第七話(三)
「母さん、少し休んだら?」
急な葬儀の準備でくたくたになっていた母親に、「私が寝ずの番するよ」と、彼女がようやく一息ついたところで詩織は申し出た。
母親には寝不足のままで祖父の葬儀に出てほしくない。それに、ここ数日で自分がしたことといえば、お茶汲みぐらいだった。周りの大人達は皆、疲れ果てている。
普段なら「大丈夫よ」と相手を気遣う母親も、さすがにいっぱいいっぱいだったようで、詩織の厚意に甘えた。「ありがとう」と娘をぎゅうと抱き締めながら。
「眠たくなったらいつでも呼んでね」
「分かった」
こうして寝ずの番を代わろうとしたときだった。
「詩織」と、その手紙を渡されたのは。
「なに?」
「おじいちゃんから、詩織にって……」
(遺言?)と見つめ返すと、母親は頷いた。「入院してすぐの頃にね」
――俺に万が一のことがあったら、詩織ちゃんにこの手紙を渡してくれ。
「ずっと預かっていたけど、中身は見ていないから」
父親も、病院の関係者も。
「おじいちゃん亡くなったばかりだし、気持ちが落ち着くまで読まなくてもいいから…‥でもいつか、ね?」
「今夜読む」
「……辛くなったら読むのやめなさいね」
「分かってる」
一人になってから詩織は手紙を読み始めた。逸る気持ちを抑えながら、貞治が遺した手紙を心して読み始めた。
手紙の中身は、いつか読んでもらった『海と家』の感想や「多くの人達に夢を与えられる作品を書いてほしい」と懐かしい話も多かった。文字は乱れていても、「孫にメッセージを残すんだ。残さないと死に切れない」と、一つ一つの文章から祖父の気持ちが刺さるほど伝わってきた。
未完で終わらせたくない物語を一文字でも多く書きたかったはずなのに、祖父はこの手紙を書いてくれた。文章という形で残してくれた。これから先、何度でも読み返せるようにと。
(一文字一文字に貞治さんがいる……)
【詩織ちゃんのこれから】
・大鷄島西高校に合格 入学後は名門文芸部に入る
・大鷄島文学賞で一席を受賞 大鷄島新聞に華々しく名前が載る
・高校文芸コンクールで高校文学の頂点に立つ
・高校卒業後は大鷄島を出て都会の大学に進学
・大学三年時に純文学の新人賞を受賞
・着実にキャリアを積んでゆき二十五歳で
・文学界の星としていつまでも輝き続ける!
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