団が普通に歩くペースで、

つまり守くんにとっては少し早歩きしなければいけない速度で移動していました


 見失わないよう一生懸命歩きますが、不思議と息が乱れることはありません


 でも、移動することにばかり気を取られていた守くんは、

それに気付かず歩き続けていました


 そのまま何分か歩き続け、受験者たちはみんな目的の場所、

町の外へ出たところで止まります


 試験官の人が前に出て説明を始めるようですが、

一番後ろにいる守くんは何も見えず、状況がよく分かりません


 ただ、この入口はお姉さんたちと一緒に取ったことがない

ということくらいは気付きました



「本日の試験はこの地区で行います、

この一帯に張られたロープの範囲内で自由にモンスターを倒してください」


「制限時間は2時間、それまでに小型モンスターの魔石を7つ以上集めて

ここに戻って来た人を合格者とします」


「なお、先日までに周辺のモンスターは先輩方が討伐してくださっていますが、

中型のモンスターが入り込んでいる可能性はわずかにあります」


「もしも倒せた場合はその魔石1つで合格とみなしますが

ぜったい油断しないように、手を出すなら命を賭ける覚悟をしてください」


「それと、万が一にも大型モンスターと出会ったら決して手を出さずその場を離れ、

私たちに伝えてください」


「皆さんの着ている防具の胸部分についた石は簡単な魔法をかけてあります、

それを強く握ることでこちらに連絡が来ますので、危機的状況に陥った時は迷わず使用するように」


「最後に、2時間以内に戻れなかったもの、魔石を集められなかったもの、

そして防具が完全に破損してしまった方は失格となります」


「時間の確認はここで行えます、また簡単な薬や食料も用意してありますので

補給が必要な場合は戻ってくるように」



 試験官がそう言いながら短い棒のようなものを上にかざすと

とても大きな砂時計が現れました


 大きな目盛りと数字が書いてあり、

守くんの位置からでも簡単に見ることができます



「説明は以上、では時計の砂が落ち始めたら試験開始です」



 開始すると言われた瞬間、周囲がほんの少しざわめき

何人かの人は身構えました


 守くんも緊張しつつ、聞こえていた説明について考えます



(お姉ちゃんたちに教えてもらったこととほとんど同じ・・・、

やっぱり試験の内容は変わらないんだ・・・)


(それと、お姉さんは試験は主に時間との勝負だって言ってた・・・)


(試験の会場となる場所や周りのモンスターは数を減らしてあるから、

早く見つけて早く倒さないと魔石の数が揃わないって・・・)


(こんなにいっぱい人がいるんだからもたもたしてると

本当に見つからないかも、とにかくモンスターを探さなくちゃ)



 特訓の時に教えてもらっていた試験の心得を思い出し、

始まるの待つ守くん



「では・・・、始め!」



 そして、大きな声で開始の合図が出され、

砂時計の砂が落ち始めました・・・



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