第129話 連休中の竜の仕事

「連休中に、大分の方に行ってもらえないかしら」


と冬美叔母さんから声がかかってしまった。

どうやら、父が観察してた龍がいるらしく、担当が変わったことをまだ伝えてないからだそうで。


「龍だから人間の10年くらい放っておいても気づかないくらいの時間スケールの人達なのだけれど、あまりほったらかしにしてると人間と関わってたことを忘れられてもいけないから」


という話。

今回は電話での連絡。

うーむ

しかし、今回は阿蘇周辺をツーリングする予定なのに。


「大分の九重連山にいる竜よ。そこに阿蘇山にいるのよりちょと小さいけど大龍がいて。阿蘇の竜と契約したのだから問題ないと思うから」


気軽にそんなこと言われるが、前回そのせいで地震起こったり噴火したりしてるわけなのでちょっと心配になる。

それを伝えると


「大丈夫、何も相手に願わないならいいの。あと佐藤くんいるでしょう。

彼に前もって下準備してもらってたらいいですよ」


困った時は佐藤くんだのみということか。

九重連山なら、やまなみハイウェイを通っていくといいのよね。


そう考えると、特にみんなで決めた予定を崩すことなくこなせる内容なので一安心。


そのことを佐藤くんに伝えると、


「わかりました、九重の竜は大体寝てますから挨拶する時だけちょっと起きてもらうようにしておきます。

僕が先に色々やっておきますけれど数日かかりますので5月の連休にそこにいくようにして貰っていいですか?」


「いつも思うけど、その準備って何してるの?」


「大龍だけじゃなくて、周りに小さい雄竜がたくさんいるじゃないですか。

それに先に挨拶してないとインネンつけられてしまいます。前回のようになるといけませんからね」


「因縁って、龍も心が狭いのね」


「彼らからしたら、人間なんて下等な生き物、的なニュアンスですよ。

あなた方が猫や犬に対してもっている感情と同じだと思うと、なんとなくわかるんじゃないですか?」


「もふもふしたいとか?」


「・・・仲良くしたいものもいれば、犬畜生という人もいるでしょう。

雄竜にはそんな感じでいろんなタイプがいるから面倒なのです」


「大龍、雌龍さんはその辺気にしないの?」


「野良猫の世話をする猫おばさんみたいなイメージで捉えてもらうといいかもしれません。人間の生命活動を許し、環境を守っている存在ですから人間が大好きなのです」


「母性があるから雌龍さんの方が心が広いのかしらね」


「まぁ、雄龍は繁殖のためにいる存在ですから嫉妬とか争いとかそういう感覚を持つようになってしまうのです」


「男ってそういうとこあるのね」


「いや、竜の話ですよ」


そんなことを、ガレージでスーパーフォアを磨きながら話してたりする。

話すだけの時は佐藤くんを顕在化させなくてもいいので、独り言をぶつぶつ言いながらバイクを磨いている怪しい女になってしまうのだけれど。


5月の連休にやまなみハイウェイを走って九重連山か。

ちょうど全員揃っているからいいのかもしれない。


じゃあ、4月はツーリング初心者のしのぶちゃんがいるから、近いところを攻めていくのがいいのかな。


明日から連休、ゴールデンウィークに入っていく。

みんなでツーリングとか久々でとても楽しみ。


去年は寂しいゴールデンウィークを過ごしていて、やることないからこの家の掃除をしたり、庭の草刈りなどに精を出してたとこだけれど。


まさか、こんな感じで友人と、従兄弟と、ツーリングに出かけられるようになるとは思ってもいなかった。


これも、スーパーフォアのおかげかな


そう思うと、一際磨き上げてピカピカにしてあげたくなるものだわ。


以前、エンジンからマフラーにつながるステンレスの管が焦げ焦げの色になっているのを見て、はるなっちが


「この色磨いたら取れて、元のピカピカになるわよ」


と教えてくれたことがある。それをやってる動画も見せて貰ったけれど、私はこのままでいいと言った。

自分のバイクを使い込んでいくからついていく焼き色なのだし。


自分の走った記憶が焼き付いてると思うと、消すの勿体無いじゃない


と言うと、はるなっちは何か感心したような顔をして


「そういう視点もあるわね。私自分のCB400SSはカフェレーサーっぽくしようと思ってるから焦げ焦げの色はとるけど、さくらの考え方もいいわね」


と言ってくれる。

最近、はるなっちのバイクはシートがなんかいい感じのに変わってたり、ハンドルが低いのに変わってたりして見た目がレトロな雰囲気になりつつあるのを感じていたけど。

「レトロ感を出したいから、ピカピカしたメッキっぽいとことかメタルっぽいとこ強調したいものよね」

などと言いつつ我が家のガレージでマフラーにつながる管を磨いてたりする。


バイクに対しては、いろんな考え方があって。いろんな付き合い方がある。

はるなっちのようにカスタムしていくのもいいけど、私はこのスーパーフォアの元の形が好きだから、このままノーマルで乗っていくことを考えている。


けれど、ウインカーのスモークレンズというものを知ってから、


「黒くなってかっこいい」


と思うようになってきて、違法改造じゃないなら交換してみようかしら、と思うこともあったりする。オレンジのプラスチック感がシックな状態になるのでかっこいい。


はるなっちに話をすると

「それするなら中のバルブをオレンジのにしないと、そうすれば違法じゃないし」

と言われ、早速通販サイトで注文されてしまった。


「私が連休中に取り付けてあげるから」


と言われたものが、明日到着予定なんだけれど。

ツーリング行ってる間に届いたら、江川さんたちが受け取ってくれるかな。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る