鳩と森のカーニバル
「ひゃあー、美味しかったです」
ちょっと遅めのランチは、僕の行きつけの店に行きたいという羽月ちゃんのリクエストにお応えして、隣駅のすぐ近くにある豚骨ラーメンの店になった。
「私、豚骨は初めてなんですけど、これはクセになりますねっ。『バリカタ』も覚えたし」
珍しく力の入った表情で彼女は言った。
「俺もココは同僚に教えてもらったんだけど、気に入って何度も来てるんだ」
「わかりますわかります、その気持ち。今度友達にも教えてあげよーっと」
ちょっといいとこのお嬢さんである羽月ちゃんがラーメン好きとは意外だが、そんなところも高校二年生の素顔なのだろう。
「お腹いっぱいになっちゃったんで、少し歩きませんか? 」
「うん、いいよ。それにしても羽月ちゃんが替え玉まで食べるとは思わなかったな。それにライスも」
「ううっ、それは言わないでください。だって美味しかったんだもん……それに育ち盛りですから」
『えっへん! 』と言わんばかりに胸を張った。
育ち盛りといっても、そこはあまり育ってないようだけどね……。
☆ ☆ ☆
僕たちは手を繋いで歩いた。やっていることは恋人同士のようだが、周りからはどう見えるのだろうか?
羽月ちゃんは歳よりも幼く見えるので、人によっては怪しい関係と思う人もいるのかもしれない。
あれこれ話しながら行く宛もなく歩いていると、見慣れた場所に出た。
確かこの先に素敵な神社があったはずだ。
「ねぇ、ちょっと神社にお参りしていかない? 」
「いいですね。そういえば今年はお正月に風邪ひいちゃって初詣行けてないんです」
「よし、じゃあ決まり。あ! きっと羽月ちゃんならその神社好きになると思うよ」
僕はあることに気がついて、少しばかり嬉しくなった。
「そうなんですか? 」
不思議そうに彼女は言う。
そうこうしているうちに参道の鳥居の前に来ていた。
「ここが鳩と森神社。どう、素敵でしょ! 羽月ちゃんの名前には羽があるから、鳩と森神社とは相性いいはずだよ」
「はい。何だかとっても素敵なところですね。都会にあるのに雰囲気があって好きです、この感じ。それに空気もさっきまでと違う気がします」
彼女は興味津々といった様子で辺りを見回していた。
「さ、お参りしよう」
「はい」
僕たちはお賽銭を投げ入れ、手を合わせ目を瞑った。
僕が目を開けても、羽月ちゃんはしばらく目を瞑ったままだった。
穏やかな横顔、すべすべの頬、つやつやした唇……こんなところで不謹慎かもしれないが、その横顔はとても美しく神々しく、思わず見とれてしまった。
「ん? 今井さん? どうかしましたか? 」
声を掛けられて、ふと我に戻った。
「あ、いや、あの、ずいぶんたくさんお願い事してたみたいだね」
「はい。でも今井さんには内緒です。でも、たぶん、きっと、そのうちわかると思いますよ……」
そう言って、隣にいる僕をジーッと見つめた。
僕はその瞳に射貫かれて、息が止まった………。
お子ちゃまだとばかり思っていた彼女は、やはり育ち盛りのようだ。こんな大人っぽい瞳を向けてくるなんて……。
「あ、おみくじだ! 今井さん、早く早く! 」
一瞬で表情が変わる。いつもの羽月ちゃんだ。僕は何故かホッとした。
「きゃあ!これ鳩の形してますよ。何これー、可愛いー! 」
おみくじの紙自体が折って結ばれて箱に入っている。それは目や口ばしなどが印刷されていて、鳩に見えるようになっているのだ。
僕たちはお金を入れて、箱の中からおみくじを取り出した。
羽月ちゃんはいつになく真剣な表情で、おみくじをガン見している。
しばらくすると身体がふにゃっとなった。どうやら読み終わったようだ。
そして嬉しそうに言った。
「『恋愛 この人となら幸福あり』だって! うふふ、どうしよう~ 困っちゃうなぁ」
よく困っちゃうお嬢さんである。
羽月ちゃんと鳩と森神社のコラボは、どうやら彼女に翼を授けたようだ。
その証拠に、ルンルンでえへらえへらしている彼女は5センチほど宙に浮いていた。
僕はその様子を確認すると、自分のひいたおみくじに目を通した。
そこにはこう書かれていた。
『恋愛 この人を逃すな』
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