The Long And Winding Road
「あれ?今井くん、どうしたの」
ガソリンスタンドで篠崎さんとばったり会った。
「これから成田に行ってきます。彼女から手紙が届いて、今日パリに旅立つそうなんです。だから、今日会わないともう二度と……」
「パリ?! 今日?! なんだかドラマみたいね。でも、こんな時間にこんなところにいて間に合うの?」
「わかりません。でも行かなきゃいけないんです。行かなかったら絶対後悔するから」
「それで、行くなって引き止めるのね?」
「え?」
「もうどこへも行くなって言いに行くんじゃないの?」
「いや、何も考えてませんでした……ただ、会いに行かなきゃと思って……」
僕の言葉に篠崎さんはちょっと考えて、「うん」と小さく頷いてから言った。
「だったら今井くんが思っていることは全部言ってきなさい。とにかくあなたの気持ちを全部伝えなさい。あと事故には気をつけてね。飛ばし過ぎちゃダメよ」
「はい。ありがとうございます」
僕は一礼した。そして車に乗り込もうとした時、
「あ、今井くん!」
篠崎さんの呼ぶ声がした。
「頑張ってね」
僕は大きく頷き、運転席のドアを閉めた。
運転しながら自問自答を繰り返す。
僕はどうしたいんだろう?
彼女に会ってどうするんだろう?
パリ行きをやめさせるのか?
そんなこと言える立場か?
いいペースで車は走り、東京都に入った。このまま行けば間に合う計算だ。
車窓に見える競馬場やビール工場を見ながら、羽月ちゃんの笑顔と歌声を思い出していた。もう何年も前のような気がする。
会いたい。
思いは募るばかりだ。
国立府中インター付近の掲示板で渋滞情報が表示される。
『事故渋滞 15km70分』
――まずい。どうする?
『事故渋滞 18km90分』
渋滞が伸びている。
首都高から甲州街道へ降りた。都内の道はわかっている。絶対に間に合わせるんだ。そう思いながら車を走らせていた。
しかし、首都高からの渋滞回避の車と、雨降りということで20号線も車が多く、思うように進まない。裏道を使っても立ち往生してしまう。
都心部の渋滞を抜け再び首都高に乗った時には、空は暗くなっていた。
絶望的だ。
アクセルを踏む右足にも力が入らない。諦めの思いが胸の中に広がる。
僕はただ惰性で成田空港を目指していた。
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