第94話  修羅場と化す女子会




「やってきたね、とうとうこの時が···!」




ボクが声をあげると、目の前の少女たちは一斉に首を縦に振る。

そう、ボクは一度やりたいことがあった。

それは―――




「さあ、女子会パジャマパーティーを始めようか!」


「「いぇーい!」」




ボクの音頭に合わせ、参加している全員が声を一斉にあげた。

そう、ボクがしてみたかったのは女子会だ。

今までろくな友達を作ってこなかったため、こういうことをするのが夢だった。




「あらあら、楽しみですね」


「ん、同意」


「な、なんだか緊張しますね」


「でも、私もやってみたかったんだ」


「私もです、ふふっ」




参加者はボクを含めた内空閑姉妹に桜さん、桐島さん、岸さんの六名。

皆、それぞれ可愛いパジャマを着てリラックスしている。

会場は、美白さんの部屋で行われた。

目の前のテーブルにはお菓子やらジュースが、ところ狭しと並んでいる。

ちなみに男子は禁制なため、彼方は部屋でお留守番だ。

つまり、女子トークが遠慮なく出来る。




「にしても美白さん、その格好は正直どうなんだい?」


「あらあら?何か不都合でも?」


「いや、不都合しかないというか···」




美白さんのパジャマは、胸元に深いスリットを入れたベビードール風のものだった。

うん、確かに可愛いのだけれど大事なところが丸見えである。

そう、特にその大きくて形の良いおっぱいが。




「私、これしか持ってないんです」


「美白は家にいる時、基本的に全裸だから」




衝撃のカミングアウトに、誰もが絶句した。

意外だ。結構上品なイメージだったのに、まさか裸族だったとは。




「そのせいで、花咲彼方君と一緒に住むことが黒羽から許可されませんでした」


「当然。そんな姿、彼方に見せるわけにはいかない」


「ああ、もっともだね。ボクらが一緒に住んでいるとはいえ、そんなハレンチな姿は彼方に見せられない」


「あらあら、残念です」




彼方だって男の子だ。

ボクがおっぱいを当てただけであんなに照れていたんだから、女の子の全裸なんて見せたら何が起こるか分かったものじゃない。

間違いなんてあったら危険だ。

ボクの意見に黒羽さんが頷く中、桜さんや桐島さん、岸さんの三人はまるで金魚のように口をパクパクさせて唖然としていた。




「ん?どうしたんだい?」


「ど、どうしたもこうしたもないですよ!」




ボクの疑問に、桜さんがあわあわと顔を赤く染め上げながらも食い付いてきた。




「つ、紡さんはお兄ちゃんと、ど、ど、同棲してるんですか!?」





同棲という単語が恥ずかしかったのか、詰まりながらも言う桜さんの言葉に、桐島さんや岸さんも顔を赤く染めて真剣な眼差しを向けてきていた。

あぁ、そういえばちゃんと言ってなかったっけ?




「まあ、そうだね。でも、ボクだけじゃなくて黒羽さんも一緒だよ?」


「そんな些末なことはどうでもいいんです!」


「さ、些末···」




桜さんの言葉にショックを受けている黒羽さんを見るのは珍しい光景だが、そんなことを気にしていられる場合ではない。

いつの間にか桜さん、桐島さん、岸さんにボクは完全に包囲されてしまっていたからだ。




「そうですよ、ズルいです!」


「どうしてそんなことになってるんですか!?」




そういえば桐島さんや岸さんには、彼方が何故家から出たのかすら知らなかったな。

桜さんも家を出たことは知っていたが、ボクらが一緒に住んでいることまでは知らせていなかった。

あの頃はドタバタしていたから伝えるのが遅くなってしまっただけなのだが、彼女らの視線がやけに痛々しい。




「く、黒羽さん!何とかしてくれないかい?」


「ふ、ふふっ···私は些末だから関係ない」




桜さんに言われたことが相当ダメージが大きかったのか、黒い笑みを浮かべてジュースを飲んでいる。

ダメだ、黒羽さんには頼れない。

こうなれば、美白さんのほうに顔を向けてみるしかない。




「み、美白さん!助けてくれない?」


「あらあら、私があなたを助けるメリットがどこに?いいじゃないですか、私もあなたたちがどう過ごしているか知りたいですし」


「あっ、ダメだこれ」




自分で蒔いた種とはいえ、こうなることは予想していなかった自分が浅ましい。

とはいえ、この雰囲気は見逃してくれそうにもない。

仕方ない、腹を括るか。




「わ、分かったよ。全部話すから、とりあえず離れてくれないかい?」




そんなギンギンに殺気が籠った目で見られると、さすがのボクも萎縮してしまう。

なんとか三人を宥め、ボクはその経緯について正直にありのまま伝えた。




「―――ということなんだけど、納得したかい?」


「出来るわけないじゃないですか!」


「···ですよねー」




うん、まあ、分かっていたさ。

ボクも逆の立場なら、絶対に納得出来なかっただろうしね。




「そ、そういうことなら、私がお兄ちゃんと一緒に暮らします!」




桜さんのその一言に、ボクを含めたこの場にいる全員が愕然とする。




「い、いやいや、何を言ってるんだい?」


「だって!と、年頃の男女が同じ屋根の下で寝泊まりするだなんて!ふ、不潔ですよ!」


「だからって、それは君も同じだろう?」


「わ、私は妹だからいいんです!それに、お兄ちゃんだって男の子ですよ!?ま、間違いがあったらどうするんですか!?」


「私は、別に襲われても構わない」


「黒羽さんは黙っててください!」


「えっ、あの···私、一応当事者···」


「いいですか!?そもそもですね···!」




有無も言わさぬ桜さんの説教に、ボクと黒羽さんは何も言い返せずに黙って聞くしかなかった。

ボクらは今までどんな悪意にも負けずにやってきたが、一番最強の敵は桜さんかもしれない。




「―――と、いうわけでして。紡さんと黒羽さんはお兄ちゃんの部屋から出ていってくださいね?もう悪意から守る必要も無いんですから。その代わり、私がお兄ちゃんの部屋に住みます」


「えぇっ!?い、いやいや!いくら兄妹でも、それは許されないんじゃないかな!?」


「ん、同意。私もそれは認めない」


「わ、私も反対だよ!というか、やっぱりズルい!」


「私も異論ありまくりです!」


「兄妹だから許されるんです!それに、その、妹ですし?お、お兄ちゃんの獣のように餓えた目で見られたとしても平気です!」


「問題大ありだよ!そ、それだったらボクも、彼方にエロい目で見られても問題はないね!」


「同感、私も平気」


「わ、私はちょっと恥ずかしいですけど···で、でもカナくんになら見られたって構わないです!」


「わ、私だってそうですよ。は、初めては彼方君に捧げても問題ないですから!」




ボクを初め、桜さんや黒羽さん、桐島さんや岸さんが言い合いを始めてしまった。

楽しい楽しいパジャマパーティーは、一体何処へやら。

醜い醜い、修羅場と化してしまった。

そんな中、美白さんが「ふふっ」と小さく笑って間に入ってきた。




「あらあら。皆さん、落ち着いてくださいね?気持ちは私も分かります。なので、ここで私から一つ提案があるのですが···」


「美白さんの提案?」


「ろくなことじゃない、きっと」


「失礼ですね、黒羽。大丈夫です、変なことじゃありません」




美白さんはそう言うと、ボクら一人一人の顔を見てから言った。




「一つ、勝負をしませんか?」


「しょ、勝負?」


「はい。いくら花咲彼方君が感情を取り戻したとはいえ、彼は私たち全員に恋愛感情を抱いている節が見受けられません」


「うぐっ···!」




美白さん以外の全員が、苦虫を噛んだような顔で言葉に詰まる。

確かにその通りなんだけど、改めて言われると結構ショックだなぁ。




「そこで、彼を意識させる勝負をしませんか?もちろん意識させた方には、彼と一緒に暮らす権利を差し上げます。どうです?」




彼女の言葉に、私たち全員が黙って考え込む。

確かにうだうだ話し合うよりも、いっそのこと勝負をして決めたほうが後腐れもない。

それにあくまでこれは、一緒に住める権利を賭けた戦いだ。

恋を賭けた勝負ではない。

まあ、彼方との同棲がかかっている以上負けるつもりなんてさらさら無いけど。




「···分かった、ボクは受けて立つよ」


「全員、私の敵じゃない」


「お、お兄ちゃんともう一度一緒に暮らすためなら、なんだってやりますよ!」


「わ、私だって自信はないけど···で、でも女として負けられない!」


「同感です!私だって、みすみす譲る気なんてありませんから!」




全員の承諾を受け、美白さんはニヤニヤと嗤い出した。

なんだかとてつもなく嫌な予感はするが、ここで逃げ出すつもりは無い。

かくして、彼方本人の許可無しで、彼との同棲を賭けた勝負の火蓋が切って落とされた。





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