少年はお出迎えする ①

いずれ主人となる少年に暴言を吐いたから監視付きで追い出されたのかもとロエンが心配していた頃──「いってらっしゃい」と送り出したアーウェンもまた長く戻らない『おにいさん』の戻りをソワソワと待っていた。

「エブラン、ただいまロエンを連れて戻りました!」

領主であり王都兵と領兵両方のトップであるラウド・ニアス・デュ・ターランドを飛び越え、帰還の敬礼を捧げられたアーウェンは同じポーズで出迎えた。

小さい身体でピシッと敬礼するその姿が可愛らしく、思わずエブランは大声で笑う。

「あっはっはっ!アーウェン様!アーウェン様は『うむ、ご苦労!』と言えばいいんですよ!」

「そ、そうなの……?」

ロフェナではない執事のひとりがアーウェンを呼びに来て、カラと共に素直についていった先に待っていたのがロエンとエブランだと知って喜んだのだが、まさか敬礼をダメ出しされるとは思っていなかったアーウェンが、やや後ろに控えるカラに顔を向けて確認する。

「……アーウェン様、エブランさんは面白がっているだけですから、真面目に聞かなくていいんですよ。他の人たちが巡回から帰ってきたのと同じくお迎えして大丈夫です」

「よかった~」

アーウェンは揶揄われただけだとわかり、ほっと胸を撫で下ろす。

だがエブランの言うように腕を後ろに回して胸を張り、「よく帰ったな!」と威張るようなアーウェンもちょっと可愛いかもしれない──ついカラもそんな想像をしてクスッと笑った。

そんな和やかな雰囲気の中、目の前の茶番のようなやりとりに呆れと苛立ちを混ぜた視線をロエンは向けつつ口を引き結ぶ。


帰ってきたらきちんと無礼を謝ろう──そう思っていたのに、何故かアーウェンの艶やかな黒髪を目にした途端、怒りにも似た感情がフツフツと湧いてきた。

その熱を散らして無表情でいようとすればするほど、カラの優しげな表情とエブランの楽しそうな声にイラついてしまう。

「……なぁ、俺もう自分の部屋に荷物置きたいんだけど」

「あぁ?」

プイッと視線を逸らして文句を言うと、先輩の低い声が返ってきた。

「ロエン……お前、兵舎に帰還したらまず何をするのか、ちゃんと教えたよなぁ?」

「ヒッ………」

ふざけた感じだったとはいえエブランはきちんとアーウェンに挨拶をしたが、実のところロエンは荷物を肩にかけたまま軽く頭を振っただけで帰還の口上を述べていない。

そのことを咎められるのは当然であるが、その口調が強すぎて思わず悲鳴が漏れた。



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