第76話 父の妹
はるなっちたちと雪遊びしたことでいい気分転換になった。
母の家については、私にとってあまり関係ない話として片付けておきたいところ。
叔母さんも特に何か言ってなかったし。
従姉妹との関係は・・・これから考えればいいのかな。
従姉妹とか言われても全くイメージがわかないのでなんとも言えないし。
そんなことを考えている間もなく、次は父の方の妹さんと会うことになってしまった。こちらも叔母さんになるのだけれど。
母の方を「南阿蘇の叔母さん」と呼ぶことにして区別しよう。笹原のおばさんでもいいけど、名前の四葉叔母さんの方がいいのかしら。
そんな、多分親戚が普通にいるところでは気にしないとこかもしれないけれど。
私にとっては初めての叔母さんとの遭遇なので呼び方なども考えてしまうわ。
まだその辺が決まってないのに父の妹さんと会うとか。
どっちの妹さんかわかるように呼び方しないといけないわね。
さて、その日は私の家に、丸い輪っか4個並んだ青いワゴン車が迎えにやってきた。
これは弁護士の小泉さんで、熊本市内のホテルで会うことになったとかで、わざわざ迎えにきてくれたのだった。
「熊本市内をバイクで走りたくはないでしょう?」
と車の中で言われたが、確かに市内はいやだ。
信号多いし、熊本人は運転荒いし。
なにやら白い本革のシートとか、デザインのシックな室内とか。
みるからに「高そうな」車で土足禁止なのかと思ってしまうくらい。
側から見たら援助交際とか思われたらどうしよう。
とかつまらないことを考えてしまったりするけど、普通は親子よね。
学校はどうですか、とか。
小泉さんと父の関係とか、そんな話をしながら1時間くらい車に揺られる。
父がバンドを行っている時に専属の弁護士になったという話は聞いてたけど、なんで全国行脚してるようなバンドが東京の弁護士を付けなかったのか。
そこが私にも謎だと思ってたし、もしかしたら小泉さんにはすごい能力とかがあって、地方に住んでるけど伝説の敏腕弁護士とかなのかしら。
とか思ってたけれど、その理由がどうやらまた、家の関連と役割の関連らしいというのは話の端々で感じられた。
「お母さんの親戚の方と会われました?」
「この間母の妹さんと会ってます」
「色々とお話聞かされたでしょう?」
「はい」
という感じで話をするのだけれど、どことなく探りを入れてる感じがひしひしと伝わってくる。
「熊本には竜の伝説があって、日本の竜の頭の位置になっているという人もいるんですよ。フォッサマグナってご存知ですか?」
「日本に走る断層のことですか」
「ええ、その繋がりが九州ではここら辺から始まっているんですよ。なので頭だとか。それに、その近くでは恐竜の化石が発掘される白亜紀とかの地層もあって、それで竜が始まるところ、竜の頭、という話がくっついてきたということもあるようです」
へぇ、そんな話初めて聞いた。
化石が出てくるところは知ってたけど、御船とかだったかな?
小さい時に博物館に連れて行ってもらった記憶もあるし。
しかし、母の時も竜、父の時も竜の話、なんか、繋がりがあるのかしら。
車は有名なお城の見えるホテルに到着。
荷物などを下ろしたあとは、車はホテルの人が駐車場へと持っていき、荷物を持ってドアボーイの方が私たちの前を歩いていく。
なにこの対応。小泉さんてVIPなの?
頭の毛は薄いけど、どことなく上品な気配はあるから全体的にかっこいい渋い男性という雰囲気。
父と同じ年齢という話を聞いていたのでもう50歳近いのか。
いや、それくらいで毛髪が頭からいなくなるというのはまだ早いのではないか。
小泉さんのお高そうなスーツの背を見ながらそんなことを考えつつ後ろをついていく。
ホテルの受付でなにやら話をして、身分証とか見せてたりするけど。
そしてなにやら受付の人が確認し、ホテルの人が案内してエレベーターに乗り込む
「ここのスイートルームにいらっしゃるから、そこで話をすることになります」
と小泉さんは普通な感じで話をしてくるけど
スイートルーム?
なにそれ。そんな部屋が熊本のホテルに存在してるの?
ホテルの人の対応などを見ても、何か、父の妹さんって特別なお客様とかなのかしら。
会う前から緊張してしまう。
こんな時に高藤先輩がいてくれればいいけれど、今回は一人できてくれと言われたから仕方ないし。
一応、今日は少しいい服を身につけてきたのでまだ良かったと思う。
いつもの普段着でこんなとこに来てしまったら場違いも甚だしい感じになってたかも。
エレベーターが最上階に到着し、小泉さんはエレンベーターの扉を開くボタンを押し続けているホテルの方に軽くお礼を言って降りていく。ダンディーだ
私も会釈師降りると、さっとそのかたは二人の前に出てそのまま部屋まで案内してくれて。
その部屋は広い窓があり、熊本城がよく見える。
普通のホテルの部屋ではなく、どこかのマンションの一室のようにいくつか区切りがあり、寝室にダイニング、という分け方がされているようだ。
で、そのダイニングテーブルに、一人の品のいい小柄な女性が座っていた。
ぱっと見20代後半くらいに見えてしまうけれど。父の妹だから40代くらいかしら。
いや、歳が離れてるという線もあるわね。
などと外観でまず判断していると
「初めまして、秋彦の妹、冬美です」
あ、この家は名前に季節を入れてくるのか。
とかそんなことを思ったのは一瞬で、差し出されたてを握るのに精一杯になってしまい。
「わ、私は桜です」
と自分の名前を喉奥から絞り出すのに苦労した。
席に座るように促され、向かいの席に私が座り、その横に小泉さんが座る。
冬美さん。
髪の毛は少し長めのセミロングというところで、サラサラした綺麗な髪質をしている。若く見えるけど、雰囲気は落ち着きがあるので見た目と年齢は違うのかなぁ。
濃いワインレッドというのかしら、赤というより小豆色に近いスーツがおしゃれであり、さりげなく身につけている装飾品も品がある。
ピアスとか、絶対本物のダイヤだわ。
顔つきには、かすかに父の雰囲気があり、目から鼻のあたりはそっくりなのね。
短時間で冬美さんのことをさっと観察していると、ニコッと微笑まれてしまった。
焦って、背後の窓から見える熊本城に視点を移してしまう。
「今日は、冬美様より姪であるさくらさんとの遺産についての話になりますが、始めてよろしいですか?」
私たちの雰囲気を見て、小泉さんが話しを始めた、
遺産と言っても、私はすでにもらっているから、以前小泉さんから言われた成人になってからもらうという話についてかしら。
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