第140話 二重峠と石畳と
皆の準備が整い、ガレージにエンジン音が響き渡る。
って言ってもガレージハウスなので家の中がバイクの爆音が反響してやかましいくらい。
順にシャッターから出ていくのだけど、私は最後に家を出るので一台一台家のガレージから外へと飛び出していく様子はなかなかかっこいい。
高藤先輩きたら、こういうの動画に取ってもらいたいわ。
なんて考えていると、しのぶちゃんが外に出たので私も急いでついていく。
リモコンでシャッターを閉めるとロックがかかるけど一応手で確かめてる。
その様子を道路部とつながる庭先ではるなっちが確認してから、移動開始。
まずは南阿蘇から阿蘇大橋を通って赤水交差点から二重峠を目指す。
この辺は特に語るべきこともないのだけど、タイミングが良かったのか熊本から阿蘇方面に行く阿蘇ボーイとかいう観光列車と少し並んで走ることができた。
立野と呼ばれるこの部分は、スイッチバックがあるほどの急坂なのでディーゼルで動く列車はスピードが出ない。
なので、私たちが追いついてゆっくり追い越すような感じになるのだけれど、観光列車だとみなテンションが高いのでなんか手を振ってくる人たちがいる。
こちらも手を振りかえしながら走るのだけど、こういうのも休日っぽくていいと思う。
列車を追い越しながら走っていくとか、ちょっとかっこいいしね。
二重峠。
ここは健磐龍命が阿蘇に溜まった水を抜くときに、最初に蹴ったとこで二重になってて蹴り破れなかったから二重峠と名がついたと言われてるけど。
ここが一番外輪山で標高が低いので、参勤交代の峠道が造られているところでもあるという。
出発前に軽くネットで検索すると、細川藩が熊本市内からここを越えて、大分の方へと抜けて行ってたというけど。
こんな山を籠担いで歩いてた人がいるとか思うと信じられないわ。
結構タイトなコーナーが続く道を登って、少し開けたところに展望所が造られていた。
そこにバイクを止めて阿蘇山を見ると往生岳と杵島岳しか見えないので二つの丸い丘が連なってるようにしか見えない。
「なんか、こっちから阿蘇五岳みると全く違う山みたい」
ヒナなっちがそんなことを言うと
「阿蘇五岳の中でも、こっちの山はまだ新しいから表土が削れてないのよ。米塚とかもまんまるじゃない。他の山は結構険しい感じになってるのは土が削れて行ったから。
この山は涅槃像だと膝になるけど、涅槃像の設定自体がなんか無理があるから微妙よね」
などとはるなっちが言う。
とりあえず、涅槃像の足側側から見てるってことになるのね。
「さて、特に何もないから次行こう」
確かにこの展望所は広くなってるだけで特に何もないので次の目的地の「参勤交代の石畳」の道があるところへと移動する。
その途中のカーブがまぁきついきつい
結構倒さないと曲がらないのではみ出さないように注意しないといけないし。
上に登ると杉林がしばらく続いて、目的の所へと到着する。
ここも広場と東屋があるくらいで特にトイレも何もない。トイレに行きたくなったら大観峰まで我慢しないといけないのかしら。
駐車場は結構広く、なんか黒いタイヤの跡がぐるぐる丸くついてる。
「こんな感じでマナーのなってないドリフト族がまだいるのよねぇ」
なんてはるなっちが言うが、どうやら峠道でドリフトして遊ぶ人たちがいるらしい。
ミルクロードでは昔はそんなのがわんさかいたけど、今は微かに生き残った少数派がたまにヤンチャしているのだとか。
駐車場がタイヤの跡で真っ黒なのは確かにいい感じはしないものね。
バイクを降りて少し歩くと、急に景色がひらけて石畳の道になっていた。
江戸時代に、峠道があまりにも急なので石畳を作って歩きやすくしてあるのだという。
それにしても、結構しっかり作ってあるのね。
「ここを助けさん角さんが歩いてたのかしらね」
「水戸黄門が九州まで来るわけないでしょう」
などと話をしながらはるなっちとヒナっちが歩いていきつつ
「昔、ひいばあちゃんのお母さん?が言ってたけど。
ここは西南戦争の激戦地なんだって、だからここで戦う兵隊さんの劍が太陽光でキラキラしてて綺麗だったとか」
石畳の途中に立っている西南戦争の碑を見ながらそんな話をしてくれた
「ひなみの親は熊本市内じゃないの?」
「おばあちゃんの家は阿蘇市のこっち側にあったから」
そんな地元トークが行われているが、西南戦争とか熊本には結構激戦地が残っているので幽霊が出る話も割とあるけど。
ここってそんな話はないのよね?
真昼間だから出てくるわけないと思うけど
そう思って忍ちゃんを見ると、何かじっと下を見て立ち止まっている。
「何かいるの?」
私が聞くと、しのぶちゃんは
「この石畳がひんやりして気持ちいいからって、竜がここで寝てます」
「え、見えないからわからなかった」
「あの二人は平気で踏みつけてますけど、見えない人には影響ないから問題はないんです。が、私は見えてるから避けて通らないといけなくて」
見える状態、と言うのはそれなりに気を使うものなのか。
無理しなくていいよ、と私は伝えてしのぶちゃんには上で待っていてもらうことにした。
少し先まで二人は歩いて行ってなんか看板を見ながら話してたりする
「すごい、作った人がいたずらで掘った文字も残ってるんだ」
「でも看板には使役された農民の苦労が偲ばれるとか書いてあるよ」
「文字書いてのこす余裕があったんだから、結構みんな農閑期にいい働き口ができて喜んでたんじゃないの?」
とか言ってるけど。
そこにも竜が寝てるのかしらね。
思ったよりしっかりした石畳で、ちょっとヨーロッパとかをイメージてしまうわ。
まだ今の時期は草ぼうぼうじゃないから風景もいい感じだし。
昔の人も、ここでお弁当広げてたりしたのかしら。
なんて話しかけると
皆お腹が空いてきたようで次のところで少し早いけど昼食にすることに。
そこで、バイク丼を食べる予定。
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