第86話 屋久杉ランド
紀元杉
三千年くらいの樹齢だと言われてるそれは、柱のようだった。
「でっかいねー」
「大きいわね」
「でも上の方が欠けてる」
「雷で折れたって」
「隣の切り株の方もでかいね」
そんな話をしながら杉の周囲をぐるぐると回って全方位から見上げていく。
でかい。
これがキリストより前に生まれているんだぁ
「屋久杉って実際生きてるの見てもでかいのね」
「これを斧で切り倒すとか無理じゃん」
はるなっちとヒナっちはこれを倒す方法を話し合ってたりするし。
高藤先輩はカメラをセッティングしてなんか撮影してるし。
一本の大きな杉を見るだけで、何やら心が落ち着くのは何故かしら。
これが長く生きた存在の持つ何か、ってやつなのかしらね。
私たちが到着した時はほとんど人がいなかったのだけれど、
マイクロバスとか車がやってきて結構人が集まってきたので、私たちは早々にそこを立ち去ることにした。
それにしても、道端にいきなりあんなのが立ってるなんて、屋久島はすごいわ。
そこからしばらく山を下ると、屋久杉ランドに到着
紀元杉までは結構走った気がするけれど、戻ってくるときは早く感じるものなのよね。
「ランドって言うから、屋久島大観覧車とか、屋久杉ジェットコースターとがか園内を走り回っているのかと思った」
などと、ランドに入ってからはるなっちが言うが。
そんなこと思ってたとは。今までの資料館や博物館で何を見てたのかしら。
「ただの屋久杉が立ってる林の中を延々散策するだけなのね」
何か残念そうにチケットとパンフレットを片手にそんなことを言う。
「屋久杉ジェットコースターってどんなのイメージしてたの?」
興味が湧いたので聞いてみると
「屋久杉の間をグリーンランドにあるような恐竜コースターが走ってるような感じ?」
恐竜コースターとは、また古めかしいのをイメージしてたのね。
「城島高原パークにある木製ジェットコースターみたいなのもありよね〜」
「あれ、振動で気持ち悪くなるからいやだ」
途中からヒナっちが話に入ってきた。
「屋久杉であれ作ったら面白いじゃない」
「今、屋久杉切ったらダメなんだよ。落ちた枝とか埋まってるの掘って加工品作ってるって書いてあったじゃん」
ヒナっち、割とちゃんと資料館を見てる。
「そんなコースターの話してないで、どのコース歩くか決めない?」
高藤先輩がそう言って皆に声をかけてくる。今の時間的には80分コースが良い感じなのでそちらを選択。150分とかになると閉園ギリギリになっちゃうから。
しかし、歩いていくとなんとも神秘的というか、阿蘇の山とは全然違うというか。
苔むした湿気の多い森の中に、巨木が生え、倒木が転がり。
作られた遊歩道もいつくか破損してたりして、なかなかアドベンチャーな感じ。
江戸時代に倒された杉の切り株の上に新たに杉が生えてたり、大きな屋久杉が立ってたり。木の根っこのトンネルをくぐったり。
屋久杉の洞の中には何故かお金が置かれていたり。
「千年杉だって、これで千年生きてるんだ」
「なんで、こういうありがたそうなものを見ると、さい銭おいてく人がいるのかしら」
「ご利益があるとか思ってるんじゃない?」
「屋久杉って何の御利益あるの?」
「長寿とか、1000年くらい生きられるとか?」
「それ呪いじゃん」
などとはるなっちとヒナっちは話してたりする。
高藤先輩は撮影に集中してて、風景やら屋久杉やらその辺の撮影に一生懸命。
屋久杉がもっとバンバン立ってるのかと思ったけど、それ自体はあんましないのね。
ここは江戸時代には結構開発されてたところらしく、それから森がこのように復帰したとこなのだとか。
で、ここにある屋久杉は「曲がってる」とか「価値なし」と思われたものがそのまま残っているとかなんとか聞いた気がする。
「つまり、この杉たちは人間からして見たら無価値と思われたから生き残ったのね」
「もしかしたら、斧が倒れて神がいると思われたんじゃない?」
あ、それだったらかっこいいかも。
その後みたブッダ杉なんかも形は悪いけれど、神がやどると言われればそんな気もしなくもない。だからお賽銭あげる人が出てくるのかしら。
途中何度か渡った川の水はとても綺麗で、そのまま飲んでも平気そうなくらい。生き物が全くいなさそうなくらい冷たそうだし。
橋を降りてちょっと水辺に行って手をつけたりするとめちゃくちゃ冷たい。
南国の島の水とは思えないわ。
高藤先輩がその先の風景を撮影してから戻ってきた。
「屋久島の森って原生林、って感じがして野生的な雰囲気なのね」
「阿蘇は草原ばかりで、あまりこんなとこないですから」
「屋久島の水は軟水でとても美味しんだって、飲んでみる?」
「いや生水は遠慮しておきます」
そういうと高藤先輩は笑って
「湧き水じゃなくても水道水が軟水みたいだから後で宿の水でもいいかもね」
と言って私にゴープロを渡して
「適当に撮ってみて、私よりも他の人が撮ったほうが面白そうな動画撮れるかもしれないから」
と言って、はるなっちたちにもゴープロを渡している。
「水の中撮れるんですか_?」
とか言ってるので、多分渓流に水没させて遊ぶつもりなのだろう。
私は何気なく気になった風景をひたすら撮影しながら、屋久杉ランドの終点にたどり着いた。
はるなっちは渓流の水の中とか藪の中とか、屋久杉に空いた洞の中とかよくわからないところを撮影してたようで、確かに高藤先輩だったらあんな撮影の仕方はしないわね。
「オオクワガタとかここに潜んでないかしら?」
「屋久島にいるの?」
なんて話をしつつゴープロをいろんなとこに突っ込んでる。一体どんなゴミのような映像が撮影されているのか、後で動画見て高藤先輩が後悔しないならいいけど。
それにしても、大きな木だけではなく屋久島の森の中というのはマイナスイオンでも出ているのか心が落ち着く感じがあっていい。
「島全体が花崗岩だから、未知なるパワーが出てるって言われてるよ」
とヒナっち。さすが月刊ムーを読む女だ。
「ピラミッドの中も花崗岩が使ってあって、それがピラミッドパワーの原因とか言われてるし、謎のウイルスを追い払うとかそんな話もあるってよ」
「ほんと?」
「科学的には証明されてないって」
「与太話じゃん」
「でも、なんかそれ系の人たちは屋久島は選ばれしものしか上陸できないとか、穢れた人は浄化されるか到着した途端に気持ち悪くなったりするとか聞いたことある」
「船酔いか飛行機に酔っただけでしょ」
なんて非科学的な話でも盛り上がる。でも、この森を歩いていると、そんな未知なるパワーなるものもちょっとありそうな気がしてくる。
阿蘇とはまた違う、穏やかな雰囲気とでも言うのかな、人の気配が少ない森独特のスッキリした空気感がある。
屋久杉ランドからは宿へと行くのだけれど、そこは一番最初にたどり着いた港にあるので、戻らないといけないのだった。
途中、小さな鹿が道端で草を食べてるのを発見し、そっとバイクを止めて近寄るも逃げもしないで落ち着いて草を食べてる。
メスと子供?2匹いて子供の方は明らかに警戒してるけど、お母さんがゆっくりしてるのでそのまま一緒にいるって感じ。
かわいい
阿蘇で見かけた鹿はもっと一回り以上でかかった気がする。
オスの鹿とか、バイク乗ってて山で出会うと「襲われたら死ぬ」とか思ってしまうくらいでかいけれど、この屋久鹿は資料でみたように小柄でかわいい。
調子に乗って、みんなで鹿の前で記念撮影したけど、動じない。
みんな心得てて、声をあげずに、騒がずにテンションを上げている感じなので動きが怪しい。
あまり近づくと邪魔することになるので、適当に距離を空けて女子高生がぞろぞろ鹿についていくという光景が生まれ、道ゆく車の人なんかも写真撮影し始める。
人が増えてきたので私たちは邪魔にならないように立ち去り、猿が道を歩いてるのと遭遇したりもした。
目を合わせてはいけない
ヘルメット越しでも目を合わせるとバイクを襲ってくるらしい
とは以前ツーリングで屋久島を訪れた人のブログに書いてあり、目を合わせないように注意しつつ写真を撮る。
しかし、屋久杉ランドは途中も屋久島っぽくていいわ。
明日行く縄文杉には、この近くの荒川登山口というとこから登るらしいけど、私たちは欲張りセットをすることにして、白谷雲水峡から太鼓岩、そして縄文杉を目指すルートを考えていた。
なので、宿は安房ではなく宮之浦港の方にしていたのだった。
民宿タンポポに到着すると、私たちは離れに案内されバイクも近くに停めていいと教えられる。赤い建物がいくつかあって、それぞれに宿泊してる人がいるみたい。
グループで借りてる感じなのは私たちだけかしら。あとは家族連れって感じね。
「女子大生のツーリング、いいですね」
なんて言われながら、受付では高藤先輩が代表して名前を書いてもらうことにして。
その時に明日は縄文杉に登りたいという旨を伝えると
「では朝はお弁当作っておきますね」なんて言われ
「白谷雲水峡から登る予定なんですが」
と高藤先輩が答えると、宿の30代くらいの女性はちょっと困ったような顔をして
「そうなると、朝5時くらいにはそこに行かないといけないですね〜
まだ真っ暗ですけど大丈夫ですか?」
と聞かれ。まだ朝5時だと太陽が登る1時間くらい前だから危ないですよ、なんて話もされる。
そう言われると、なんか不安になってくる。
太陽が出てから移動するなら、普通に荒川登山口から行く方がいいとか。
そこで受付前のロビーで会議が始まる。他にお客さんがいないから
白谷雲水峡を翌日にして、太陽出てから移動するか。
1時間くらいなら暗い中でもなんとか移動できるかもしれないのでチャレンジしてみるか
翌日は私の用事があるため、白谷雲水峡に行くとしたら私が行けなくなってしまう。できれば、1日で回りたい。
でも、無理してみんな遭難してもねぇ。
そんな感じで悩んでいると、宿の人から「ガイドをつけてみませんか?」と言われる。
ガイドの人に任せると、ヘッドライトとか安全なルートとか、あといろんな面白いこととか教えてくれるのでいいですよということで。
ガイドさんがついてるなら安全かも。
という話になり、宿の人に紹介してもらえることになった。
宿の女性の知り合いが、明日ちょうど空いてるというのでその場で電話してもらい、明日の4時にここに迎えにきてくれることまで決まってしまった。私たちが4人なので車で迎えにきてくれるそうだ。
バイクで白谷雲水峡まで行くつもりだったので、ちょっと楽できてありがたい。
私たちには、ガイドを雇うという認識がなかったので宿の人に話をしてみてよかったわ。
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