部屋にワイシャツの彼女

羽月ちゃんは僕のワイシャツがとても気に入ったようで、右を向き、左を向き、ぐるりと回って、その都度鏡に映る姿を見ては、ふにゃりとした顔で鼻の下を伸ばしている。


僕はボーッとそれを見ていた。


――羽月ちゃん、可愛いなぁ


女の子が鼻歌を歌いながら、好きな服を着て、鏡に映る自分の姿を見て嬉しそうにしているのは、見る者を幸せにしてくれる。


「ねぇ今井さん、せっかくなので私のスマホで写真撮ってもらっていいですか?」


そう言ってスマホを渡してきた。

僕はワイシャツ姿の彼女をパシャパシャと撮影した。いろいろなポーズと表情をしてくるのをカメラに納めた。


「あ、せっかくだから俺のスマホでも撮っていい?」


と、聞くと、


「ダメですっ!」

とピシャリ。


「自分のならともかく、人様のスマホでこんな写真撮らせて万が一のことがあったらどうするんですか?今はいいけど将来今井さんとケンカして腹いせに画像をネットに拡散されちゃうかもしれないじゃないですか!いや、今井さんがそんなことする人だとは思ってないですけどどこかから流出する危険性もありますからね。そんなことになったら人間やめますになっちゃうので。それぐらいリスクマネージメントをしっかりやらないとリベンジポルノになっちゃうんです。そういうことなので、

ダメです」


あのお父さんばりの危機管理の内容を、あのお母さんばりの喋り方で言った。遺伝子は脈々と受け継がれているようだ。


「というわけなので、今井さん、ごめんなさい。写真はダメだけど、その分、私のことをたくさんたくさん見てくださいね。なんちって」


最後の「なんちって」が妙に可愛く、僕はお言葉に甘えて、あらためてルンルンな羽月ちゃんを見ていた。

そしてふと、あることに気がついた。


「羽月ちゃんて、きれいな脚してるんだね、知らなかったなぁ。こんなに美脚だったなんて……」


ベッドに腰掛けながら、僕はボソっと呟いた。小柄なので、いわゆるモデルのような迫力はないが、細くしなやかでキメ細やかな肌の白さと相まって僕の視線を釘付けにする。


「え、そうですか?そんなこと初めて言われましたよ」


と嬉しそうに表情を崩す。


「それはミニスカートとか履かないからじゃないかな」


普段の彼女は、長めのスカートがほとんどだ。それだけにワイシャツ姿ならではのレアな姿と言えるだろう。


彼女は、脚をじーっと見ている僕の視線に耐えきれなくなったのか、モジモジし始めた。


「そんなに見ないでくださいよぉ。恥ずかしくなっちゃう……」


「大丈夫だよ。すごく綺麗だから。ついつい触りたくなっちゃうな」


「えっ?……あ、あの、今井さん、さ、触ってみます?」


「え?」


あまりに大胆な彼女の言葉に、僕は固まってしまった。それを見た羽月ちゃんは自分の発言に恥ずかしくなってしまったようだ。


「あ、ごめんなさい。何でもないです。忘れてください。今のは無かったことにしてください。もうダメです。これ以上見ないでくださいっ」


そう言って、少しでも脚を隠すため、ワイシャツの裾を下に引っ張ろうとする。恥ずかしさからか内股になっている。

すると必然的に前屈みとなり、今度はボタン2個外しのユルユルな胸元が僕の視界に飛び込んできた。そこには慎ましやかすぎるお胸とそれを隠す黒い布地があった。


「羽月ちゃん、黒なんだね……」


「え?何がですか?」


僕は見てはいけないものを見てしまった罪悪感から、視線を横に外しながら彼女の胸元を指さした。


「ん?………きゃあ!」


ワイシャツの裾を掴んでいた手が光速で胸元を隠した。やはり一番のコンプレックスのようだ。


グラッ!


前傾姿勢からのバタバタで、彼女がバランスを崩した。そのまま前に倒れ込みそうになる。


「あ!危ない!」


僕は立ち上がり、彼女を受け止めた。

が、勢いの押され、彼女の身体を抱えたままベッドに倒れ込んでしまった。


バタン!

「わぁっ!」

「きゃっ!」


ギシ…ギシ…ギシ……


ベッドのきしみ音が収まったとき、僕は仰向けで彼女をぎゅっと抱きしめていた。

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