第38話 指輪を買って、ピザを食べて。

 リーゼと相談しながら、ようやく指輪を選ぶことができた。

 店に入ってから二時間も経過していた。


 銀色の細い指輪。

 ペアの物となっており、値段は合計四十二万円。

 結構いい値段だ。

 というか、高校生にしては高すぎるぐらい。


 そんな風に考えている僕に気が付いたのか、リーゼが言う。


「お金はいくらでもあるんだ。別に気にすることないだろ」

「そうなんだけどさ……」


 美しいリーゼを前に、僕は真剣な顔をする。

 彼女は首を傾げているが、ハッキリと伝えておかなければいけないことがあった。


 これは男である僕の意地というか……そんなものに意味があるわけでもない。

 リーゼが言っていた通り、それぞれの家庭で納得していればそれでいいんだろうけど、でも、それでも、僕はリーゼに指輪を買ってあげたいと考えていた。

 今お金を支払ったが、これはリーゼのお金だ。

 だけど、このお金は僕がなんとかしたい。

 

「リーゼ。指輪のお金は僕が払いたいんだ。情けない僕だけど、頼りない僕だけど、それでもこれだけは僕の力でなんとかしたい」

「…………」


 リーゼは少し不機嫌な様子。

 僕にはお金がないと考えているのだろう。

 大慌てで僕は付け加える。


「バ、バイトでもなんでもして、必ず払うよ。僕に払わせてほしい……ね、だから怒らないで」

「お金のことで怒ってるんじゃない。自分を情けないとか、頼りないとか言っていることに怒ってるんだよ」

「え?」


 リーゼは嘆息し、僕を睨み付ける。


「私はお前がいいと思ってる……だから、あんまり自分を卑下するな」

「リーゼ……そんなに僕のことを好きだなんて思ってくれてたんだね!」


 感激する僕に、リーゼは慌て気味だった。


「すすす、好きだなんて言ってないだろ……お前がいいって言ってるだけだ」


 同じ意味ですから!

 そんなことを言ってくれたリーゼは郵便ポストみたいに真っ赤になっている。

 可愛すぎるよな……可愛すぎて世界が屈服してまうのではと思うほどだ。


「……とにかく。お前がいいんだから……な?」

「うん。分かった」


 結構愛されてるんだな……なんて僕は感動する。

 僕たちはその場で指輪をはめ、店を後にした。

 そのまま帰ろうとも考えたが、リーゼがチラチラと飲食店に視線を向けている。

 やっぱり食べるのが好きなんだな……


「何か食べて帰る?」

「ああ。そうしよう。それがいいと思う」


 リーゼとどこかで食べて帰ることにした。

 僕は彼女と手を繋ぎ、歩き出す。


 リーゼは少し頬を染めているが、そこはかとなく嬉しそうな顔をしている。

 彼女の柔らかい手が、僕の手を握り返す。

 それだけで天国にでも昇る気分だった。

 もう死んでもいい!

 いや、やっぱりリーゼと一緒にいられなくなるからヤダ!

 なんて自分の頭の中でそんなことを考える。


 適当にブラついているとピザ屋が視界に入り、店を指さしてリーゼに訊ねてみた。


「ねえ、ピザなんてどう?」

「ピザ?」


 リーゼにピザというのがどういうものかを説明した。

 すると彼女はゴクリと唾液を飲み込み、うんうん頷く。


「あれにしよう。ピザにしよう。ほら、食べに行くぞ」


 リーゼは僕を引っ張りピザ屋へと駆けて行く。

 店内はイタリアをモチーフにした店なのだろう。

 なんだかおしゃれな雰囲気の店だ。

 注文したのは、マルゲリータ。

 僕的にはピザと言えばマルゲリータと言うぐらい定番中の定番商品。


 注文してからおよそ十分。

 まんまるのピザが僕らの席に運ばれてくる。

 

「いただきます」


 リーゼがピザを齧り、ビヨーンとチーズが伸びる。

 彼女はチーズを見て楽しそうに笑っていた。


「うん。美味いな。これは私好みの味だよ」

「そうなんだ……」


 となれば、家にピザを焼くための窯が欲しいところだ。

 彼女を喜ばせるために。

 

 また作ってあげたいものが増えたな。

 なんて考えながら僕はピザを食べる。


 太いパンのような触感に柔らかいチーズ。

 トマトソースの酸味とうま味。

 バジルの香りもあり、全てが完璧にマッチングしていて、本当に美味しい。

 これはいくらでも食べれそうだな。


 なんて思うが……リーゼの方が当然のように食べる食べる。

 僕でもいくらでも食べれるなんて考えるぐらいだから、リーゼだったらどれぐらい食べれるんだろう?


 と言うか、すでに十枚ほど注文しており、店の方はリーゼ一人のために大忙しとなっている。

 次々と運ばれてくるピザ。

 種類も色々注文しており、色とりどりのピザがテーブルに並べられる。


「同じ物を後二つずつ頼むよ」

「……かしこまりした」


 リーゼがにこやかに店員に追加注文をする。

 店員はリーゼの美貌に頬を染めつつも呆れ返っているようだ。


「こんなことなら、山下呼んでやっても良かったんじゃない?」

「あいつは朝に来るからいいだろ」

「朝に来ていても、夕方も一緒に遊んでもいいじゃないか」

「……それだったら、お前との時間が少なくなるだろ?」

「…………」


 僕はまるまる一枚、ピザを完食した。

 そして彼女の言葉で胸とお腹がいっぱいになる。

 お腹がいっぱいになったのはピザの所為だろうけど、ここはリーゼの言葉の所為にしておきたい。


 まさかリーゼが僕との時間のことを考えてくれていただなんて。

 朝山下を呼ぶのはそういうことか……


 学校が終わってからの時間は僕と過ごすだめに他の用事を入れない。

 そんなリーゼの考えが分かり、僕は感極まる。

 こんな嬉しいことはない……

 本当にいい奥さんに出逢えたんだな、僕は。


 僕は幸せな気分で、幸せそうにピザを頬張るリーゼの顔をずっと眺めていた。

 うん。こんな二人の時間をこれからも大事にしていこう。

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