第75話 草千里でソリ遊び
「雪遊びに行くわよ!」
突然、はるなっちにそんなことを言われてしまった。
もう時期3月が近いとはいえ数日前に大雪が降りまた1日休校になったばかりなのに。
今更雪遊びに行くとは何事なのか。
今は学校の渡り廊下。
冬になると、休み時間に日向ぼっこをするために多く生徒が溜まってくるところ。
老人じゃないんだから、と思うけれどみんなタムロって特に意味もなく話をしてダラダラ過ごしてるって感じ。
私がたまたまそこを通りかかった時に、はるなっちに捕まってしまい。そのままそこでバイクの話になったのだ。
ちなみに、叔母さんとの会話については前回高藤先輩と打ち合わせした感じで伝えている。「へぇ、古い家って大変ね」とよくある返事が返ってきただけだった。
あまり家同士の話には興味はないみたい。それよりも、私の母がなぜ東京に行ったのかとか、その辺が知りたかったみたいだけど。
デザインの印象に竜を抑えるシンボルを組み込むため
とか話すと厨二っぽいしなぁ。
その辺は抜いてなんか話をしないといけない。
はるなっちが雪遊びを提案してきたのは、阿蘇山登山道路が通れるようになっていて、そのまま草千里までいくと真っ白な草原が広がっているらしい、と何かで見たからだそうだ。
ネットで阿蘇山を監視するカメラとかあるのでそれで見たみたい。
「雪の草千里とか、ちょっと見てみたいじゃない」
「道路は大丈夫なの?」
「昼にいけは凍ってないから大丈夫よ。次の休み、ヒナミも行くみたいだから一緒に行こう、高藤先輩も写真とか取りたいんじゃないかしら」
高藤先輩は、確かその日は大学の何かがあるとか言ってたのでその旨を伝える。
「じゃあ3人で行くわよ」
と言われてしまった。
世間一般では、2月はバンアレン帯の誕生日のような名前の、チョコレート業界の陰謀から生まれたバレンタインデーというものがあるが、私たちにはそんなイベントは関係なかった。
ただの2月14日が過ぎ去っていっただけ。
ヒナっち曰く
「海外では男が告る日なのよ」
はるなっち曰く
「チョコ配ってお返しにガソリンサービス券とかくれるなら考えてもいいけど」
なんて人達なので参考にならないのであった。
私としても、特に渡す人はいないけど。
その日の夕方にGSR125の田中くんがなぜか駐輪場偶然いた以外は何事もなかったような気がする。
男子はチョコをもらえる可能性とか期待してる気配もあったけど、そんな無駄金使えないわよ。
さて、その日になるとやってきたのはスーパーカブのはるなっちとデューク125のヒナっち。
「CB400SSは?」
私が聞くと
「スーパーカブの方が転びにくいし、もし路面が凍っててもなんとかなるかなと」
「それ、私はコケたら終わりじゃない」
「一応、路面は大丈夫だから大丈夫よ」
「って言いながら自分はスーパーカブなのね」
私にはスーパーフォアしかないから、これで行くしかないのね。
2台持ち、というのも用途に合わせて乗り換えられるので便利なのかもしれないけれど、そんな贅沢を高校生がしていいのかどうなのか。
そこで疑問が
「普段スーパーカブ乗ってない時はどうしてるの?」
「お父さんが移動するときに使ってる。CB400SSも畑やビニルハウスに行く時乗ってたりするし」
親子で共用しているならいいのかもね。
それなら2台あっても問題ないのかもしれない。そして、私が気になったのはスーパーカブの荷台にくくりつけられたもの。
「なにそれ?」
「そりに決まってるじゃない。ちゃんと3枚あるから喧嘩しなくていいわよ」
いや、そこまでガッツリ遊びに行くつもりだったんだ。
そういうことで、 防風、撥水効果の高いカーゴパンツとジャケットを身につけていくことにした。シューズから足元を覆うカバーもつけていく。
山に進むと、確かに道路は雪がすっかり溶けている。
ただ、標高が上がるにつれ左右が雪景色となり、草千里に到着すると、草原が一面の雪景色に変わっていてとても美しい状態だった。
駐車場にバイクを止め、そり持ってわーいと3人の女子高生が向かう。
雪の中を歩いている人達が数人いるが、そりまで持ってる強者はいないようだ。
「さて、誰も滑ってない斜面を制覇していくわよ!」
3人ともライダージャケットのまま。
膝近くまで雪に埋もれながら斜面を登っていく
「意外と雪残っているね〜」
ヒナっちがそう言いながら顔に何か塗ってる
私が不思議そうに見ると
「これ日焼け止め。天気がいいと雪の反射で赤くなっちゃうから」
「色が薄いと大変ね」
「こういうとこは母の血筋が強いのよ」
と言いながらぺたぺた塗ってる。私もちょっと女子っぽいと思って貰ってみた。
まぁ、塗ると冷たい風が肌を乾燥させるのを防いでくれそうな気がしないでもない。
今日は天気がいいので、青い空に白い大地が映えてて、眩しいくらい。
草千里の縁っこ、斜面のとこに登って、
「よし、いくわよ!」
とはるなっちが一番に滑り落ちる。
そして下で転がって2回転くらいして止まった。
大丈夫?
とちょっと心配してみてると、笑いながら起き上がってきて
「たのしー!」
とか言いながら斜面を這い上がってくる。
「よっしゃ、私も!」
とヒナっち。
うまく滑って転げることはなかったけどかなり遠くまで滑って行き観光客がびっくりしてる様子が見える。
私もいくぞ
実はソリで斜面滑るのは何年かぶり。
草のところでやった記憶はあるけど雪は初めてかも。
えい!
と滑ると雪がバサバサ飛んできてスピードが出て、そして視界が反転していく。
途中で転んでそのまま転がり落ちてしまった。
雪だから痛くない。
ライダージャケットだから痛くない
顔は冷たいけど、
「たのしぃ」
四つん這いで雪の中、じんわりとそりの楽しさを噛み締めてから。
それから何度もみんなで滑り降りてキャキャしてた。
すると、その楽しさに惹かれてきたのか香港から来たという観光客の人数人グループが、自分たちにもやらせてくれ、とかいってきたので(言葉わからないけど雰囲気で)貸してあげたら、
高そうなコートを雪まみれにして楽しそうに遊んでた。
そんな国際交流をしたりしつつ。
そろそろ疲れてきたな、と思ってたら家族連れの子供達が「やってみたい!」とか叫んでるのが聞こえたので、ソリを貸してあげ。
私たちは一旦コーヒーなどを飲みに駐車場に戻る。
その家族づれには、飽きたらあのバイクのとこに置いておいてください。と伝えておいたので私たちが店内で温まっていても大丈夫だろう。
レストランに入り、窓際の席で暖かい飲み物と、軽い食事をすることに。
はるなっちはココア、私はカフェオレ、ヒナっちはホットかぼすジュースというもの。
軽食をつまみながら、おばさんとの話についてと、今度父の妹さんに会う話をしていくわけだけど
「結局、家の同士のいざこざでお母さんの方は家を守るために破門されて。
お父さんの方は、破門はないけどあえて距離を取ってる行動をしたってことかしら。
そんなに家のしがらみに捕まりたくなかったのかしらね」
「ロックなバンドやってるんだから反骨精神あるんじゃないの」
とはるなっちとヒナっちはそれぞれ言うが。
言えない。
龍神を祀るとか、龍神を抑えるとか日本の国に影響があるような出来事だったとか、そういう話はとても言えないところだわ。
まぁ私自体もその話を信じているかと言われると、高藤先輩が言ってたような例え話として竜が出てるのだと思いたいとこもあるし。
この辺は、後日父の妹さんと話すときにわかるものなのかしらね。
そんなことを考えていると
「ね、春休みのツーリング計画とか立てようよ」
とヒナっちが言う
「まだ先の話じゃない」
「今から予定してないと宿とか空いてないし」
「いくならどこいくの?」
「南がいいよね」
「佐多岬?」
「離島とかいいじゃん」
とかそんな話をまったりとしつつ。
私としては、こんな感じでまったりのんびり、高校生活を送りつつ人生も平凡に進みたいものだと思うところだけど。
叔母さんの話聞かされると、なんか生まれながらにいて平凡ではないのかもしれないとか思ってしまうし。
「あ、あの人たちソリ返しにきたわよ」
窓から見ると、バイクのところにソリと、何かを一緒に置いていく家族の姿が見えた。
私たちも食事も終わり体も温まったので店を出ていくと、バイクには綺麗に雪が落とされたソリと
「ありがとうございました」
と書かれた紙と、みかんの入った袋がおいてあった。
「こういうことされると、ちょっと嬉しいわよね」
はるなっちはみかんを手に持ってにっこり笑っている。
「さて、もうすこし滑って帰りましょ!」
ということで、その後も誰も滑っていない斜面を探しては滑りまくり、観光バスの人たちからは手を振られ、1日を楽しく過ごすことができた。
たまにはこういうなにも考えないでただただ体使って遊ぶのもいいわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます