第95話 五右衛門風呂
伊勢海老が美味かった
というか、初めて食べるものが多くて、よくわからんかったというのが本音。
鯖のしゃぶしゃぶ?刺身?
次から次へとやってくる、謎の料理。
魚がなんか固められてるものとか、煮てたり焼いたり揚げたりしてるのはわかるけど。
海鮮の入った炊き込みご飯も美味しかった。
アニメみたいに異世界食堂で食事して、初めて食べるものを食レポするような力はないし。現実的に女子高生に食レポは無理よね。
とりあえず
「すごく美味しかった」
くらいしか言えないわ。
食事の時は、今日宿泊してる女子大生2人も同じ部屋で食べるわけだけど、
こちらのテーブルはめちゃくちゃ話しながらワイワイしてたので、あっちから見たら「旅先ではしゃぎやがって」
とか思われないか心配だわ。
向こうの2人は静かに談笑しながら食べてる感じだったし。
女子大生というのは本来ああいうもので、こちらの偽物とは旅の心得が違うのかもしれない。
と思いながら、私もはしゃいでたんですけどね。
食後に部屋に帰ってくると、2階には布団が敷かれてて、はるなっちがそこにダイブする。
食事だけで1時間以上かかるような豪勢さだったから、部屋でなんかしてたらお風呂の方も準備が終わったという連絡が来たり。
あのお坊さんみたいな人がわざわざ知らせに来てくれたけれど、あの人がお風呂沸かしてるのかしら。
お風呂用のランプの準備もしてもらって、これからみんなでお風呂タイム。
ランプの光だけで入浴するというのは何か不思議な気分
「これ、中にナメクジとか入っててもわかんないよね」
などどヒナっちは怖いことを言う
ランプの光だと影が多くなるので、確かにその辺になんかいたら嫌ではあるけど。
浴室は高台の上にあるので、窓を開けるとちょっとした街の光と、その先にある海。
そして月の光が見えてくる。
「うわー、素敵」
はるなっちがそう言って窓の前に行く。
全裸で仁王立ちして窓際に立つ女子高生。
誰も見ていないからいいけれどね。
体を洗うとこは二箇所あって、そこでジャブジャぶ体を頭の上から足の先まで洗う。
髪の長いはるなっちはどこから洗うのかとか、そんな話で盛り上がったりしてる。
みんな体を洗う前に湯船に突入するということはしないので、その辺マナーがいいというか育ちがいいのだろうか。
「髪とか海の匂いが染み付いてきてる気がする」
と言いながらはるなっちは長い髪を床につけないように器用に洗ってる。半分膝立ちで洗うのね。か細い華奢な体に長い髪がまとわりついて、なんか絵画で見るような、CMで見るようないい感じの風景だわ。湖のほとりとかに出てきたら妖精みたい。
私はみんなの中でいちばん髪も短いので、ささっと洗って五右衛門風呂一番乗りを奪う
「あ、ずるー!」
とはるなっちに言われるも、気にせず入ると
「あ、下に板おかないと熱いよ!」
と高藤先輩に言われるもすでに遅く、鉄の釜に直接お尻をつけてしまった。
「うっぁは」
変な声出した瞬間、私のお尻に板が置かれ、横になんと佐藤くんが。
秋子さんに言われた「主人の危機的状況」に出てくると言われてたことか!
「早く、消えて、消えて」
慌てて小声で伝えると佐藤くんはちょっと微笑んでから一瞬で姿を消した。
私のお尻の下には板が入れ込んであって、熱々の鉄の釜で火傷をすることはなかったけれど。
こんなことで本当に出てくるのね。
「あら、今誰かそこにはいってなかった?」
高藤先輩が目を細めて私の後ろを見てそういうと
「え、ホラー話?幽霊?
屋久島にはそう言うのがいるって話だし」
とヒナっちが食いついてきた。高藤先輩は目が悪いのでよかった。他の二人は窓の外の月を見ながらシャワーを浴びるということやってたので気づかれなかったみたい。
「いや、さっき板を私が沈め損なったから、それが人影に見えたんじゃないですか?」
となんとか誤魔化しつつ。
それにしても、命の危機とかに出てくるんじゃなくて、私が「うわっ」と思った程度で出てくるとかちょっと過保護な感じもするけど。
佐藤くんが側にいることはよく理解できた。
と言うことは、お風呂覗かれてる?
でも人間じゃないから問題ないのかな?
なかなか悩ましい問題のような気がしてきた。今後その辺話し合った方がいいのかしら。
しかしお風呂のお湯の中でもあのシャツ姿なのはちょっと驚いたけど。
いや、全裸で出てこられたら私が困ったわね。
湯船には4人で一回入ってみて
「やっぱ窮屈」
とか言いながら、出たり入ったりしながらワイワイしながら入浴タイムを送り。
月の光と、ランプの光でぼんやりとした雰囲気のある空間での入浴は、何か特別なことをしている感じがあってとてもよかった。
みんなで賑やかだったから風情はないんだけどね。
一緒に入ると必ず体型の話になり、そこで私がよくいじられるのであまり好きではない。
「胸あるのはいいよねぇ」
とはるなっちにしみじみ言われたり。
「身長があって、胸があって、スタイルいいからクラシック系のバイク似合うのに、今度かっこいレザーのバイクウエア紹介しようか?
いつもコミネのジャケットだと、もったいないよ」
と高藤先輩。何が勿体無いのかわからないけど、スタイルの良い人からスタイルがいいと言われるのは素直に嬉しい。
高藤先輩の方が私より若干スレンダーなので、細身のバイクによく似合うと思うけどなぁ。
「いっそ藤子ちゃんスタイルで乗ってみたらいいじゃん」
とヒナっち。
西洋人の骨格してるくせに何を言うのか。ヒナっちがやればいいじゃん。と答えると
「私には胸が少したりない」
と自分の胸を手で押さえる。まぁ手のひらに隠れるくらいだからそうなんでしょうけど。
あんな胸元開いてたらカナブンとか突っ込んできたら泣くしかないじゃない。
などなど、私の場合は普通に服着てると何も言われないけど、脱ぐと途端に色々言われてしまうので、あまり人と一緒にお風呂に入るのは好きではない。
でも、今回の3人は気心も知れているので、別に色々言われても気にならない。
こういう、気分的な差ってなんなのかしらね。
体が温まったら窓際に立って外の海を眺め、外の空気を感じつつ全裸で月の光が海面に反射しているのを見ていると、なんだかこの屋久島に全身で溶け込んでる感じがしてきもちい。
山奥の露天風呂とか、こんな感じの開放感がいいのかなぁ。
裸の付き合いもして、なんとなくみんなとまた距離が縮まった気がする。
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