伊達先輩の身の上話に衝撃を受ける

 さあ、お次は掛川城を目指す。

 名古屋城の最寄の駅から地下鉄を乗り継いで、名古屋駅までやって来た。


 移動の前に、お昼ご飯を食べることにした。

 名古屋と言えば、「ひつまぶし」や「味噌カツ」が有名だが、ひつまぶしは高すぎるので、味噌カツを食べようということになった。

 名古屋駅と地下でつながっているエスカというレストラン街で味噌カツ定食を3人で食べた。先輩女子2人には量が多かったみたいで、ほとんど平らげたものの、ちょっと苦しそうにしている。


 名古屋駅に戻り、ここからは、まず新幹線で豊橋駅まで移動する。

 なぜ掛川駅まで一挙に行かないのかは、先日、伊達先輩が説明してくれたが…。


 ええと…。


【以下回想】


 伊達先輩:

「本当は在来線で移動するのが安上がりだけど、前日の松本~名古屋の特急料金で『乗継割引』を使うから。名古屋~豊橋で新幹線を使わずに、松本~名古屋だけの特急料金(自由席)は2,200円。そこで、名古屋~豊橋まで新幹線利用で松本~名古屋の特急料金が乗継割引適用で半額の1,100円になる。


 名古屋~豊橋 新幹線自由席 990円

 松本~名古屋 特急料金 1,100円(乗継割引で半額)

 ------------------------------------------------------

 合計          2,090円


 だから、110円得というわけ。しかも、豊橋までは早く行ける。でも、名古屋から掛川までは新幹線自由席で2,530円もするからね。節約ということを考えると却下よ」


【回想終了】


 やっぱりよくわからない。

 まあ、お金は部費から出ているから、ここは従おう。


 なんやかんやで、新幹線のホームへ上がる。

 実は、僕は、新幹線に乗る機会がほとんどなかったので、ちょっとテンション上がっている。


 こだま号に乗って2駅で豊橋駅だ。30分も掛からない。

 あっけなく豊橋駅到着。新幹線を降りて、そして在来線に乗り換える。

 豊橋駅からは浜松駅まで、浜松駅で乗り換えて掛川駅を目指す。


 道中、僕は車窓を眺めたり、参考書を開いたりして時間をつぶした。

 先輩2人は相変わらず、スマホでゲームをやっているようだ。

 参考書を読んでいる僕に、上杉先輩が話しかけてきた。


「真面目だねぇ」


「僕は要領悪いので、人より多く勉強しないと、成績がすぐに下がるんですよ」


 そういえば、上杉先輩が勉強をしているところを見たことが無いな。

 さらには、伊達先輩は僕に勉強を教えてくれるが、彼女自身も自分の勉強をしているところを見たことが無い。

 

「上杉先輩は、勉強しないんですか?」


「するわけないじゃん」


『わけないじゃん』って…。いいのだろうか?


「アタシは卒業が目標だから、留年しないように赤点取らないようにしてるぐらい。赤点があっても最悪、補習があるしねー」


 それでいいのだろうか? という疑問もあったが、それは上杉先輩の考えだから、干渉しないようにしよう。


「伊達先輩は勉強は?」


「私は家で少ししてるけど、基本あまりしてないわ」


 伊達先輩はいつものようにあまり表情を変えずに答えた。

 それに、上杉先輩が付け加える。


「恵梨香は、アタシと違って頭いいから、授業聞いているだけでいいんだよね」


「それはすごいですね。脳みそをわけてほしいです」


 心の底からそう思う。

 そして、上杉先輩が畳みかける。


「恵梨香ん家は、家族みんな東大だからね」


「そうなんですか?!」


 驚いて、思わず大声になってしまった。


「そうね。でも、私は東大にはあまり興味がないわ」


 雑司ヶ谷高校は建前は進学校だが、実態は中の中ぐらいの凡庸な高校だ。伊達先輩のような頭の良い人は少ない。


 伊達先輩の家族が全員東大の衝撃が強すぎて、少しの間、参考書の中身が頭に入らなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る