第50話 恋愛指南
透が三日ぶりに帰宅すると、匠が心配そうに寄って来た。
「急に出かけちゃったけど、レイラに何かあったの?」
透はざっくりと三日間にあった事を話した。
「レイラが命がけで交渉してきたから、匠は安心してサファノバへ行く事が出来るようになったよ」
「レイラの行動力はすごいんだね」
「匠の母親は、国を守る女王だからね。サファノバは中世の面影を残した美しい国だったよ。冬休みに、サファノバがどんな所か、行って自分の目で見て来るといい」
匠はあの美しい母親が、自分たちの為に命をかけて、交渉に挑んだ事に心を動かされた。レイラは、常に透を追いかけているだけのように見えるが、それは透といる時だけで、通常は物事をきちんと把握し、進めていくのだろうと気がついた。それに比べて、自分は何も出来ない、こんな自分がレイラの後を継ぐ事ができるのだろうかと、不安になった。さらに、一人で全く言葉の通じないサファノバへ行く事も、匠には不安だった。
「冬休み、メンバーも一緒にサファノバに行かれたらいいのに……」
「なんで?」
「一人で行っても、レイラは忙しいし、ずっと相手をしてくれるわけじゃないでしょ。言葉もわからないし……」
「今からそんな事を心配しなくても、アントンもいるし、大丈夫だよ。私も一緒には行かれないけれど、後から行くから」
人気の無い場所で、こっそり鼻歌を歌っているレイラを見て、護衛のニーナとミハイルがアントンに聞いた。
「レイラ様は日に日に、ご機嫌が良くなっていくようだけど……」
「あ〜、冬休みに匠君と透が来るからな」
ニーナは納得した。レイラが透を救いに日本に行った時に同行していた。あの時の、レイラの怒りの炸裂した戦いぶりは凄かった。あんなに、怒りをあらわにしたレイラをニーナは見た事がなかった。そして、透がレイラを救出しにきた時も、もちろん、ドローンを特訓して参加した。
ミハイルはのんびりと、言った。
「透が来るのか。それは楽しみだな。クラヴマガをやっているのだよな? レイラ様に襲いかかった家令も簡単に倒しているし、今度来たら、手合わせしたいなぁ。そう言えば、透が帰国した日、レイラ様は急に元気がなくなったのは、それだけ想っていられるからなのか」
「手合わせはいいが、透に怪我でもさせたら、レイラ様に殺されるぞ。レイラ様、張り切りすぎて、冬休みに二人が帰国してしまった後、抜け殻のようになってしまわなければいいのだが……」
今回は透を帰国させたが、いつまでも返事をしない透を、次は帰さないと言いだすかもしれない。アントンは今から心配だった。
一方、匠は自宅のリビングでソファに寝そべって、スマホをいじっていた。透が後ろからそっと覗き込むと、レイラからのメッセージを読んでいるようだった。
「匠、この間、レイラに私の寝顔写真を送っただろ」
「なんで知ってるの?!」
「レイラがその写真を待ち受けにしていたから。変な写真を送るなよ」
「あれを待ち受けに!? ごめん……。大丈夫だよ、今は、ほら、この写真を待ち受けにしているみたいだから」
匠が透に見せた写真は、二人でバイクに乗っている写真だった。
「あ、この間の写真」
透はそう言いつつ、匠のスマホをひょいと取り上げた。
「あ、返してよ。まだ読んでる途中なんだから……」
「なになに、
『1、毎日、相手の視界の中に何回も入るようにする。
2、出来る限り声をかける。
3、さりげなく褒める。
4、その子だけではなく、みんなに親切にする。その子だけ特別に親切にする。
5、たまにハプニングで驚かす事。
それを続けているうちに、急に休んだり、いなくなったりした時に、寂しいと思ってもらえるはず。
6、好意を持たれているとわかったら、唇を奪う事。
透には内緒』……。匠、レイラと仲の良いのはいい事だけど、恋愛相談をする相手を間違っていると思うぞ。1から4はいいとして、くれぐれも、レイラの真似はしないように」
「レイラはそれを実行して、透ちゃんを振り向かせたんでしょ?」
「振り向くも何も、レイラは男装して学校に来ていたし、私も友達だと思っていたし……」
「久しぶりに会って、男子だと思っていた人が女子だとわかった途端に、恋に落ちるかな? 元々レイラを好きだったんじゃないの?」
「レイは当時、私にとっては同性だったんだよ」
「そんなの関係ないんじゃないかな、男だろうと、女だろうと、好きになった相手なら」
透は、自分でもよくわからなかった。もし、レイラが本当に男性で、同じシチュエーションで病院に忍んできて、同じ事を言ったら、即断るだろうか。それとも今と同じような気持ちになるのだろうか。
それとは別に、匠の方が常識的だから、そんな事はしないとは思ったが、レイラの真似をすれば、相手によってはストーカーで訴えられてしまうと、透は匠を心配した。レイラの行動は過激だ。しかし、今までの経緯を知らない匠に、母親を幻滅させるような事を言わない方が良いと考え、これも墓場まで持っていくしかない、と思った透だった。
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