第68話 下阿蘇ビーチ
「高森峠はそこまでワインディング激しくなかったわね」
といいつつ缶コーヒーを飲んでいるここは奥阿蘇物産館。
国道325号線をひたすら走って到着したそこは、田舎の小さな物産館。トイレ休憩に寄ったようなものだけれど、お互いのバイクの調子確認の意味もある。
はるなっちは、CB400SSで長距離走るのが初めてなので念入りにバイクの様子を確認している。
ヒナっちは310GSの楽さ加減に感動しているようだったし。
「しかし峠越えるのは寒いわね。ネイキッドってこんなにモロに風が来るとは思ってなかった」
「平均速度も上がってるから、そりゃ寒くなるし」
「アドベンチャースタイルのバイクはこういうときいいわね」
「私がGS選んだのは寒さ対策もあったし、KTMデュークとかドゥカティ スクランブラーだと寒そうだったから」
「私のにもつけられるスクリーン探そうかしら」
「いっそカフェレーサーの弾丸カウルでもつけたら」
なんて会話をヒナっちとはるなっちがしているけれど、要は風よけがついてると楽という話なのだろう。
私としては、もうスーパーフォアに慣れてるので今更気にならないけれど。
「今まで私が先頭走ってたけど、ここからしばらくはヒナミが先頭、私が真ん中、桜が後ろ、でいきましょうか」
「次は道の駅 青雲橋までね、わかった」
こんな感じで、先頭を入れ替わりながら走っていくというところ。
3人で走るのは久しぶりなので、お互いペースを合わせていくのがちょっと楽しいし。
なんかツーリングしてる、って感じがあっていい。
それにしても、私たち以外に走ってるバイク見ないから、普通は真冬にツーリングしようとかしないものなのかしら。
途中、有名な高千穂峡とかその辺の横も通ったけど、あの滝みたいなのはどこで見られるのかしら。
道沿いにあるわけではないのね。
道はまっすぐで走りやすく、ついつい速度が出てしまう感じ。
でもスピード出すと寒いからみんな制限速度くらいで安全運転。そして、休憩にコーヒーなどを飲んで寒い中走るとトイレが近くなるから、道の駅ごとに休憩することになってたりする。
次の道の駅は、青雲橋という橋のふもとにあるのでその名前がついてる。
「なぜか、大きな橋の近くにはトイレとか休憩所とか駐車場があるのよね」
とはるなっち。
「昔は橋ができるだけで観光名所になったらしいから、その名残じゃない?景色いいし」
大きな渓谷にある橋は、上から眺めるだけでも景色はいいのだけれど。
昔は観光名所とかがそんなになかったから、橋程度で盛り上がっていたのかしら。
トイレは近くなるけど、ホットのコーヒーは譲れない。
そして、高千穂などを超えてくると段々と気温も暖かくなってきたかんじ。
ひと山越えたってかんじなのかしら。九州山地を横断する形になるから、宮崎に近づくほどに暖かくなるはず、黒潮に乗って太平洋の熱気がきてるはずだわ。
ここからは、私が先頭、ヒナっち、はるなっちという順番になる。
はるなっち曰く、ここから先に警察がよく張ってるらしく、速度違反を捕まえて有料のサイン会会場へと案内することがあるのだと教えてもらった。
有料のサイン会?
「速度違反の罰金払わせられる時に、切符にサインするからよ」
とヒナっちが教えてくれた
そこで、安全運転の私が先頭になったらしい。他の二人は「パワーがあるからついついスピード出したくなるのよね」などと言っているが。
いつもは原付二種に乗ってるからそう思うのだろうか。
この辺は「神話街道」とか名前がついてるらしく高千穂にある天孫降臨とか天の岩戸とかそんな神社なんかがあるかららしいけど、その先には特に何もないんじゃないかなぁ。
道の駅よっちみろ屋、というとこまで私が先頭で走ることに。
しかし、その道の駅は公式なのかしら。自称じゃないの?
そして気持ちよく走っていると、珍しく対向してくる数台のバイクとすれ違う、お互い「こんな寒いのに大変ですね」という気持ちでヤエーするのだけれど、その中の最後から走ってきたカウル付きの大きなバイク乗ってる人が、手を上にくるくる回しながら手を平にしてすれ違っていった。
くるくる パー?
そして、なぜかすれ違う車数台にパッシングを受け。
トンネル抜けた時にライト消し忘れてるとか思われたのかな。
バイクのライトは常時つきっぱなしだから消せないんだけどな。
と思いつつ走って緩やかな下りカーブを曲がると、道脇に機械の前に座ってるおじさんの姿が。
「あ、ネズミとり!」
咄嗟にアクセルを緩めて制限速度プラス10以内に落とし通過
あ、あのバイクのサインはこれか。
パッシングしてくれた人達も、これを教えてくれていたのか。
それにしても、下りの緩やかなカーブの終わりとか、一番速度乗ってそうなとこで捕まえようとするとか陰湿だわ。
しかし、みんな優しんだな。
対向車の人たち、バイクの人も教えてくれるなんて。私も阿蘇で見つけたら対向車に教えてあげられるようにしよう。
頭の上でくるくる手を回せばいいのかしら?
そんなこともありつつの目的の道の駅よっちみろ屋に あ、ちゃんと正式の道の駅なんだ。
そこでトイレ行って、コーヒー飲んで。
ここから先に、自動車専用道路に入るので、先頭ヒナっち、次私、後ろがはるなっち、となった。はるなっちは多少遅れるかもしれないというので後ろに着いたのだけれど、速度がどれくらい出せるか微妙だからとか言ってたわね。
しかし、見渡す限り宮崎ナンバーで自分たちが他所者だというのを感じてしまう。
ここからはひたすら高速道路ってかんじ。
風に負けないようにアクセルを捻り、一定の速度でブーンと走っていく。
背後から速い車来たらどうしよう、とかはるなっちが不安がってたけど、問題なく同じ速度で着いてこられているからよかったわ。
今の時期、宮崎に向かう車は少ないのかしら。
速度計を見ると、今まで出したことのない速度が出ててびっくり。ヒナっち、ちょっとスピード出し過ぎでは。
ここからジャンクション超えて「須美江インターチェンジ」まで進み。
そこから下道で海岸まで移動するのだけれど、インターチェンジ降りて海沿いに出た途端に、もう良さげな海岸とか普通にあるし。
椰子の木っぽいのが道沿いに生えてたりして、南国ってかんじだわ。
ちょっと寒いけど。
そして「道の駅 北浦」へと到着。
駐車場の片隅にバイクを並べて止めてヘルメットを脱ぐと、潮の香りが胸いっぱいに入ってくる。
江ノ島も海の香りがしてたけど、ここの方が軽やかな感じがある。田舎だからかしらね。
バイクを3台並べてみると、なかなかかっこいいのでちょっとスマホで撮影して。
分厚いライダージャケットとか来たままだと動きにくいので脱いでバイクに引っ掛ける。ウエストポーチに入れてた薄手のウインドブレーカーに上着を変えて、海岸へ移動。
それくらいで十分な暖かさだった。
ヒナっちもはるなっちも同じようにジャケットを着替えてる。
ライダージャケット着て海はちょっときついもんね。みんなそれ考えて薄手の上着は用意していたのだ。
今日は2月にしては気温が高いので運が良かった。
椰子の木のあるとこを歩きながら、物産館の裏にある下阿蘇ビーチへと進んでいくと、目の前に広くて白い海岸が広がり、その向こうには青く綺麗な海。
「これぞ海よ!』
はるなっちがそんなこと言いながら海岸へと走っていく。
砂に足を取られてたけど、海に近づくと砂が砂がしまってきて歩き易くなってるみたい。
「江ノ島行ったから、この白い砂浜の良さがさらにわかるんじゃない?」
ヒナっちがそんなこと言うが、確かに、灰色の海岸が当たり前と思っているとそれでいいのかもしれなけど、私たちはこちらの砂の色の方が海岸のイメージなのだ。
湾になっているので波が穏やかで、しかも遠浅らしい。
これは夏にまた来たいわ。
冬の海なので誰もいない。
もっと南の波の荒い海岸ではサーファーが集まっているらしいけど、ここはそう言う人もおらず静かなものだった。
家族連れがちょっといたくらい。
海沿いにロッジもあって宿泊もできるみたいだし。
「ここ、いいね」
私が言うと、はるなっちが
「いいでしょう。なんかいい海岸にも選ばれてるとか書いてあったわね」
すごいざっくりした情報。
でも、これだけいい海岸だったら何かに選ばれても当然だろうな。
いっとき、3人で海岸をぶらぶらしながら、ぼんやりしながら、カニを追いかけながら時間を過ごしていった。
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