ギャルはオタクと踊りたい

白井直生

第一章 これはきっと、運命の出会いだ。

第一章1 早朝、青空、桜が舞って

 体から、音が鳴ってるように見えた。


 全身が打ち鳴らす、バスドラムの低音。

 シンセの電子音を、五本の指先が滑らかになぞる。

 握りしめた拳が、裏拍で入るスネアを捕まえた。


「すごい……」


 屋上に続くドアの前。

 薄暗いそこから、ほんの少し開けた隙間を通って、眩しい景色が飛び込んで来る。


 青空の下、スマホの音に合わせ、生き生きと踊る、彼。


 見入る。聞き入る。感じ入る。

 全身が沸騰したみたいに、かぁっと熱くなる。


 ドキドキした。


 その技術に。そのノリに。そのカッコよさに。何より、


「……見つけた」


 ずっと探していたものを、ついに見つけた。その興奮に。


 一曲が終わり、次の曲が終わり、さらに次の曲が終わるまで、あたしはドキドキしっぱなし。


 曲調はバラバラ。ダンスのジャンルもバラバラ。

 なのにすべてがしっくりくる。


 だって、その曲たち全部が――


 あたしは飛び出した。

 ガラリという音に、彼の動きがギクリと止まる。

 慌てちゃって、ちょっとかわいい。驚かせてごめん、でも。


 完全に固まった彼に、あたしはたぶん、満面の笑みで。


「ねぇ、あたしと踊ってくれない? ――アニソンで!」



 早朝、青空、桜が舞って。これはきっと、運命の出会いだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る