第16話 女子に守護られる系男子

「なんか最近、変な奴らに絡まれるのよねー」


「へえー、そうなんだ」


 下校中、あかりは疲れた顔で肩を回して愚痴ってきた。

 その変な奴らと言うのは十中八九俺たちが仕掛けたものだから、反応に困って適当な相槌を打ってしまう。

 単純に疲労感を与えてしまっているのは素直に申し訳ない。俺たちはあかりを苦しめたいわけじゃないんだ。ただ元通りに戻って欲しいだけで。


「ちょっと息抜きしたいかも。ねえ、今度の休みデートしましょ」


「で、デート?」


「予定あった?」


「いや、ないけど」


「じゃあ決まり、ね!」


 ニカっとあかりが笑う。

 そんな顔をされたら拒むに拒めない。

 あかりに迷惑をかけているのは俺だし、デートくらい付き合ってもいいか。

 思えば告白された日から二人で出かける機会はなかった。

 毎日のように至る場所に連れまわされるものと思っていたけど、流石に物理的に無理があるか。


「どこ行きたい? 私水族館がいいかも」


「いいんじゃないかな。あかりって魚好きだよね」


「ええ! でも一番好きなのは鯨よ。世界最大の巨体で海を優雅に泳ぐ姿を見ると、世界の神秘を感じるわ」


 きっと細胞が強敵を求めてるんだよ。

 なんてことも言えずに、俺はいつものようにうんうんと頷く。

 あかりは案外ロマンチストなんだ。気持ちよく空想に浸っている時に水を差すようなことを言ったら100万回シバかれるのは間違いない。


「楽しみねー。どんな服着ていこうかしら。ねえ、どんな服が見たい?」


「なんでもいいよ。あかりなら何だって似合うだろ?」


「もー、そういうことじゃないんだけど」


 いや、だって事実だし。

 美少女はなに着たって似合うんだ。

 ボロ布を被ってても美少女ってだけで男は欲情するものだし。むしろボロ布だからこそ刺さる性癖もある。

 あかりの私服なんて腐るほど見てきたけど、一度として似合わないなんて思ったことはない。あかりは何でも着こなす。服があかりに合わせてくれるんだ。


「あかりの私服なら何でもいいよ。あかりの私服姿ってだけで価値があるんだからさ」


「そ、そう……」


 途端にあかりは耳を赤くする。

 あれ、俺もしかして今めっちゃ恥ずかしいこと口走った?

 ちょっと変態っぽいな。というか変態だよな。

 まずい。重度のあかりオタクだと思われてもたまらん。俺は弁明するべく身振り手振りで説明する。


「いや違うんだよ今のはアレがアレでアレして――」


 どうにか意思を伝えようと頑張っていると、突然あかりがこっちに振り向いて距離を詰めてくる。残像が見えた気がした。

 ひょっとしてボディーブローでもお見舞いされるのかとなけなしの腹筋に力を込めるが、あかりはあらぬ方向に拳を振り切る。


 直後にゴンッ! という打撃音が俺の耳元で響く。


「な、」


 なんだ?

 驚いてあかりの手を見ると、左手の甲が赤く染まっていた。

 そして視界に映る、宙を舞う野球ボール。

 そうか。いま俺たちが歩いている場所はグラウンド横だから、練習中の野球部のボールが飛んできたんだ。

 あかりが守ってくれなかったら俺に直撃していたかもしれない。


「清太、大丈夫?」


「あ、ああうん……って、いや、それこっちのセリフだから! 手、赤くなってるじゃん! 擦りむいてるし!」


「大袈裟ね、ちょっと腫れてるだけよ。ほっとけばすぐ治るわ」


「そんなわけあるか! 保健室行こう!」


 俺はあかりの手を引いて道を引き返す。

 するとグラウンドの方から野球部員らしき人がこちらに駆け寄ってくる。


「ごめん、大丈夫だったか!?」


 こっちを気に掛ける声を聞いて、俺は苛立つ。


「大丈夫なわけないだろ! あかり……この子が怪我したんだぞ! どうし、て……」


 怒りのままに怒鳴りつけていたけど、相手の姿を見て言葉が詰まる。

 金髪に青い目。テーブルクロスを拾ってくれた先輩だった。


「本当に申し訳ない。どこを怪我したんだ? 見せてくれ」


「い、いや、全然大丈夫なのでお気になさらず! ほら、清太! 保健室いくんでしょ! 早く!」


「え、あ、あかり!?」


 あかりは差し出してきた先輩の手を振り払って、俺の手を引いて走り出す。

 ものすごい速度でほとんど引きずられた状態だ。

 怪我人が出せる力じゃない。どうやら本当に大したことはなかったらしい。

 それにしても俺、先輩にキレちまった。

 調子に乗ってる後輩とか思われたらどうしよう。野球部員総出でいじめてきたりしないよな……?

 不安になって先輩の方を見てみると、唖然としているのかその場に立ったままジッとこちらを見つめていた。

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