第9話 そこから先は彼女の領域
前話。
第8話 薮坂さん
https://kakuyomu.jp/works/16816452220764362489/episodes/16816452221442803971
第8.5話 lagerさん
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◇
「お前がギフトメーカーだったんだな」
ユウの口から放たれた鋭いつららのような言葉。それは幼女に向けられた氷の刃でもあった。
「私は、許さない。この世界の不合理を。この世の中の不均衡を。私を取り巻くすべての不誠実を」
幼女は両足で地面を踏んばり、20センチメートル上のユウの顔を鋭くにらむ。矢場杉産業特異課課長室で、床に倒れたマーク、デス代、ボックを挟んで、異様に緊迫した空気をまといながらユウと幼女は対峙していた。
「ユウ、目を覚ますのです! 今ならまだやり直しが効くのです!」
「うるさい! もう聞きたくない! お前が私たちに与えたギフト、それが何になったというの! 世界は動かなかった。世の中は変わらなかった。私の心は今でも深い海の底。ならばいっそ、この禍々しいスーツでお前を亡き者にするのが私の役目」
「ユウ、結論がめちゃくちゃなのです。そんな考え方はメンヘラでないと思いつきもしないし、理解もできないのです! おねーちゃんはそんな風にユウを育てた覚えはないのです!」
「もういい! いっそこの世界ごと吹き飛んでしまえばいいのよ! おっぱいチャージ!!!」
ユウは一声叫ぶと腰の位置で両手の拳を握った。ユウの中の怒りとやり場のない負の感情の渦を全身のTOVICが吸い込み、淡い輝きとともに両胸に蓄えていく。それは水風船を膨らますかのように、見る間にメグにも劣らない豊満な両胸の双丘へと変貌していった。幼女はそれを見て、うめき声をあげる。
「うっ、これはヤバいのです。あっというまにEまでチャージしてるのです。ユウ! 聞いてほしいのです。おねーちゃんがあなたたち三人にギフトを贈った理由を!」
「聞かない! 私はもう与えられたもので過ごすことはしない! 世界を自分で、誰の力も借りずに、私の正しいと思う方法で作り直す! そう決めたの! もう誰の指図も受けない!」
幼女は冷静に頭の中で計算した。
今、ユウの怒りのエネルギーはレベルEまでチャージされていた。レベルGでフルチャージ。ユウはマークたちの精神攻撃を受けて、世界への不満を募らせ、それをTOVICにチャージしているのだった。通常ならレベルGでも十分破壊力のある攻撃になるが、今のユウは
「まずいのです。冗談抜きで琵琶湖の水が全部蒸発するのです。これはひとまず退避するしかないのです!」
その時、白い子ウサギが幼女の背後の課長室入り口から怒涛のごとく押し寄せ、きゅぴきゅぴと幼女を追い越してユウにまとわりついた。それに続いて三毛猫が数十匹ごろごろとすり寄ってくる。
「なに? さてはメグね! 邪魔しないで!」
「もふもふウサりんのスペシャルくすぐりムーブなんだぞー♪ そーれ、きゅん! ミケのあまあまごろ猫ムーブも付けとくわよー♪」
うさ耳バニー姿のメグが、甘々のアニメボイスで叫びながら課長室の中に駆け込んできた。幼女はその姿を認めると、声を上げた。
「メグ! 今は危険なのです! 退避するのです!」
「おねーちゃん、大丈夫。ユウちゃんはウサりんのくすぐりには弱いから。チャージを遅らせられるよ! しかもミケまで出しといたから。さあミケ、今日は禁断の股間舐めしていいわよ!」
メグが声をかけると三毛猫は一斉にユウに飛びかかった。
「ひゃう! やめて! くすぐったい! いやん、ミケ、どこ舐めてるの! やめて! あー!」
もふもふの塊に四方を囲まれ、三毛猫に好き放題舐められたユウが声をあげる。TOVICはだんだん輝きを失い、たわわに成長していた胸元が野球部の男子高校生並にまで凹んでいく。
「メグ! やったのです! 時間が稼げたのです! 今のうちに一旦退避するのです!」
「ちょっと待って!」
鋭い声とともに、今度は全裸に申し訳程度のハートマークのシールで大事なところを隠したレーが課長室に飛び込んで来た。
幼女とメグには目もくれず、電光石火でユウの背後にまわりこむと、ユウのか細い腕をつかんだ。
「まったくユウは変なところで変に頑固に正義感出すんだから。私たちだけで世界を変えられるわけなんかないじゃん」
レーはそうつぶやくとユウの返事も聞かずに、レオタードを一気にはぎ取った。器用に足に絡まないようにすっとつま先から引き抜く。ユウは一瞬のうちにパンイチになってしまった。TOVIC着用時はチャージの邪魔になるのでブラジャーは付けられないのだった。
「あ、レーちゃん、やめて! なにすんの! いやー! 恥ずかしい!」
「メグ! 今なのです!」
「了解! リスぞーも出しちゃうぞー♪ 尻尾でふるふるにユウちゃん耐えられるかなー?」
「いやー、もうやめてー!!」
パンイチで子ウサギ数百匹に体中をくすぐられ、三毛猫数十匹に脇へそ耳のうしろ股間まで舐めつくされ、とどめにリスの尻尾で顔面から首筋まで撫でられたユウは、ついに声をあげて失神してしまった。
「ま、ユウがああなったらとにかくTOVICを脱がせちゃうのが一番なのよね」
「さすが、レーなのです。その発想はなかったのです。矢場杉産業の奴らは暴走したユウが全部片づけてくれていたのです」
失神して倒れたユウの身体に肩を貸しながらレーは言った。
「今までにも何度かこういう暴走してたんだ。ユウ。やっぱユウ的には不満あるみたいだね」
「まったくユウちゃん、思い込み激しくて融通利かないから困っちゃうね」
メグがそう呟いてカチューシャを外すと、課長室中を埋め尽くすほどいた子ウサギと三毛猫とリスが消えるようにいなくなった。
「とにかく今のうちにユウを連れて家に戻るのです」
「わかったわ。それより、ママ、一体いつから戻ってきていたの? いい加減教えてよ」
「レー、わたしのことはおねーちゃんと呼びなさいなのです」
「ママ?」
レーはしまったと顔をしかめて、メグの反問に聞こえないふりをした。
「レーちゃん、おねーちゃんはおねーちゃんじゃないの? ママってなに? なんのこと? レーちゃん、何か知ってるんでしょ?」
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