第31話 ため息

 部屋で一人、ネットサーフィンに耽る。


『ずっとベッドの上に座って、どうしたの?』


 実際には、二人であるが。


「調べものだよ」

『学校の宿題?』

「違うよ」

『だよね。とても怖い顔しているし』

「そうか?」

『一回鏡で自分の顔を見てみたら?』


 ふよふよ、と俺の部屋で浮かぶさくら。

 最初は興味津々に画面を見ていたが、数分後には飽きてこういう状態だ。


『そろそろ、調べたいことは見つかったんじゃないの?』

「う~ん」


 今俺が調べているのは、賀平のことだ。

 SNSでの炎上騒動、そんな噂を九井先輩越しに聞いた。

 どんなことが起こっているのか、まではその時は分からなかった。家に帰って部屋に籠り、情報収集をしていた。

 初めて30分ぐらい。

 最近は炎上も起こりすぎて、全ての炎上騒動がまとめているなんてことはなかった。

 賀平もそこまで大きな炎上でもなかったのか、色んな事件がまとめられたサイトに詳細は書かれていなかった。クラスの中でも、噂程度にしか囁かれていない。


「大した炎上騒動ではない。もしくは、見えない部分で何かが起こっているか」

『いくら現代の知識は持っていると言っても、いわゆるネット文化にそこまで精通してるわけではありません。霊だからと言って、特別な力があるわけじゃないし』

「いやまあ、俺も専門家じゃないからな」


 画面に映っているのは、賀平のSNSアカウントページだった。

 いくつもの写真が挙げられていて、以前最新だったカフェラテの写真は二番目の位置に置かれている。最新の投稿は、新しい化粧道具の紹介だった。

 ざっと眺めても、最新の投稿は今までと変わらないように思える。

 ただよく見れば、少々おかしな部分が目に入る。

 アンチコメントが、やはり一定数いる。


「目に余るけど、どの投稿にもいるんだよなぁ~」

『問題はないってこと?』

「特に騒いでいる様子もないしな。となると」

『となると?』

「目に見えない部分、かな」


 メールのマークが描かれたボタンをタップする。


「メッセージは誰でも届くようになってるな」

『それがどうかしたの?』

「メッセージは、他人には見えないんだ。どういうやり取りしてるのか、とか見えないようになってるんだ」


 もしかしたら、ここのメッセージのやり取りが何かしらの原因になっている、と見た方がいい。となると、さらに厄介なことになった。賀平に直接尋ねないと、これも解決することはない。

 メッセージの内容が流出したのか、それともメッセージのやり取りの相手から何かをされているのか。考え得ることは、いくらでもある。最悪なシナリオだって、予想できる。賀平は、今生きているのか?


「心配が過ぎる」

『どういう言葉ですかそれ?』

「かといって、今賀平がどこにいるかも分からない。連絡も取れないし……」

『どうにか、できないんですか?』

「……一つだけ、あるけど」


 スーパーの店長に話を聞けばいい。

 賀平と仲が良くて、恐らく賀平の、俺の知らない部分をその人は知っている。

 店長に聞けば、全てが解決すると思うのだが。


「条件を出されてて、俺はそれをまだ満たしてないんだ」

『条件、ですか?』

「…………」


 俺は、賀平にとってどんな存在でありたいのだろうか。

 いくら助けようと願っていても、それは呪いの一件があったからこそだ。もし、それが無ければ、俺は彼女に手を差し出そうとしただろうか。

 そんなもしもの話を考えることは不毛だと分かっている。

 曖昧な立場、曖昧な考え、賀平は俺にとって何?


 俺は、彼女を本当に助けようとしているのか?


 俺は、ただ義務感で動いているんじゃないのか?


「はぁ」

『今度は、辛い顔をしていますね』

「……そう見えるかぁ」


 ケータイを放り投げて、重力に任せてベッドに勢いよく横になった。

 考えることを一時的に放棄。

 このままだと、悪い方向ばかりに考えてしまう。


「はぁ……」

『よくそんなため息を……あッ』


 さくらは不安げな表情でこちらに話しかけてきたが、すぐに口を閉ざして、何を思ったのか部屋の外にすり抜けていってしまう。

 さくらに声をかけようとした瞬間、


「やっほ~!! 元気してる、海人ちゃ~ん!」

「と、父さん!?」


 扉から元気よく、元気な父親が登場した。

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