羽月さんのは左官屋仕立て?

10月の水曜日。2ヶ月ぶりに羽月ちゃんと会うことになった。

何でも学校の創立記念日でお休みらしい。

今年の記念日が水曜日であることに心から感謝した。

たくさん話ができるところがいい、という彼女のリクエストにお応えして、高尾山へのトレッキングに決まった。


電車で行くので、待ち合わせは羽月ちゃんの家の最寄り駅のホームの先頭車両付近。


僕は電車の1番前に立って乗っていた。薄暗い中、駅へ到着する。赤をベースにした山ガールがホームに立っている。僕に気づいて笑顔で右手を上げた。


「羽月ちゃん、おはよう!」


「おはようございます!」


とびきりの笑顔だ。やっぱり可愛い。

そして、


「会いたかった」

「会いたかったです」


僕たち二人の想いが声になってシンクロした。


2ヶ月ぶりに会った彼女は何かが違っていた。可愛らしい山ガールコーデのせいもあるだろうが、表情に落ち着きが出てきたような気がする。髪も少し伸びて、大人っぽくなった感じだ。

僕はそんな彼女が眩しくてドギマギしていた。顔を合わせられずにいると、


「今井さん、どうかしました?」


と彼女が僕の異変に気づいた。


「いや、何でもないよ」


そう言いながら、気づかれないようにさりげなーく視線を逸らすが、彼女には僕が目を合わせないことがバレバレのようだ。

「どしたんですか?」と言いながら、僕の正面に廻り込んでくる。

照れてる僕を面白がってイジる彼女。そんな構図だ。


僕が頑なに目を合わさないでいると、羽月ちゃんは珍しく怒ったようで苛ついた声を上げた。


「もう、いい加減にしてください! 何で目を合わせてくれないんですか!」


彼女が僕に対して怒りを露わにしたのは初めてだ。

僕はさすがにバツが悪く、視線をそらしたまま答えた。


「ゴメン。悪気は無いんだけど、羽月ちゃんと久しぶりに会ったら、ちょっとびっくりするくらい大人になってて、その、なんていうか、綺麗になってて、ドギマギしちゃって……」


はい、いい歳して女子高生にドキドキしている僕です。

羽月ちゃんは僕の言葉に「えっ?」と声を上げると、「ぽんっ!」という音をたてて3等身に変身した。

真っ赤な顔で、鼻の下を伸ばし、背中には羽が生えてパタパタと飛んでいた。やっぱりいつもの羽月ちゃんでした。



「私、夏休み明けに友達から、大人っぽくなったねって言われたんです」


――あぁ、やっぱり僕の気のせいじゃなかったんだ


「そして聞かれたんです。『もしかして羽月、抱かれたの?』って」


――おぉ、リアルなJKトーク


「『うん。恥ずかしかったけど、とっても気持ち良かったよ』って答えたら、『マジかー!まさか羽月が!師匠と呼ばせて』って大騒ぎでね」


――そりゃ、そうなるだろう。そんな言い方してたら……


「『ホテルで彼のワイシャツも着ちゃったんだ』って言ったら、一人は鼻血を出して、一人は『左官屋仕立の塗り壁なのに…』と興奮して、もう一人は『尊い』と言ったきり固まっちゃったんです」


――ねーねー、お嬢さん。それみんな絶対に君が女の子の大切なものを喪失したって思ってるよ。うん、間違いない。でも事実とは間違ってます!

そして僕は、彼女の友人たちから『10も歳の離れた天真爛漫なJKを喰ったオッサン』と思われてるんだろうなぁ。


冤罪で捕まって、ショーシャンクに収監されそうな気がした。

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