背負ったもの

「原因はカーブで対向車がセンターラインを越えてこちらの車線に飛び出してきたことによるもの。

相手の車も大破して、運転していた方はお亡くなりになった。そしてアルコールが検出されて、どうやら飲酒運転だったらしい。路面凍結によるスリップも一因だそうだ。

あ、それから……事故当時、怜ちゃんはほぼ即死で、話ができる状態ではなかったらしい。


これが4年前の事故の全容だよ。

そして今井は、外出を誘ったことと運転を替わったことが原因で、彼女が亡くなったんだと責任を感じて、笑うことさえできなくなっていたんだ。あいつにとって怜ちゃんはすべてだったから……」


「じゃあ、人殺しっていうのは」


「そう、今井の思い込み。あいつ真面目だからさ。責任感じちゃってね」


「そんなことがあったんですか……」


「……うん。さらに怜ちゃんのお父さんから罵倒されてね。『お前が娘を、怜を殺したんだ』と殴られて……。あいつは黙って土下座してたけど、葬儀にも参列させてもらえなかったんだよ」


中谷さんは辛そうに話してくれた。


「怜ちゃんが死んでしまって辛いはずなのに、『俺が怜を殺したんだ』って自責の念にかられてさ。精神的に相当参ってたんだよね。誰もあいつを救えなくて、時間だけがあいつをゆっくりと癒やしてたんだ。ここ一年くらいかな、普通に笑えるようになったのは。」


私は受け入れられずにいた。

だって、今井さんの優しい笑顔の下にそんな悲しい過去があったなんて、とても信じられない……。


「でも、そんな素振りは少しもありませんでした……。今井さんはいつも優しくて暖かくて……」


「それはね、羽月ちゃん、君といたからだよ。暗闇の中にいるあいつを、キミが明るく照らしてくれたからだよ。

今井の奴、羽月ちゃんと会ってからどんどん明るくなってさ。最初は『10歳差だぞ。女子高生だぞ。好きになるわけないだろう』って言ってたんだよ。

でも、会ってるうちに羽月ちゃんのことをどんどん好きになっていって、悩んでたんだよ。俺に恋愛する資格なんか無いって言ってさ。

会いたいけど、自分の気持ちを抑えられなくなるのが怖いって。

今井は今井なりに背負ったものと戦ってたんだよ。勝ち負けじゃないんだけどね」


私は中谷さんの話を聞きながら涙が止まらなかった。今井さんが背負っていた重い過去に、そしてそんなことも知らずに、今井さんに自分の気持ちだけをぶつけてた身勝手さに。

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