第96話 一人だけど二人
みんなで浴衣を着て布団に転がる。
「なんか温泉にでも入ってきたみたい」
「今度、温泉ツーリングとか行かない?由布院くらいならすぐ行けるし」
「内牧温泉じゃだめ?」
「近すぎる」
「いっそ、天草の温泉とかも行ってみたいね」
なんてゴロゴロしながら話をしつつ、はるなっちたちの話を聞いたり。
私の話をしてみたり。
私の方は「秋子さんという父の仕事仲間の人から、父と契約をかわした人と会って」と言う嘘ではないけど内容を詳しく語らずに、遺産相続関係の打ち合わせを行ったような話に持っていく
「遺産って何もらえるの?」
「そりゃ、作曲の権利料とかじゃない?そうなったら一生遊べるから進学とかしなくていいじゃない」
「お金もらうと、でも相続税とか面倒なことになるんじゃないかしら?」
などなど、勝手にみんな話しているけれど。
詳しくは知らないのでその辺は帰ってから聞くことになっていると言う。
翌日は、はいびすかすと言うフェリーで移動するので、朝7時くらいには港に行かないといけない。
早起きしないといけないけれど、なんとなくハイになってみんな夜遅くまで屋久島での体験を語り合ってしまった。
私が西部林道で鹿をみたり猿を見た話をすると、他の3人は遭遇できなかったと残念がっていて、この辺ももしかしたら佐藤くんのせいなのかな、と思ったりして。
屋久島最後の夜は、話しているうちに、一人、また一人と静かになっていって。
最後まで起きてたのは私だったりする。
今日は佐藤君と出会ったり、なんか色々と体験しすぎて頭が落ち着かない感じがある。ちょっと何か飲んでから寝ようかな。
そう思って、一人足を忍ばせて1階へ降りて、冷蔵庫に入れていた、だいぶ炭酸の抜けたコーラを飲む。
寝る前にコーラとかよかったかしら。
と思いつつ。
今は誰もいないから、ちょっと
「佐藤君」
と小声で呼んでみる。
「はい」
頭の中に声が聞こえてくる。
「呼ぶだけでは姿表さないのね」
「人型がないと難しいですよ」
「さっきはお風呂で出てきたじゃない」
「危機的状況でしたから。お尻が」
そう言われ、あの時そのまま座ってたらお尻が猿みたいになってたのではないかと思うと、佐藤君に助けてもらったのはありがたい。
だが
「私の着替えとか見てるの?」
「精霊の状態、今の状態では人のことをうまく認識できないので見てるようで見てないような形です」
「どんな形よ」
「水中を目を開けてみた時、はっきり見えますか?深い海の底を肉眼で見ることできますか?
それと同じです。私たちから人間を見ると、深い海の底に何かが蠢いているような感じでしか見えないのです。
精霊同士はよく見えるのですけれど」
「それは、世界が違うから?」
「僕たちの住むとこと桜さんの住む世界は構造が大きく異なります。
それをお互い無理して見ようとするとぼんやりなってしまうのです。だから、人の形を取らない限り私はお風呂などで皆さんの裸を除いたりはできません。
ご安心ください」
まぁ、そう言われるとちょっと安心する。
なんとなく常に覗かれていると思うと落ち着かないものね。
「私は、明日は種子島に行くけど、着いて来られる?」
「問題ありません。ただ、種子島に着いたら僕は挨拶に行くとこがあります。
ですので、しばらく近くにおりませんのでご注意ください」
「近くにいないと何か不便なことあるの?」
「すぐに実体化できにくくなります。危機的状態を救えなくなります」
「今まで佐藤君いなくても生きていたんだから、大丈夫でしょ」
「そうだと良いですけどね。明日、できれば私を一度実体化させて欲しいのです。
桜さんにも紹介したい存在がいますので」
「私は別に紹介してもらわなくてもいいよ」
「お父様と知り合いの方がいるんですよ」
そう言われると興味がある。
しかし、佐藤君との相引き現場を目撃されるとまずいような気もするけど。
「少しの時間だから問題ありません」
うーむ。父の知り合い、と言う存在には興味があるし。
炭酸の抜けたコーラを飲み干してから
「わかった、詳しく場所と時間とか教えて」
と佐藤君に言うと、一瞬にして頭の中になんか色々入ってきた。
驚いていると
「本来、このように会話することすら必要ないのですが。桜さんが慣れてないので合わせているのです」
「これ、試験の時に答え教えてくれるとか、そういうのに使えないの?」
「僕は人間の勉強はよくわからないので無理です」
「教科書の内容読みながらおくるとかは?」
「人間の文字は読めないので無理です」
不正には使えないようになっているのか。
世の中、ちゃんとズルはできないようになっているものである。
「でも、お父様のライブ中に楽曲のイメージを送ったりして、忘れた歌詞とかを思い出させたりはしてたので。
共有するイメージで伝わるものであれば可能です」
そんな使われ方はいいのね。
しかし、このテレパシー的な会話は今の状態を他から見たら薄暗いところで一人コーラを飲みながら、時折うなづいたり、時折表情を変えたりする状態だから、かなり怪しい人に見られてしまうのではないだろうか。
あまり人のいるとこで佐藤君と会話するのは注意しないといけないわね。
佐藤くんからは明日行くとこの情報はもらったので、スマホにそれを忘れないように記録して。
そろそろ私も寝ないといけないので部屋に戻る。
みんなそれぞれ気持ちよさそうに寝てるから邪魔をしないように布団に入って、
さて、どんな理由を話そうかなぁ。
などと考えているうちに、いつの間にか眠ってしまい。
父と、のじゃロリ狐娘になった次郎君が巨大な龍を前に何か話している様子が見えてくる。しかし、話はうまく行かず竜が怒り巨大な口を開いて向かってくる。
それは大きな山ほどもある竜で、一口で父など飲まれてしまいそうだ。
父が手を前に組んで何かを唱えると、狐娘の二郎君が光を放ち龍を怯ませる。
同時に父が飛び込んで行って・・・
アニメとかで見る妖怪退治みたい
そんな感想を持ちつつ意識が薄れていった気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます