第17話
しばらくそうしていると、再び身動ぎした太郎ちゃんが声を漏らす。
「沙紀、ちゃん……?」
太郎ちゃんがはっきりと声を発したのを聞いて起き上がってみれば、不思議そうに私を見つめる瞳とかち合った。
「なんで……?」
まだその頬に涙の跡がついているのに、本人は気付いていないようだ。
「……うなされてたよ」
私がそう言えば、はっとしたように涙を拭うと気まずそうに目を逸らした。
「“先生”のこと、本当に好きだったんだね」
私の言葉に俯いてしまった太郎ちゃん。
地雷だったかもしれない。けれど、確かにそれは事実なんだ。
「沙紀ちゃん、あったかい……」
肯定も否定もしなかった太郎ちゃんは、唐突にそう言ったかと思うと──腕を引いて私を抱きしめる。
間近で鼻をすする音がしたから、私は抵抗することもなく肩に埋められた太郎ちゃんの頭を撫でることしかできなかった。
「……一緒に、寝よっか」
太郎ちゃんが落ち着くまでその体勢のままでいたけど、冷静になればなるほど緊張してしまう。だんだんと大きくなる心臓の音が彼に聞こえてしまわないうちに、寝てしまおうと提案した。
こくんと頷いた太郎ちゃんにホッと胸を撫で下ろす。
「先にベッドに行ってるから、歯磨いておいで」
私は母親のような言葉を投げかけて逃げるように寝室へ戻った。
「──沙紀ちゃん」
しばらくして寝室のドアが開き、太郎ちゃんが入ってくる。
「おいで」
昨日、彼が私にしてくれたように優しく呼びかければ素直にベッドに入ってきた太郎ちゃん。
「……あったかい」
またこの言葉を発する彼は……今まで人の温もりを感じずに過ごしてきたのだろうか。
「ベッドくらい、いつでも温めてあげるよ」
半ば無意識のうちに出た言葉に、太郎ちゃんは心底安心したように微笑んだ。それを見て、私もつられて笑う。
「……約束だよ。俺のそばからいなくならないで」
「うん」
彼との同居生活が、私の転居先が決まるまでだということも忘れて口約束を交わす。
やっぱり私には──この男の子を、放ってはおけなかった。
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