第147話 出発前の朝にて

翌朝、結局ヒナっちは居間でそのままハーマンミラーのオットマンで寝て、はるなっちは床のラグの上で転がってたりする。


「ほら、朝食だよ」


と二人を起こしながら、しのぶちゃんと作った、バーベーキューの残り肉野菜を使ったホットサンドを振る舞う。

このホットサンドはソロキャプをすると言い張る二人が持ってきてたホットサンドメーカーで作ったもの。

持ってきたけど使ってないというので私が使ってみた。

キャンプはしないけどこの器具は料理の幅が広がるから今度ホームセンターで買ってこようかしら。


「ホットサンドメーカーって、なかなか使えるじゃない」


などと本人たちは喜んでいるが、本来あなた方が使う予定だったのでしょうに。

食後、外では濡れたテントやら寝袋を物干し台にぶら下げてる二人の姿がある。

外出中は江川さんたちが来てくれるけど、風で飛ばないように布団干用の洗濯鋏などを貸して周りに迷惑がかからないようにする。


と言っても、周りは杉林に囲まれているのでtねとが吹っ飛んでもその辺で引っ掛かってるとは思うけど。


私が洗い物をして外に出ると、3人がデッキで外に見える山を眺めながらお茶など飲んでいる。

これは、キャンプ用に持ってきたガスコンロをちゃんと使ってないとかで試しにお湯を沸かしたのでインスタントコーヒー入れて飲んでるのだとか。


「白龍がいるね」


ポツッとヒナっちがそんなことをいう。

まさか、視える人だったっけ?


「そんなのどこにいるのよ」


「ほら、外輪山の間を白い雲が細くたなびいてるじゃん。

あれって竜が山を這ってるように見えるよね」


あ、雲の話か。

一瞬しのぶちゃんと目を合わせてしまったが、


「あんな雲を見て、昔の人は竜がいるとか思ったのかもしれないね」


などと言うヒナっちに


「本当にいるかもよ」


と私が笑いながら言うと


「私はいると思ってるけどね」


と言ってヒナっちはニカっと笑う。


「うちに来るお客さんが、阿蘇は竜がいるとか、妖精が見えるとかそんな人が割と多いの。しかも、そんな人に限ってローンじゃなくて現金一括払いで海外の旧車とかさらっと買うから謎なんだよね。竜とか見える人ってお金の流れがいいのかもとか思うと、そういうのいたらいいと思うじゃん」


竜が見えるとお金が回る?


確かに、私も父の遺産で遊んで暮らせるくらいはあるし。

母の実家も、父の実家も、しのぶちゃんとこも、裕福であると感じるし。


「確かに、竜は金持ちに見えるのかもしれないね」


と私が呟くと


「え、そうなの。じゃああの雲が竜ってことにしたら私も金持ちになれるかしら」


はるなっちがそんなことを言う。


「十分お金有るじゃん。女子高生のくせにバイク2台持ちとか」


「私じゃなくて父がお金の周りがいいのよ」


それ言うなら私だってそうか、私が稼いだんじゃなくて父のお金だもんね。


ひとしきり、ヒナっちの家にくる常連さんの竜の話を聞いてみると、割とちゃんと見えてる人みたいでしのぶちゃんが言う話と遜色ないような面白い内容だった。


阿蘇山の竜についても語っていたけれど、さすがにそれを管理している団体がいるようなことまでは知らないみたい。


やはり、私の父の家系のやってることは、一般的には知られないのね。


などと思いつつ、今日のツーリングの準備を開始する。



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