1章 12話 UMA軍団との闘い!

 ケイが腰の球体から出現させた3匹の物体、彼女が【マージアリ】と呼んだそれはまさしくテレビや本で見た【ツチノコ】そのものだった。


 3匹のツチノコはケイの前方に並び、いつでも飛び出せるように体をくの字型に持ち上げて、三角形の頭部をこちらに向けている。

 

 凄い! 感動だ!!


 今すぐに写真を撮りたいところであるが、さすがにそんな空気じゃない。

 そもそもケイはクラスメイトだ。この戦いが終わったら見せてもらえばいい。

 

「最近この町に噂されていたツチノコは、ケイのものだったのか」


「そうよ。部下が逃がしてしまったの。そのせいで面倒な事になったわ」


 どうやらケイは部下を持てる立場にいるらしい。


「そのおかげでケイを知る事が出来た」


「きっしょ。何が知る事が出来たよ。委員長が秘密に入ってこなければ、こうはなっていなかった。迷惑よ」


「それでもいつかは知らないといけない。こんな大きな秘密を抱えたまま、友情を育むことは無理だ」


「友情って……、うっさいわよ。このままでよかったのに。今のままの関係で。大人しく記憶を消されなさい」


 ケイの毛先が青く光ると3匹のツチノコが一斉に飛び上がった。


「下がってください。僕が戦います」


 鞍馬が俺の前に躍り出ると、右手を肩の位置まで上げる。すると後方から棒状の物が飛んできた。鞍馬がその棒状の物を掴むとカバーが外れる。

 そのカバーはそのままの勢いで、真ん中のツチノコに命中した。


 鞍馬が持っている物、それは日本刀のようだ。


 太陽に照らされた刃先がキラリと光る。それならば先程ツチノコに命中したのは、鞘だったのだろう。そのツチノコは腹を見せて倒れているが、他の2匹は健在である。


 倒れたツチノコを一瞥もせず、2匹のツチノコが鞍馬に迫る。

 

 鞍馬は日本刀を逆手に持ち帰ると、左側から来たツチノコに柄頭を当てて弾き飛ばす。続いてもう1匹の右側から飛び掛かって来たツチノコに峰を当てようと振り抜くが、日本刀は宙を切るだけでツチノコに当たらない。


 ツチノコは尻尾を木の根っこに絡ませて、空中で停止して寸前のところで躱していたのだ。


 鞍馬が振り抜いた事で生まれた隙をツチノコは見逃さずに、根っこから尻尾を離すと同時に、再度地面から飛び跳ねだ。

 

だが鞍馬は足でツチノコを蹴りあげた。放物線を描くツチノコを見たケイは唇を噛んだ。


「本当にうまくいかない。イライラする。でもこれで終わりじゃない」


 ケイが腰の球体を叩くと、3匹のツチノコは光となって戻って行く。


「次よ。行け! 【ガリマス】」


 ツチノコの物とは別の球体から光球が飛び出して、ツチノコと同じように形作っていき、最後に全身の色が付いた。


 その姿を見た瞬間、俺は感情が極まって咄嗟に叫ぶ。


「チュパカブラだああああ!」


 真っ黒な体躯に大きい顔に、不気味に光る大きな赤い目。少し猫背気味で、頭の上から背中にかけて無数のトゲのような突起物が生えている。その存在だけで嫌悪感を抱く姿。

 

想像していた【チュパカブラ】そのものだ。


 ツチノコに続いてチュパカブラまで目にすることが出来るなんて。はしゃぎたいところであるが、今はそんな場合ではない。

 

 どうやらケイの世界ではチュパカブラをガリマスと呼ぶらしい。ツチノコも別名が付いていた。


「ガリマス、切り裂いてしまえ」


 ケイの毛先が青く光るとチュパカブラが鞍馬に向かって飛びかかる。


 チュパカブラは長い爪で鞍馬を切り裂こうと腕を振り下ろすが、鞍馬は難なくそれを避けて日本刀で薙ぎ払う。


 だがチュパカブラも簡単に倒せる相手ではない。足のばねを利用して瞬時に後ろに飛びのいたので、鞍馬の日本刀が宙を切った。


「僕の一刀が避けられるとは。見た目に反して素早いなあ」


「ガリマス、敵に隙を与えるな」


 ケイの毛先が光る。


 チュパカブラが口を開け地面を蹴って再び鞍馬に襲い掛かる。先程と同じように爪での攻撃である。今度の鞍馬は爪を避けずに日本刀でその爪を止めて、逆に押し返そうと前のめりになる。

 だが次の瞬間、鞍馬はのけぞった後にその場を飛びのいた。

 

「なるほど、透明化だな。子供だましには乗らないよ」


 頬を撫でる鞍馬を見たケイが舌打ちをする。


「とんだ化け物ね。イライラするわ」


「化け物とはクラスメイトに失礼じゃないですか。僕は風の流れを見て、その生物の口から何かが放たれるのを感じただけです。だから咄嗟に避けられた」


「お見通しね。くそっ」


 チュパカブラを見ると口の中に赤く細長い舌のような物がある。どうやらその舌を透明にして鞍馬に突き刺そうとしたようだ。


 初めて知るチュパカブラの特殊能力だ。こんなのはテレビや本では紹介されていなかった。少しだけ得をした。


「ガリマス、次の手よ。効かないかもしれなけど」


 チュパカブラが細い金切り声を上げると、爪先から徐々に透明になっていく。


 目だけを残して全身が透明になると、最後は赤い目がライトを絞るように色が薄くなり完全に透明になった。


 まったくどこにいるのかわからない。透明になれるのは舌だけではないようだ。


 俺が鞍馬の立場だったら、瞬時にやられていただろう。

 しかし鞍馬は全く動じていない。

 

 鞍馬が何も無い空間に日本刀を振り上げると、衝突音と共に爪を止められたチュパカブラの姿が見える。

 その姿を見せたのはわずかな間だけで、空間が揺らいでチュパカブラが再び消えた。


 そんな打ち合いがしばらく続く。


「そうよね。風の流れを見られる相手に透明化は無意味よね。くそっ」


 眉根を寄せて舌打ちをするケイ。一方の鞍馬は余裕のようで、ケイを見ながらチュパカブラをいなしている。


「風を見る以前に、足跡が残っていますよ。それを見ればどの方向から来るかなんて、一目でわかってしまいます。透明になる前に場所に合わせる戦い方を考える事です」


 ケイが、そして俺も咄嗟に地面を見る。鞍馬の言う通り、地面には無数の土を抉った跡が残っている。

 おそらく素早く動くチュパカブラは、地面を力強く蹴りあげる事でその推進力を得ているのだろう。


 なんてものは鞍馬の指摘で気がついただけ。

 俺が戦いの場に立てばそれどころでは無いだろう。だけど俺が戦えるようになる必要は無い。

 

 適材適所という言葉がある。クラスメイトの中で特異な存在は鞍馬だけじゃない。阿字ヶ峰や水引やフューレ、それにケイもその1人だ。


 出来る人に押し付ける。無理を押し通すほどの努力は俺には向いていないし、そこまで付き合ってやる気はない。


 こんな戦闘に飛び込むなんて無理だ。皆に頑張ってもらう。


 だからこそ、俺が出来ることは精一杯やらなくちゃならない。

 ケイとの戦いも、ケイの世界との戦いも、いつか俺の出番が来る。その時が前に出る時だ。


 鞍馬とチュパカブラの戦いはあっさりとつく。


「もう次の手はなさそうですね。終わらます」


 鞍馬に振り下ろされた日本刀は音を立てて空中で止まり、その一瞬だけは刀に触れたチュパカブラが姿を現す。


 鞍馬はすかさず日本刀と鍔迫り合いを行っているチュパカブラの腕を掴むと、引き寄せる。

 チュパカブラも真っ赤な舌を伸ばすが、鞍馬には当たらない。


 そして鞍馬はチュパカブラの腹部を蹴り抜いた。吹っ飛ばされたチュパカブラは地面の上で仰向けになって、ピクリとも動かなくなった。


「やっぱり血ばっかり吸っているような奴では手も足も出ないわね。上手くいかない。本当にイライラする」


 唇を噛むケイは俺を睨む。


「ケイ。降参をする気は無いようだな」


「当たり前よ。私は私の世界が居場所なの。生きてきた意味もそこにある」


「それであってもケイは俺のクラスメイトで友人だ。迷っている友人を突き放す事は出来ない」


「きっしょ。委員長が私の何を知っているっていうの」


「何も知らん。ケイは何も話してくれないからな。だからケイの立場とか思いが邪魔をするというのなら、戦う事しかできないのなら、決着を付けようじゃないか」


「そうね。私はそれ以外にとれる手段は無いし、勿論委員長も引く気は無いのでしょう。それならば決着をつける。行け、【バーラーバック】」


 ケイが腰の球体を叩くと、本日3つ目の光球が飛び出した。その光球が形を作っていくのだが……。

 

 でかくねえか。


 光球は蛇のように長い何かに変わっていくのだが、その全長が10メートルを超えている。そして色が付き、その巨体の正体が判明した。


「モ、モ、モンゴリアンデスワームだああああああああぁぁあ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る