第19話 ハンバーガーショップ

 僕らは水上ショーを見終わった後、食事を取ることにした。

 

 入ったのはハンバーガーショップ。

 園内には色んな食べ物屋があるが……どこも高く感じる。

 なんで中でも比較的手が出しやすいハンバーガーショップに入った。

 僕が好きに使っていいと言っても、リーゼのお金だ。

 節約は心がけよう。

 派手に遊んでも楽しいのはその時だけだしな。


 僕はとにかく、リーゼが楽しかったらそれでいいのだ。

 今はこの世界のどんな料理も楽しんでくれると思う。

 なのでまずはハンバーガーでもいいだろうとも考えていた。


「パンか……」

「うん。パンだね。でも肉を挟んでたり、ちょっと違うんだよ」

「ふーん……」

「リーゼって元々どんなの食べてたの? 前の世界で」


 ふと僕は、リーゼがこれまで食べてきた物が気になり、そう訊ねてみた。

 異世界の料理ってのも気になるよね。


「うーん……野菜ばっかり食べてたような気がするな。エルフはほとんど自然の物しか食べなかったからな」

「へー……ベジタリアンなんだ?」

「なんだそのベジタリアンとは?」

「野菜ばかり食べる人のこと」

「ああ。そうだな」


 店内にはそこその列ができており、リーゼは顎に手を当てながら遠くに見えるメニューを見ている。


「で、いきなりベジタリアン止めてもいいの?」

「なんでダメなんだ?」

「いや、だいたいそういうのって、しきたりが……とかって話が多いじゃないか」


 リーゼは僕の言葉にため息をつく。

 そして遠くを見つめながら言う。


「そういうのが嫌で里を飛び出したんよ」

「あ、そうなんだ」


 そういや、リーゼのこと全然知らないや。

 里を飛び出したってことは……家出したってこと?

 家出してまで僕のお嫁さんになりに来てくれたなんて……嬉しいっ!

 と、僕は彼女の行動を都合よく解釈していた。


 とうとう僕たちが注文する番になり、僕は適当に注文を済ます。

 リーゼは何やら迷っているようで、食べたい物で迷ってるのかな? 考えた僕は、彼女の声をかけることにした。


「どれ食べるか迷ってるの?」

「いや……どれだけ食べれるか考えているんだ」


 ちょっと違った。

 そういやこの人、胃袋は宇宙みたいな人だった。

 僕は呆れながら、ハンバーガーの形を手で作り、だいたいのサイズを伝える。


「一個がこれぐらいだよ」

「ふーん……だったら、これとこれとこれをくれ。ついでにこれと――」


 僕と店員さんは唖然としていた。

 ハンバーガーを片っ端から注文し……

 さらにはそれら全てを3つずつ頼んでいる。


「え、えーっと……」

「ああ。今言った分、全て下さい」


 店員さんはリーゼが冗談でも言っているのだと思ったのか、戸惑っているようだった。

 僕は彼女が本当に食べることを理解しているので、しっかりと注文を通す。

 だが僕はここで、お金が二万しかないことを思い出した。

 そうだった……リーゼの食費のことを失念してたぞ……


「リーゼ……お金が――」

「ほら」


 そう言ってリーゼは、百万円ほどを僕に手渡す。


「なんでこんなに持ってきてるの!? いや、助かったけどさ!」

「備えあれば患いなし、というやつだな」

「備えすぎだから! 学校に行くのに全教科の教科書持って行くぐらい備えすぎだから!」

「?」


 クスリと笑うリーゼ。

 僕はため息をつき、彼女に言う。


「とにかく助かったよ。ついでに席、取っておいてくれない? 僕がハンバーガーを運ぶからさ」

「ああ」

 

 リーゼは近くにあった席に座り、僕はお金を払い手渡されたハンバーガーの山を運ぶ。

 目の前に積み上げられたハンバーガーたち。

 僕は手をプルプル震わせながら、トレーを持っていた。


 周囲は興味津々といった顔でこちらを見ている。

 食べるのは僕じゃないからね。

 あっちの美女ですから!

 しかしその方が奇妙なのではないだろうか。

 男よりも美女が食べる方が驚くよね、絶対。


 この後の皆の反応を想像し、僕は一人で噴き出す。

 そんな僕の顔を見たリーゼは、青い顔をしていた。


「だ、大丈夫か……一人で笑って」

「ごめんなさいね! ちょっと考え事が面白かったの!」


 赤面した僕は、トレーをテーブルに置く。

 リーゼはハンバーガーの山を目の前にジュルリと涎を垂らしていた。

 結構食い意地張ってるんだな。


「いただきます」


 僕たちはハンバーガを食べ始める。

 リーゼは片っ端から物凄い勢いでハンバーガーを食べていき、目をキラキラさせていた。

 

 周囲からどよめきが起こっている。

 僕は声を殺して笑い、そしてハンバーガーを口にした。


 僕が食べているのは、てりやきな味のハンバーガー。

 シャキシャキのレタスの触感に、甘いソースの味。

 うん。いつ食べてもてりやきは美味いな。


 僕はサッと食事を済ませ、彼女の食べっぷりに視線を移す。

 ハンバーガーが目の前からドンドン消えていく光景は圧巻だった。

 大食い大会もこんな感じなのだろうか。

 もう驚きの声しか上がらなかった。


 結局ハンバーガーの山をペロリと完食してしまったリーゼ。

 周囲が唖然としてい中、僕たちは店を出た。


「うーん……まだまだ時間はありそうだな。次はどこに行く?」

「…………」


 キラキラした目で僕を見るリーゼ。

 彼女の手がチョンと僕に触れる。


「あ、ごめん」

「ああ」


 リーゼは気にしていない様子。

 僕は何故かここが勝負どころだと考えた。

 このままじゃいつまで経っても手を繋げない。

 タイミングなんて待ってても仕方ない。

 タイミングは自分で作れ!


 僕は勇気を振り絞り、彼女の手を握る。


「え……」

「…………」

 

 リーゼは驚いた様子で僕を見る。

 僕は大量の汗をかきながら前方に視線を向けていた。


「…………」


 リーゼは僕の手を振りほどこうとはしない。

 僕は安堵のため息をつきながら、彼女の方を見た。


 なんとリーゼは、今までみたことないぐらい真っ赤な顔をしていた。

 白い肌だから、余計に目立つ赤。


「ご、ご褒美はこれで終わりだからな……」

「う、うん」

 

 うん! とにかく可愛い!

 説明は不要であろう。

 リーゼの恥ずかしがっている顔は、突き抜けて可愛かった。


 そして僕はリーゼの手を握れたことに、喜びを爆発させる。


 今日のお出かけは最高の結果だった。

 ああ……手を繋ぐのって、幸せな行為なんだな。


 と、いつまでも真っ赤なままのリーゼの顔を見ながら、僕は幸福感に浸り続けていた。

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