はぐれそうな天使
その後、高熱が出た私は一週間学校を休んだ。
何もやる気が起きない。ベッドでぼーっとしてると考えるのは今井さんのことばかり。そして失恋のショックで落ち込む、の無限ループだ。
半年前、傘を差し伸べてくれた優しさが余計に身にしみた。
今井さんに電話してもメールしても、全く反応は無かった。
何で今井さんは終わりにしようと言ったのだろう?
それに人殺しってどういうこと?
結局、私は今井さんの何もわかっていなかった。
――でもね今井さん、この一週間ずーっと考えてみたけど、私はあなたがいないとだめなんです。あなたの横じゃないと笑顔になれないんです。
そう思ったら、ひとりで考えるのは限界だった。
「お母さん、ごめんね。ちょっと遅くなるかも。でも大丈夫だから心配しないで。うん、電話するね」
金曜の朝、私は母にそう言って、家を出た。学校へ向かうのとは逆方向の電車に乗った。
人生初のサボタージュ。うろ覚えの記憶だけを頼りに目的地へ向かった。
ピンポーン
オートロックの入り口で部屋番号を押し、呼び出しボタンを押した。
「………」
返事は無い。
――あーあ、お出かけ中か。仕方ない。どこかで時間を潰そう。
近くの公園で、街道沿いのファミレスで、駅前の喫茶店で、時間を潰してはマンションへ行き、呼び出しボタンを押すの繰り返し。10時過ぎには着いていたのに、もう太陽は西に傾いていた。
都合4回目も空振り、途方に暮れていたところ、
「あれ、羽月ちゃん?」
と声がした。振り向くとみゆきさんが両手に大きな買い物袋を持って立っていた。
「あの、ちょっと聞きたいことがあって……」
そういう私に、みゆきさんは、
「すごく散らかってるけど上がっていって」
と笑顔で受け入れてくれた。
聞くと、友人とのランチの為、朝から出かけて、スーパーで買い物して帰ってきたそうだ。
「あ、持ちます。いや、持たせてください」
そう言って、みゆきさんから買い物袋を受け取り、エレベーターに乗り込んだ。
☆ ☆ ☆
「どうしたの?突然に」
「はい、とても言いづらいんですが、今井さんのことで……」
私は思っていることをすべて話した。
今井さんの気持ちがわからなかったこと、友達に言われて不安だったこと、もう終わりにしようと言われたこと、でもやっぱり好きだということ。
そして今井さんと前の彼女さんの間に何があったのかを知りたいということ。
そしてみゆきさんは言葉を選びながら、真剣に相談に乗ってくれた。
私は話しながら、いろんなことを思い出しては泣いたり笑ったりしていた。その都度、みゆきさんは「うんうん」と頷き、肩をポンポンと叩いてくれた。私の心が軽くなっていくのを感じた。
☆ ☆ ☆
「ただいまー。あれっ何だこのセーラー服の天使ちゃんは?」
「修くん、おかえり。実はね、」
「そうか、そんなことがあったのか……」
「そうなの。それで疲れて眠っちゃったの。羽月ちゃんたら可哀想に、眠りながら涙流してるのよ。もう、見てられないわよ。それから今井くんが怜ちゃんを殺したっていう話。そこは私は触れてないから、修くんから話してあげてね」
「……あぁ、わかった」
4年前の出来事が明かされる。
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