第二章 赤面はズルい

第二章1 思春期男子特攻三連撃

 後から冷静になって、その日は取るもの手に着かずだった。


 ――そう言えば俺、口止めも何もしてない。


 目立たないためには、ダンスのことは隠すのがマストだ。

 なのに、俺は甘音に割とキツく当たってしまった。


 腹いせ、愚痴、あるいはただの世間話。

 いつバラされたっておかしくない。


 かと言ってこちらから話しかけるのは藪蛇だし、途方に暮れるしかなかった。


 だが、甘音は誰にも喋っていないようだった。

 俺に声をかけてくるようなこともなく、拍子抜けするほど平常運転。


 むしろ警戒してチラチラ見ていた結果、彼女の友人に睨まれる始末である。

 怖いよあの視線、たぶん目で殺せる真の英雄だよあれ。


「うーん……」


 一夜明け早朝、屋上へ向かいながら思慮に沈む。


 もしかして、考え直したとか。

 別れ際はあんなだったし、やっぱり一緒に踊るとかムリ、っていうか顔も見たくない、同じ空気を吸うのも無理、一生息止めてて、みたいな。

 いやそこまで言う? まぁ息止め続ければ一生は終わっちゃうよね。


 なんて考えながら、屋上のドアを開けると――


「あ、おはよー」


 いた。甘音だ。

 俺に気がつくとニコニコ挨拶してくる。無駄に顔がいい。


「いや、なんでいるの……」


 で、むっとされた。


「挨拶は?」

「え……お、おはよう」


 よし! と一転顔を綻ばせる彼女。

 なんだそのこだわり。あと顔がいいなオイ。


「で、なんで」

「なんでって、話するって言ったじゃん」

「てっきり考え直したかと……」

「そんな訳ないでしょ! 種子貫通!」


 いや、初志貫徹な。タネマシンガンか何か?

 プンスコする甘音はこう続ける。


「だって咲楽くん、教室の中で話しかけられたら嫌がるタイプでしょ?」

「……それはまぁ」


 おお、意外によくわかってる。

 でも、見くびってもらっちゃ困る。


「教室外でも嫌だけど……」


 さりげなく――というかほぼ無意識に、一歩後ずさりする俺。

 それを見逃さず、甘音は俺の手をガッとつかんだ。


 あったかい、柔らかい、いい匂い。

 思春期男子特攻の三連撃である。


 ちょっと、そういうのはよくないですよ。

 付き合ってもない男女が手を繋ぐなんて破廉恥な。

 我々学生は健全で明るく文化的な最低限度の生活をですね、


「うわっ!?」


 なんて固まっていたら、そのままぐいっと引っ張られた。

 つんのめって倒れそうになり、たたらを踏んで屋上の奥へ。


 その隙にクルリと回り込んだ甘音は、後ろ手にドアを閉めてカチリ。


「ダメ。絶対逃がさないんだから!」


 フンスと鼻息を鳴らす甘音。

 コイツ、デキる……!


 逃げ場のない屋上。

 唯一の出口は塞がれ二人きり。

 そのうえコイツはギャル。


 これはもうエッチな展開……!

 身も心もとろかされ、従順な犬にされてしまうのか……!


「や、優しくしてね……」

「え、なんか気持ち悪い……」


 マジトーンやめてください……。

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