怜との時間

今年もまたこの時期がやって来た。早いものでもう5年になる。


僕は深夜に出発し、自家用車で羽田へ向かった。そして朝イチの高知空港行の便で、一年ぶりに四国の地にやって来た。信州の寒さに比べると、驚くほどの暖かさだった。


怜が亡くなってから、毎年命日の一週間前に墓参りをしていた。彼女のお父さんからは葬儀に参列させてもらえなかったので、顔を合わせては迷惑がかかると思い、早めに怜に会いに来ていたのだ。

不謹慎な言い方かもしれないが、日をずらすことで誰にも会わず、その分ゆっくりと怜と話が出来るので、このスタイルがすっかり定着していた。


空港からは電車とバスを乗り継ぎ、怜が眠る墓地に着いた。

丘の上にあるその墓地からは太平洋を望むことができる。今日はこの時期にしては暖かな陽気で、時より吹く風がさわやかで気持ち良かった。


毎回これでもかというくらい掃除をし、花を手向けて、弁当を食べながら怜に話しかけて過ごしている。大体4、5時間はいるだろうか。

そして気がつくと、どこからやって来たのか怜が隣りにいる。いつも白いワンピースを着て、風に裾をなびかせている。怜は決して喋らない。僕が一方的に話しかけて、彼女はそれを聞いて笑ったり、頷いたりしている。

僕が黙って彼女を見ていると、恥ずかしそうに微笑んだり、嬉しそうに僕の隣りに座ったり。

僕が帰ろうとすると、いつも彼女の麦わら帽子が風に飛ばされて、怜はそれを追いかけて消えてゆく。きっと僕のさよならという言葉を聞きたくないんだろうなと思っている。

それは僕の妄想かもしれない。

でも、毎年怜に会えるのだ。


「怜、元気でやってるか? 早いな、もう5年だよ。俺はすっかりおじさんになっちゃったよ。あの頃に比べるとお腹もたるんできたし、筋肉痛も翌々日に出るようになってさ、笑われちゃうよな」


怜は何も言わずにただ微笑んでいる。


「あのさ、こんなこと言ったら怜は悲しむかな?」


怜が不安げな顔でこちらを覗き込む。


「俺さ、好きな子がいるんだ。とは言っても、もう1年以上会ってないし、俺からもうやめようって言ったんだけどさ。忘れよう忘れようとしても、どうしても忘れられなくてさ。会えなくなってその子の大切さがわかったんだ」


僕は怜に向かって語りかける。

怜は真剣な顔で僕の話を聞いている。


「だからさ、……俺、その子に」


その時、背後から声がした。


「やはり今井くんだったんだね」

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