021 勧誘①

 パーティ募集の貼り紙を出して、後日。

 朝食を終えた俺とカティアは、一緒に宿を出た。

 一緒に。

 宿を……



「――って、なんでおまえ俺の部屋で寝てンだよ」


「? 今さらなに?」


「いや、ホント今さらなんだけどさ……」



 隣を歩くカティアを一瞥して、ため息を吐く。

 


「もっと女としての自覚とか持った方がいいンじゃねえの?」


「自覚してるわよ。わたし、巷で美少女って言われてるし、よく人目を惹くわ」


「いや、そういう自覚じゃなくって」


「?」



 まあ、いいや。

 相手が俺だけなら、いいや。



「誰か応募してくれてたらいいンだけどなあ」


「難しいと思うわ。わたしとあなたの噂に加えて、昨日の大乱闘……冒険者ギルド史上初の騒ぎだったそうよ」


「へえ……それは意外。百年前とかしょっちゅう起きてそうだけどな」



 師匠とか、見た目どおり喧嘩っ早そうだし。



「物好きにかけるしかないわね。ほら、ゲテモノ喰いとかよくいるじゃない?」


「そのゲテモノに含まれてていいのかよ、おまえ」


「美味しいわよ、意外とね」


「いつ行ったんだよそんな店……」



 ゲテモノ代表格であるポイズン・フロッグの足を口からはみ出しながら食べているカティアの姿なんて見たくないな。



「ンじゃ、誰か来てることを願って……」


「ええ」



 一縷の希望をもって、俺たちは半壊した冒険者ギルドに入った。



「――半日経ちましたが、まだ誰も来てませんよ」


「そ……うか……まあ、そうだよな」



 受付嬢サレンの微苦笑をみて、俺は項垂れた。



「まあ、アルマさま。まだ半日しか経ってませんから。そもそも、そう簡単に集まるものでもありませんし、Aランク以上ともなれば尚更です」


「そうだよな……それくらいのランク帯ともなれば、クランやらパーティに入ってるもんなあ」


「はい。ソロでやっている方はほとんどいませんし、仮にいたとしてもソロが好きなお方ですので、パーティには入るどころか掲示板すら見ませんよ」


「なるほど……ちなみに、あてとかないか? 最近パーティ解散してソロになったとか、喧嘩別れしてパーティを探してるとか」


「低ランク帯でならよくあることなんですけど……一つランクを下げてみてはいかがですか? そうすればもっと幅が広がると思いますけど」


「んー……どうする? カティ」



 俺の斜め後ろで仁王立つカティアが、静かに瞼を開けた。



「Aランク昇格間近なら問題ないわ」


「じゃあそれも追加で」


「いえ、あの、できればご自分で条件の追加おねがいします……」



 募集の条件を付け足し、時間を潰すために依頼を受けてメラクを出た。

 それからさらに数時間経ち、夕方。

 依頼達成の証明部位をもって再びギルドにやってきた俺たちだったが……。



「あはは……まだ、誰も来てません。その、もう少し時間を頂くか、もう少し条件を緩めれば、もしかしたら……」



 サレンの苦笑いをまえにして、なんだか彼女に申し訳ない気がしてきた俺は、テーブルに座って作戦会議を開くことにした。



「やっぱり、噂が足を引っ張ってるとみて間違いないと思うんだが……どうにかできないかねえ」


「コントロールできないことを考えてもしょうがないわ。時間もないんだし」


「つってもなあ……どっかにアテがあれば…………ん?」



 アテか。こういう時、協力してくれそうなヤツ……プラスで、俺たちに匹敵する実力者といったら……。



「カルロさんに頼んでみるか」


「か、カルロ……! あの【双頭の番犬オルトロス】の団長ね……!」


「やっぱそういう肩書きの男って憧れる?」


「ええ、強そうじゃない。ぜひ手合わせを願いたいわ」



 なるほど、男として魅力的に云々ではなく、強いから剣を交えたいという気質なのね、おまえは。



「なら俺はどうよ? その点で言ったら魅力的じゃね?」


「機会があればやってあげてもいいわ。けど、あなたにわたしが殴れるかしら?」


「忘れたか? 昨日はお嬢様関係なくぶん殴ってやったぜ。ほら、あの子」



 テーブルの上に突っ伏している魔術師の少女を指さす。俺に見られていることに気がついたのか、彼女はビクッと体を震わせてトイレへ駆けて行った。



「あの子、たしかAランクの魔術師だったよな。氷系統の魔術使ってたからしっかり覚えてるぞ」


「あの様子じゃ手助けなんて期待できないわ。顔を真っ赤にしてトイレに逃げ込むなんて、相当ビビってるわね」


「真っ青じゃなくって真っ赤なんだな。相当ご立腹じゃねえか。俺は絶対に謝らないぞ?」


「謝れなんて言ってないけど」




 閑話休題。


 


「とりあえず、カルロさんに助けを求めるのはどうだろう。あのひと優しいし、一人や二人、貸出ししてくれるんじゃね?」


「もしそれが叶うなら心強いけど……それも難しいと思うわ」


「なんで?」



「【双頭の番犬オルトロス】は今、メラクを代表して魔人討伐連盟に加わっているの」



「なにそれ」


「友好国の領域内を侵犯した魔人を捜査、討伐するための、いわば合同軍よ。わたしたちの噂以上に有名な話だと思うけど」


「何かを引き合いに俺らの噂出すのやめない? なんか自虐ネタになってる気がするぜ?」



 それにしても、魔人討伐連盟か……そんな話、聞いたことなかった。

 それだと協力を仰ぐのは難しいか。



「じゃあ……うちの師匠を出すしかないかなあ……そうしたらオルヴィアンシ? だっけか。あいつもビビって土下座すると思うんだけど……」


「よく師匠ってあなたの口から聞くけど、どういうひとなの?」


「ああ、言ってなかったっけ? 俺の師匠は――」



 言いかけて、口を閉ざした。

 


「やっぱり……師匠を頼るのはやめる」


「え、ええ、それは別にいいのだけど……どういうひとなのかを教えてほ――」


「俺の力でなんとかしないと意味がねえ。こういうところから、師匠を越える一歩が始まってると思うんだ」


「……ねえ」


「なんだ?」


「あなたのししょ――」


「あ」



 そこでふと、俺の脳裏にふたりの顔が浮かんできた。



「カティ……最低限欲しいのって、回復術師と支援系全般を任せられる魔術師だよな?」


「…………ええ、そうよ」


「俺、心当たりあるぞ。とびっきり優秀なヤツら。冒険者じゃないけど」



 頼んでみる価値はある。むしろ、勝率は高い。

 いつ来るかもわからない求人を待つより、こちらの方がレスポンスがいい。



「冒険者じゃないけどって、一般人はダンジョンに入れないわよ?」


「冒険者登録させればいい。あの二人なら、適正試験でAはいくぞ」


「……ふぅん」



 少し、不機嫌そうに視線を尖らせたカティア。

 そういえば、俺が適正試験でAをとった時も、こいつ納得できなくて絡んできたんだっけか。



「ま、まあ、我儘は言ってられないだろ?」


「言ってないわよ、ワガママ。……それで、信頼できるの?」


「ああ。あの魔境を共に乗り越えてきた同志だ」


「……ということは」



 そう、あの王国最高峰にして死傷者が毎年続出する合法魔境――アケローン魔術学園。

 その中で競い、戦い、生き残った同志。

 中でも特に優秀で、慕ってくれたふたりでもあり、今現在どこにいるのかも明確なふたり。



「明日、魔術学園に向かうぞ」







「――――先輩が、シャルを呼んでる。デス」



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