第11話 追い出され、無職
「あの~すみません、能力の提示を……」
受付のお姉さんが困惑している……というか周りの奴らもポカーンとした顔をしている! 恥ずかしい!
「あはは……緊張してんのかな? 大丈夫です! オレ、アレなんで! 手からビーム出せるんで! なんで全然大丈夫っす! 今から本気出すんで!」
恐らく今オレの顔は、夕日の如く真っ赤に染まっていることだろう。
ああ……もう帰りたい! 今すぐ帰りたい! 自信満々にやった分、余計に恥ずかしい! だがここで帰るわけにはいかない! 今、帰ったら余計みじめったらしい! やるしかない……いや、やってやる‼
「はぁぁぁい‼」
「「「「………………」」」」
「えぇぇぇい‼ えい! えぇぇぇいぃやぁぁぁぁぁぁ‼ えい! なんでぇぇぇい‼ 発動しないんじゃぁぁぁぁぁぁい‼ お願ぁぁぁい‼ あのぉぉ……ほんとぉぉ……」
あれ? なんでだろ? 視界がにじんで見えなくなってきたぞ。べっ、別に泣いてなんかない! ボクはやればできる子なんだ!
「「「「ダハハハハハハハハハハハハハッ‼」」」」
笑われておる……冒険者の奴らに高らかに笑われておる。
「あの……大丈夫ですよ」
そんな僕ちんに受付のお姉さんが優しく話しかけ――
「誰にでもそういう時期はありますから」
――てはくれなかった。それはただの……追い打ちです。
【なんかこっちまで悲しくなってきたな】
◆
終わった……オレの異世界生活は終わりを告げた。
あの後、辱めを受けたオレは受付のお姉さんに優しく連れられ……もとい追い出される形で外に出された。それもそのはず、あの時覚醒したはずの能力は、その後何度挑戦するも発動することはなく、当然会員登録なんてのもできるはずもなかった。
何故、発動しないのか? そんなことオレが知るはずもない……知ってるなら誰か教えてほしいね。って、知ってるわけないか……だってオレが貰った能力だもん。じゃあ、自分で考えるしかない。
さて、いったい何なんだろうね? この能力は。もしかしてアレか? 一回こっきりの使い捨てタイプか? ふざけんじゃねえよ! そんなもんあってたまるか! こんなんで異世界来るとか割に合わんわ!
出るわ出るわ愚痴が出るわ、頭の中を駆け巡ってるわ、もう異世界生活とかどうでもいいわ、もう人生なんてやってられねえわ、早く帰る? 今すぐ帰る? でもどうやって帰る? 腕を変える? 蛙も孵る? 命還る? そんでもってオレも星に還る? yeah!……
【何故、ラップ調なのか……こりゃあ相当参ってるな】
というわけで無職街道驀進中のオレは、SPDの近くにあった噴水のそばにあるベンチで黄昏ているという状況だった。
アレだね、職を失った父親が昼間にベンチで時間つぶすみたいな……まさしく今、そんな感じの気分だ。
「ハァ……」と項垂れてため息をついてると、ある人物がオレの肩に手を置いてきた。
「大丈夫! 元気だしなって! そういう日もあるさ!」
そこには七三分けがよく似合う、見た目五十代くらいの恰幅のいいおじさんがいた。
「えっと……誰? アンタ?」
「僕かい? 僕の名前は田所哲治。通りすがりのサラリーマンさ!」
サラ……リーマン……確かにこのおじさんの格好は、全身スーツ姿……いや、正確に言えば上着は暑いからなのか、脱いで小脇に抱えているのだが……って、なんでおじさんについて、こんなに細かく描写しなきゃならんのだ! そんなことはどうでもいいんだよ! なんでサラリーマンがこんな異世界にいるんだよ!
そんなツッコミをしようとする前に、そのおじさんは「じゃあね!」と言いながら立ち去ってしまった。
なんなんだアレ? もしかしてオレが職を失ったサラリーマンみたいに落ち込んでいたから、励ますために現れたサラリーマンの妖精なんじゃないのか? だとしてもせめて女の子の妖精が良かったなぁ……おじさんに出てこられても、何の励ましにもならんな。
【サラリーマンの妖精ってなんだよ】
そんな妖精おじさんの後ろ姿を見送っている途中で、今度はSPDで見かけた際どい衣装の三人組の女から声をかけられた。
「あら? あんたさっきの泣きべそかいてた惨めな男じゃん……まだいたの?」
そう言ったのは、三人組の中央にいるリーダー格っぽい女。長いブロンドの巻き髪が特徴的で、胸が小さいくせに高圧的な態度をとってくる、いわゆる海外ドラマでアメフト部の奴と付き合ってるようなカースト上位女って感じかな。うむ、なかなかいい例えだ。
【確かにいい例えだ】
「やめましょうよ。こんな男と貴女が喋るなど時間の無駄かと」
続いてそう言ったのは、左にいる眼鏡をかけた知的そうな女。赤い髪をショートカットにし、程よい大きさの胸を携え、冷静なたたずまいが印象的、そんな感じかな。例えるなら……うん……えっと……よし! 次!
【引き出しないなぁ】
「そうよ! そうよ!」
最後は右の女。ピンクの長い髪。おっぱいが一番でかい。以上。
【飽きてんじゃねえよ】
「何か用か? 痴女三姉妹」
オレはめんどくさそうに対応する。女の子に慰めてほしいと言ったが、喧嘩腰の奴とは今は話す気にはなれない。
「誰が痴女三姉妹よ! 痴女でも三姉妹でもないわ!」
リーダー格の女は怒り顔で訂正する。
「お前、そんな格好しといてよく言うぜ。公然わいせつの域だぞ、ソレ」
こいつらの格好はいわゆる、ゲームとかでよくある防御性皆無みたいな、なんかそんな感じのエロ装備だ。
そんなオレの言動を今度は赤髪の女が訂正してくる。
「フン、貴様のような無知な男にはこの装備の価値はわからんだろうな。これはな……かの有名な『エロス・フェティシズム』様が創られた、最高級の防具なのさ!」
「なんだよエロス・フェティシズムって! そのまんまじゃねえか! 完全にエロ目的だろうが!」
知的そうな女からは出てこないであろうワードが出てきてビックリしたわ……ちょっと興奮してきたな。
「そうよ! そうよ!」
ピンク髪のこの子はさっきからそれしか言ってないな。それだとオレに同意してるように聞こえるんだが……ん? よくよく見てみるとずっと頬を赤らめてるな。さてはこの子、他の二人がこんな服着てるから仕方なく合わせてるだけだな? それはご愁傷さまだ。
オレはずっとその子を見つめていると、それに気づいたのか目をキョロキョロさせ、顔を真っ赤にしていく……ちょっと興奮してきたな。
【興奮しすぎだろ】
オレが新たなプレイに楽しみつつある途中で、大きな……それはもう広場に響き渡るような声で割り込んでくる者がいた。
「おう‼ おう‼ そんなとこで何をやっとるんじゃっ⁈」
「早く魔物退治に行こうぜ! 剣が錆びちまう」
このデカい声の筋骨隆々なおっさんと大剣を担いだ剣士も、さっきSPDで見た面子だな。どうやらこいつらはチームでも組んでるらしい。
「ええ、今行くわ。こんな奴と話してても時間の無駄だしね」
リーダー格の女はまるで当てつけかのように目くばせをしながら、他の二人を引き連れて去って行った。
「そっちが先に話しかけてきたんだろっつーの……ったく」
オレは愚痴っぽく独り言を言いながら何度目かのため息をつきつつ、今後のことについて思案し始めたあたりで先程の言葉を思い出す。
「あ! そういえば、さっき魔物退治って言ってたな……こんな街にも魔物って出るのか? それとも魔物が出る国までわざわざ討伐しに? うーん……」
そんな考えを巡らせていると、ついにこの状況を打開する天啓が、オレの脳髄に電流のように降りてくる。
「そうだ! 魔物退治だ! これだよ、これ!」
オレはベンチから立ち上がり、魔物退治に向かったであろう痴女三姉妹の後を追い、探偵張りの尾行を開始する。
そう……この妙案を遂行するために。
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