第94話 我慢

 しかし……。

レイラは1ヶ月も経たないうちに透に会いたくなり、日本に行くと言い出した。レイラからすれば、大臣たちも結婚を認めた。不承不承ながら透の母親も結婚を認めてくれた。自分たちの結婚を止めるものは、もはや何もない。結婚の決まった婚約者同士、会わないでいる理由は何も無いはずだった。


 透は慌てて、記者たちの取材熱が収まるまで、あと2ヶ月は来日しないよう説得した。しかし、今まで押し込められていた気持ちから、解き放たれてしまったレイラは、後に引こうとしない。レイラに、「来日しないでほしい」と言うのであれば、透に来て欲しいと我儘を言うレイラを宥めて、春休みまで我慢して欲しいと頼んでも、今後の事で相談したい事があると言って聞かない。確かに、双方の周りの合意を得られたものの、式をいつにするのか、匠のお披露目はどのタイミングでするのか等々、決めなければならない事はたくさんあった。しかし、透はどうしてもやらなければいけない事があるから、と断った。 


 レイラは匠に、透が何をしようとしているのかを聞いた。しかし、匠から返ってきた答えは、透がどこに行ってしまったか分からない、と言うものだった。レイラは不安になった。しかし、透からは、まめにメッセージが来る。透らしくない、まめさがレイラを余計に不安にさせた。透にどこにいるのか、何をしているのか聞いてみても、心配しないで欲しい、今は言えない、としか返ってこない。 

 不安で仕方がなくなったレイラは、透の気配を探す事にした。匠から海外にいると聞いている。レイラは早速、透がイギリスにいる事を突き止めた。欧州にいるからこそ、わかったのかもしれない。レイラは透に逢いたい旨を伝え、教えてくれないのであれば、探し出す、と通告した。


 透はサファノバに諜報機関がある事をアレクシスから聞き、隠していても見つかるのは時間の問題だと諦め、レイラに理由を話す事にした。一緒に暮らす前に、出来る事なら採卵して凍結しておきたい事、その際に、レイラには自分の姿を見られたくない、という事を伝えた。レイラはそう言われれば、逆に見にきてしまうという事を、透はすっかり忘れていた。鶴の恩返しではないが、見ないで欲しいと言われれば、相手に関心があればある程、知りたくなってしまうのが人の性だ。

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