第6話 雑貨店
「なあ、あの鉄の箱はなんだ? お前の家に行く時にも見たんだけど」
「……あれは車だよ」
「車か……」
道路をビュンビュン走る車。
リーゼはその存在を知らないらしく、眠たそうな目で見つめている。
「ならあれは?」
「あれは自転車」
「あれは?」
「あれはバイクだよ」
「この世界には色々と移動手段があるんだな」
本当に何も知らないらしく、目につく物全てに反応を示すリーゼ。
別の世界から来たのなら、そりゃ知るわけないか。
「…………」
こんなにあらゆる物に反応していたら、今から行く場所に到着したらどうなるんだ?
そして雑貨店に到着する僕たち。
リーゼは周囲の商品を見て、感嘆の声を上げる。
「……見たことないものばかりだ」
「でしょうね。上の階にも色々あるよ」
僕は二階に上がろうとするも、リーゼは歩こうとしない。
どうやら色んな商品が気になり過ぎて、釘付けになっているようだ。
「なあ、これはなんだ?」
「そ、それは……」
答えにくい。
彼女が指差すのは避妊具。
説明しても分かるのだろうか?
ジーッと僕を見つめるリーゼ。
これは説明するまで動きそうにないな。
「そ、それは避妊具といって……その、赤ちゃんができないようにする物だよ」
「ふーん。この世界にはそんな物があるんだな。子供はできた方がいいんじゃないか?」
「ま、まぁそうなんだろうけど……経済的な理由で子供ができたらマズかったり、ね」
「私はお金があるからその点は問題ないな」
ニヤリと笑うリーゼ。
そして僕の耳元で意地わるく囁く。
「子供は何人欲しいんだ?」
「うえっ!? そ、そんなの……分からないよ」
「お前が欲しいだけ生んでもいいよ」
「あ、ありがとうございましゅ……」
僕の照れる顔を見て満足したのか、リーゼは二階へと歩いて行く。
周囲にいる人たちは、そんなリーゼを見て固まっている。
「……美人だ」
「外人さん?」
「しかし凄い恰好だな……耳も尖ってるけど、どういうこと?」
リーゼはやはり誰が見てもとても美人らしく、周囲の視線を独占していた。
周りにある商品の何よりも視線を集めるリーゼ。
僕もそんなリーゼに釘付けになる。
こんな美人が僕の奥さんだよ?
嬉しすぎて皆に自慢したい気分だ!
だけどそんな不格好なことはしない。
彼女の隣を歩くのだから、極力できる男風を装わなければ。
僕はできるだけ紳士的に彼女の隣を歩く。
しかしリーゼは階段を上がろうとするも、ピタリと動きを止める。
「……これはなんだ?」
「……エスカレーター。乗ったら勝手に上まで運んでくれるんだよ」
「ふーん」
興味津々でエスカレーターを眺めているリーゼ。
数秒思案していたが、リーゼはヒョイッとエスカレーター乗った。
「おおお……中々面白いな」
エスカレーターを楽しんでいる様子のリーゼ。
そんな彼女の様子を楽しむ僕。
美女が喜んでるのって、凄くいいよね。
うん。見てるだけでも楽しい。
僕もエスカレーターに乗り、リーゼと共に二階へと移動する。
本日購入しなければいけない物は……
日用品と服、それに布団も必要だな。
服はちゃんとした店に行った方がいいんだろうけど、とりあえずは家着をここで買おう。
さすがにこんな布一枚の、卑猥だと判断されても仕方ない服装はダメだ。
ジャージなんか駆っておいたら、まぁ問題ないだろう。
まず緑色のジャージを買い物かごに入れ、そして他の商品を見て回ることにした。
リーゼは服装にこだわりはないらしく、何でもいいとのこと。
だったらこの店で適当に選んでもいいけど……だがそれはそれでどうなのだろう。
女の子なんだから、それなりの服を着た方がいいんじゃないかな。
そう考えた僕は、家の中で着れるような物を数着手にし、日用品などを探すことにした。
だがその途中でリーゼはとある物を見て、立ち止まる。
「どうしたの?」
「あの服はなんだ? 他のとは少し扱いが違うし、様子が違うな」
「…………」
彼女が見ていたのは、コスプレコーナーの服であった。
こんなの着ることないだろうと僕は考え、彼女の背中を押して先に進むことにした……のだが、リーゼはどうもコスプレが気になって仕方ない様子。
「ちょっとどんなのか見てみようよ」
「え……見るの?」
まぁ見るぐらいなら別にいいけど。
するとリーゼは、バニーのコスプレを手に取り、ニヤニヤと笑い出す。
「ふーん……これなんて、ちょっとやらしい感じがするな。耕太、私にこういうの着てほしい?」
「べ、別にいいよ!」
「ふん。照れちゃってさ」
挑発的な視線を僕に向けるリーゼ。
リーゼがこんな格好したら……嬉しいに決まってる!
興奮しすぎて、僕がどうなってもいいのか!?
まぁ、正直に言えば着てほしくないわけではない。
だから僕は、言葉を濁すように言う。
「リ、リーゼがこんなの着たら……可愛いだろうな」
意味は大きく変わっただろうけど。
可愛いというか、本当はエロいと言った方が正しいのだろうけど。
これが僕の限界だった。
「ふーん……」
リーゼは無関心を装っていた。
だが彼女の顔は、赤ワインのように真っ赤になっていた。
可愛い!
リーゼは照れたら本当に可愛いな。
あまりの可愛さに胸が爆発しそうなぐらいときめく。
僕はそんなリーゼの横顔を見て、ニヤついていた。
「な、なんだよ。ニヤニヤして」
「別に……」
ずっと顔を真っ赤にしているリーゼ。
僕はそんなリーゼを楽しみながら、買い物を続けていた。
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