少年は憧れる ⑤

「ハーッハッハッハッ!!いやぁ!これほど愉快な質問は、久しぶりに聞いた!」

「え?え?え?……あ、あの……ご、ごめんなさい……き、きいてはいけなかったのですね……」

「ええっ?!ち、違いますよ!坊ちゃん!!」

ルベラというおじさんは優しい人だと思ったのに突然笑われて、アーウェンは思わず身体を縮こませて謝る。

なぜ当主の義息子となる子供が頭を下げるのかわからず、ルベラは慌ててその身体を抱き上げて立ち上がった。

「ウ…ウワァァァァ───ッ!!」

実父よりも頭ふたつ分は高いと思われる筋肉隆々の男の肩に担ぎあげられ、アーウェンは驚いて大声を出す。

「ハッハッハッ!坊ちゃんは軽いなぁ……もっとうんと食べて、運動して、我らの総隊長になっていただかねば!」

「オ…オレが……?」

「おお!普段は『俺』と言っていらっしゃるのか!今の総隊長殿と同じですなぁ!あの方も、いざという時には言葉が荒っぽくなる。かっこいいですぞ!総隊長殿は!」

「かっこ…いい……」

「ええ。あなたの『新しいお父様』となられるラウド・ニアス・デュ・ターランド伯爵が、この王都での総隊長となります。私は魔力がほとんどないのですが、武術がこの本隊随一ということで副隊長を任命され、兵たちの訓練を行っているのですぞ!」

「はくしゃくかっかが……」

抱きかかえられた視線の先には、伯爵家の本邸がアーウェンの目に映っていた。

「ええ……伯爵閣下が、です。そして同じ質問を、やはりあなたの『新しいお義兄様』となられるリグレ様も、五歳になられて兵たちと一緒に基礎運動を始められた時にされたのです」

「ゴホンッ!ムーケン殿!」

咳ばらいをしながら、ロフェナは小さな声で注意を促した。

「……アーウェン様は、現在七歳……です。明日、八歳になられますが……その、お祝いのことは内密に」

「……………えぇぇっ?!こ、これは失礼……」

コツンとアーウェンのおでこに自分のおでこをくっつけ、ルベラはまるで叱られた犬のようにシュンとして謝る。

大人に揶揄われたりバカにされたり小突かれたことはあったが、感謝されたことや謝られたことなどほぼ無かったアーウェンは、逆にいけないことをしてしまったと思い込んで泣き出してしまった。

「ご、ごめんなさぁい……オ、オレ……なんか…ごめんなさぁい……ウワァァァァァ~~~~!!」

おそらく今まで過ごしていた男爵家と、昨日から突然扱い方が変わってしまった伯爵家との環境の落差に混乱をきたし、精神のバランスを崩してしまったと察したロフェナがアーウェンを降ろすようにと手を振って合図したが、逆にルベラは幼子をあやすように、ワッショイワッショイと掛け声をかけながらその軽すぎる体を持ったまま踊り出した。

その変な動きはあっという間に新参者以外の隊員たち全員に伝染し、皆でワッショイワッショイとすごい掛け声になって、思い思いにリズムを取り出す。

「ウエッ…ウグッ……ヒッ…ヒック……」

泣き声がだんだんとしゃくりあげに変わり、まるでお祭りのように掛け声とともに踊っている大人たちと、そのひとりに担がれてゆさゆさと揺れるのがおかしくてアーウェンが笑いだすと、さらにその声は大きくなった。

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